第7話 社怪人① なしてここに穴が・・

 昭和53年4月、長崎の田舎育ちのシゲルくん、東京のど真ん中に本社がある土木会社に入ってみたものの、社会人はじめての赴任先がまさかの東京支店となり、ただただ人の多さと目まぐるしい1日に緊張の連続でした。不景気だった業界はようやく今後の仕事量が増えるだろうと予想し、同期は女性含めて60人を超えていて地方出身が多かったです。

 先輩たちといえば、不景気で数年求人がなかったので、新人にとっては学校の先生みたいなオジサン(やや失礼?)ばかり、こき使われつつも飲み代はおごってもらっていたので、面白い環境ではあったのです。大学卒の初任給が、だいたい10万円弱くらいだったころです。

 社会人となってからの’おちたはなし’は、少々違っていて、本人も戸惑うばかりだったと思います。


怪奇現象①

 シゲルくんが入社し4,5年経ったころの、最近話題のダ埼玉県の工事現場での出来事です。特殊な部類に入る会社の中でも、更に特殊な工事を担当する課に配属されていて、大規模な共同溝の本体壁が目的で地中約20m位まで、カニのはさみに似たクレーン式バケットで掘削し鉄筋かごを建て込んでから、生コンクリートを打設して連続した壁を造り上げる仕事だったのです。職員が3名、オペレーターが3名、作業班が鉄筋組立5名、手元作業員5名くらいの大所帯で現場近くの一軒家(空家)に間借りして、仕事していました。


 その日は日曜日で現場作業は休みだったので現場には人影はありませんでした。ただシゲル君は、その日が安全当番となっていて、午前と午後の定時に現場内の安全点検のための巡回をする役目を任されていたのです。現場は休耕田あとの広く平らな地盤で、大型の機械足場の安全を確保する目的で敷き鉄板を置いてあったのですが、数日前からの雨降りでやや泥沼化していて、いつもの長くつを履いていても本当に歩きづらく感じていたのです。

 そして、昨日終了した場所の近くで、足場や機械付近に異常がないことを念入りに確かめていたところ、次の瞬間、身体全体がフワッと軽くなり重力を感じなくなったのと同時に、目の前に泥水がぴちゃぴちゃと波打っていたのです。ん!と感じたとたん、ハッキリとその理由が判明した。降り続いている雨の普通の水溜まりと思って足を踏み入れたところが、何と昨日掘り上げた場所と次の部分とのつなぎの部分で、直径60cmの円形の深い穴が開いていたのを完全に忘れてしまっていたのです。普通に地面が乾いていれば、コンクリート製の溝が確認できるので、落ちるはずがない部分だったのです。

 梅雨入り後ではあったが、頭のてっぺんからつま先まで全身泥水でびしょ濡れになってしまい、寒いし恥ずかしいし慌てて宿舎に戻り仲間たちに笑われながらも、風呂に入り着替えたのである。それ以後はキチンとバリケードで平板でカバーするようしたので、誰も落ちることはなかったみたいです。


  

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