第5話 ノート

お別れの時をまだ思い出すの


体育館で、あなたの背中を追いかけていたの……


私は遠くの寮で、今日もあなたのことを考えてた


あなたはまだ、時々は私のことを想い出してくれているかな?


   ◆


 あたしたちは天井裏へ梯子というか脚立を使って上がり、脚立自体も引き上げて上り口の蓋を閉め、LEDライトを付けた。

 浮かび上がる四人の顔。


「よく、最初のページで燃やされなかったね」


 まず、〈入寮式〉のときに天井裏から出てきたというノートを検証した。

 一ページ目。なんてことないこそばゆい片想いポエムだった。


「そこだけなら、私たちもいつものアレ、てことで、笑って燃やして供養していたはずなんです」


 供養、かあ。なんかわかるわ。

 感心するの、そこじゃないな。


「まあ。表紙の裏に名前があったら、そりゃあねえ」


 なんと、秘密のポエムが書かれていたそのノートには持ち主の名前が書かれていたのだ。正気か。

 さらに、その名前が問題だった。


「〈城戸橋きどはしサツキ〉」


 当時、高等部三年への進級を控えた二年生。

 春休み中の帰省直前に姿を消して、現在も目撃情報がないか呼びかけているところだ。そういえばさっき、寮の入口にも写真があったっけ。


「でもね。私たち、天井裏に行って、指定された場所のお菓子だけ拾って戻って。

 ノートのことは黙っていたんです」


 その理由は。


 滝川さんは、ノートをそのままパラパラとめくっていく。

 最初のポエムから数ページは、同じようにポエムなんだけれど。


 途中から、明らかにおかしいのが、あたしにもわかった。


「これって」

「何かが城戸橋先輩に起こったんです」

「城戸橋先輩、田谷さんのお家でバイトしてたんでしょう?」


 北さんが、ほんわかと訊いてきた。


「うん」


 あたしの家は、県内で三店舗を展開しているカフェだ。

 そう、バイトの城戸橋さんがあんまりいい人だったので、両親がF女学院受験をめちゃくちゃ推してきたんだわ。

 行方不明になってから、うちでも写真を貼っているけれど、今のところ何の情報もない。


「そのうえ城戸橋先輩がいるから、って、矢口が入り浸ってて」


 気づけばあたしは入学前から矢口と仲良くなってた。


「学校の外での先輩のことを知っている。そこを見込んで今日は思いきって田谷さんをお呼びしたんですよ」


 あたしはまた、城戸橋さんのノートを見る。 


〈どうして? どうして? どうして?〉


 取り乱したような走り書きが、そこにはある。

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