幕間
黒猫のソラを拾ったのは近くの公園だった。いつもよりもカラスが騒いでいて、気になって見に行ったら、段ボールの中に捨てられた子猫がふにゃふにゃと動いていた。
そんなソラと過ごしてもう数年。
「ねぇ、この子全然懐かないよ〜」
「ニコ。猫ちゃんっていうのは自由気ままなの。ソラくんはあんまり撫で撫でや抱っこが好きじゃないのかもね」
「なによ〜、エサもらってくせに生意気な奴め」
黒猫のソラはプイッとそっぽを向くと私の腕の中から抜け出してキャットタワーの一番上に飛び乗った。
「おーい、私が助けてやったんだぞ〜恩知らずめ」
「ナーゴ」
ソラは私に言い返すみたいに鳴くと顔を洗い始める。恩知らずな猫だけど、やっぱり可愛くって顔を洗っている姿を夢中で動画に撮ってしまっている。そっけないくせにどうしても目が離せない。
「ニコにそっくりじゃない。ソラくん」
「え〜、私こんなにワガママかな?」
「あら、小学校の通信簿読み上げようか?」
「ママの意地悪〜」
【気分屋でよく授業をサボります。お友達は多くどんな人にも好かれる素敵な魅力を持っています。嫌いな勉強や苦手な給食が食べられるようになると良いでしょう】
「でも、ママは自分のやりたいことやりたくないことを行動に移せるニコはすごいと思うわよ」
うちのおばあちゃんは厳しい人で、小さい頃からママを厳しく躾けていたらしい。そのせいでママは高校でグレてしまって私を妊娠、おばあちゃんとは縁を切っている。そんな経験があるいせいか、ママは私を割と自由にさせてくれる。
そのかわり、限度を過ぎるとすごく怒られるけど……。
「高校、楽しみだな〜」
「そうそう、高校は義務教育じゃないから自由度は高くなるけれどその分責任も大きくなるからしっかりしてね」
「責任?」
「そうよ、中学まではいくらサボってても先生たちがどうにかしてくれてたでしょう? けど、高校は出席が足りなくなったら即留年だし道を外れたら退学。高校は無理やり行かされるところじゃなくて行きたい人が行くところだからね」
「へぇ〜」
「でも、ニコが行くところは公立だからメイクとかネイルとも大丈夫かもよ?」
「それはテンション上がるね。ママ、お小遣い」
「はいはい、初期投資は出してあげるけど後はバイトして買うのよ?」
「はーい。じゃあ今度ママがコスメ買いに行く時連れてってね」
ママの良い返事を聞いて私は心がワクワクした。中学校はメイクが禁止だったし可愛くなれるのはすごくすごく好きだから、一気に楽しみになった。
「彼氏とかもできちゃったりして? やーん、ちゃんとママに紹介してね?」
「彼氏かぁ……どんな人を好きになるんだろ?」
「そうねぇ、やっぱり自分と同じタイプの男の子がいいんじゃないかしら? 猫ちゃんみたいな男の子」
自分とおんなじタイプの男の子かぁ。
ソラがぴょんとキャットタワーから足音を立てずに降りるとママの膝の上に丸くなった。
「えぇ〜、私。ソラに懐かれてないのに?」
「猫ちゃんはね、おトイレやご飯のお世話をしてくれる人に懐くのよ」
ママの膝の上で気持ちよさそうに撫でられるソラは別人……別猫みたいだ。私には抱っこされないくせに……。
「なんか妬けちゃうな〜」
「ソラくんは男の子だもんね〜。ニコも好きな子ができたらたくさんお世話を焼いて懐いてもらうのよ」
「高校入ったら彼氏ほしいなぁ〜」
「ふふふ、ママも楽しみだわぁ。ニコはどんな男の子を連れてくるのかしら?」
***
高校の入学式、それなりにお友達もできたしなんだか私は目立っているようだった。ママ譲りの猫っぽい顔は自分でも自慢だったけれど、高校に入ってからかなり褒められることが多くなった。
メイクのおかげかな? それともやっぱり、高校生になるとみんな恋がしたいのかな〜? なんて考えていた。
「ニャコ〜、来るの遅いよ〜。今日、お昼のあと全体集会だって」
「私、部活やらないしパス〜」
「りょ〜」
初めてのサボりは全体集会だった。
まだ、サボりスポットも見つかってないし、安心安全に教室でサボろうかな。
「あ、ここの鍵あけとこ〜」
「教室でサボるあるあるじゃん、さすがニャコ」
「みんなは全体集会でるの?」
「ウチらは部活入るし出よっかな」
「そっか、じゃ〜お昼寝しとくわ」
「まじ、めっちゃ猫じゃん」
しっかりとサボりのための準備を欠かさない。だって、サボるのって結構要領がよくないとできないことだ。こうやって、安全にサボれる場所を手に入れるために細かい作業をするのだ。
私は事前に開けておいた教室の地窓を四つん這いになってくぐった。誰もない、鍵のかかった密室でたっぷり日向ぼっこでもしよう。
——だれも……
誰もいないはずの教室で、机に伏せて眠っている男の子がいた。入学後からずっと1人で静かにスマホを見てる、ちょっと変わった男の子だ。
そうねぇ、やっぱり自分と同じタイプの男の子がいいんじゃないかしら? 猫ちゃんみたいな男の子
ママの言葉がふと脳内に浮かんで、私は、目の前ですやすやと眠っている男の子に興味が湧いた。
「君は猫ちゃんなのかな?」
小声で囁いてみても、彼は一向に目を覚まさない。前の席にすわってじっと見つめてみる。その寝顔はまだ幼くて、可愛い。
「なんか、ソラくんに似てるかも……?」
ツンツンとほっぺをつついてみると、彼は「んっ」と不愉快そうに顔を歪める。
「君は私と仲良くしてくれる……かな?」
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