第11話 乙女。

 とはいえ。

 今のところ私たちの歌は、酒場のお客さんや子供たちが楽しいだけ。

 ランチのアルバイト、夜とかにできればこんな機会もあったのかな。そんなことを考えたりした。

〈福〉なんて。そんな大きな話になるものかしら。

 今のままでいいんだけど。暮らしていけるし。


「エドモンドねえ、悪くないわよ」

「そそそそそんな、どうしたのよリンナ」


 急にどうしてそんな話?

 私は赤くなってたかもしれないけど、べべべ別になにも恥ずかしいことなんてないんですし!


「ほら、親切じゃない。あたしみたいな得体の知れない異世界人にさ、〈福〉もよくわからないのに」


 たったひとり

 私は空から降りてきた

 きっとあなたに出会、


 いけない、緊張するとポエムが頭の中に!

 あとでまた昇華しないとね。


「サツキ!」


 噂をしていたら、そのエドモンドが来た。


 私ったら、まだ寝起きみたいな格好! 

 エドモンドときたら、顔は洗ったばっかりみたいですっきりしてるし、髪もつやつやの栗色だし、酒場兼宿屋の息子だから身だしなみもできてるわ、やだ、見ないでほしい!


「表を見て!」

「え?」


 窓の外には、たくさんの人がいた。


「サツキ様! リンナ様!」


〈様〉?


 私とリンナは顔を見合わせた。


「君たちの歌を聴いて、病気や怪我が治ったという人たちだよ」

「……なんですってえ?」


 わたし。

 あなたのことを想って。

 あなただけを見て。

 いつも。

 ……弾いていたのよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る