第4話 ヒノカミヒメ

 夕闇に包まれつつあった世界に顕現した太陽の化身かと見紛う大我の神々しさに、スカイガンナーもクリプティッドエヌも口にするべき言葉を見つけられなかった。

 相性の悪さから怪鳥を撃破する決定打の無かった二人にとって、光り輝く剣の一振りで怪鳥を蒸発させた大我の力は、素直に感謝するにはあまりに強大すぎて、心が恐れ戦くのを禁じえない。


 原初の世界において、各地の人々が超常の存在と対峙した時に抱いた感情は、きっと今の二人と同じものだったのではないか。

 だから、思わず二人がザンアキュートと同じように畏怖と畏敬を込めて、女神かと思ったのはむしろ自然なことであろう。


 さてザンアキュートから続いて、この二人にまでそう思われていると知らぬ大我は、初めて見たアラビアンナイトのロック鳥もかくやという巨大な怪鳥を倒し、二人を助けられた成果に大いに安堵していた。

 助けに行ったが間に合わなかった、なんて結果はたったの一度だってごめんだ。たとえその対象が孫娘である燦でなくとも、当たり前の話である。


「お嬢さん方、怪我はないかい? 調子の悪いところは? 具合が悪いんなら病院まで運ぶぜ」


 口調を矯正する意識が欠片もない大我の伝法な口調も、二人の抱いたイメージを損なうことはなく、スカイガンナーもクリプティッドエヌも見知らぬ魔法少女への警戒心を忘れて答える。


「いいいい、いやいやいや! 元気ピンピンっス! 助けてもらってありがとあっす!」


「おう、元気なら何よりだ。そいつが一番ってもんさ。そっちの虎っぽいお嬢ちゃんも平気かい?」


「ウッス。平気っス。隣の半分戦闘機と同じで元気ピンピンっス」


「お前、それ、あたしの真似か!? 恩人相手なんだからふざけるのは止めなよ!?」


「いや、なんか、変に緊張しちゃって。テヘペロ」


「誠意が欠片もねえ! 世界で一番嬉しくねえテヘペロだよ!」


 大我の前だというのも忘れて声を荒げて漫才めいたやり取りを続ける二人に、大我はこの姿になってから久しぶりに愉快な気持ちになって笑った。

 九死に一生を得た、に近しい状況だったのだが、この二人の精神的なタフネスは大我が思っている以上のものであるらしい。


「ははは! 仲が良いんだな! それに本当に大丈夫そうで安心したぜ。悪いがあのことは任せていいかね? 今もどっかで助けを必要な子が居るかもしれんし、そうでないなら俺もちょいと野暮用があるんで戻らにゃならん」


「ほー。お引越しかなにか、したばっかで?」


 少し調子の戻ったクリプティッドエヌの質問だったが、それよりも聞くことがあるだろうとスカイガンナーが声を被せてくる。


「それよりも他に助けを必要なってところに食いつけよ! えっと、オレらんことも、どっかで助けが必要だって見ていたか、聞いていたんスか?」


 返答に困る質問をされてしまって、大我は自分の口の軽さをちょっと後悔した。

 とはいえ戦闘経験で言えば目の前の二人の足元にも及ばない一般人だった彼に、転生から一日と経過していない状態で、そこまで気を回せというのも無理な話であろう。

 政府機関のサポートと長年の魔法少女達の戦いによって、様々なノウハウの蓄積されている彼女らと違って、大我は力を与えられて生き返らせてもらったはいいが、それ以降のフォローもサポートもありゃしないのだから。


「……おう、まあな。それじゃ、俺は早く帰らないといけねえから、二人とも寄り道しないでまっすぐに帰んなよ! 達者でな!」


 二人の返事を待たず、大我はこれ以上話をしてボロが出ないうちにと、そそくさとあの小さな社を目掛けて降下を始める。


「ちょちょ、せめて名前ぐらい教えてください! 俺はスカイガンナー!」


「あたしはクリプティッドエヌでっす。お姉さんのお名前、教えてくださいな」


「名乗るほどのもんじゃねえさ。次に会う時は戦いの中じゃねえといいな。今度こそ本当にさようならだ! 健闘を祈るぜ」


 あまり考えの及んでいないところが散見される大我だが、彼女達の見ている前で鏡を使ったワープを使えば、今後の自分の動向が掴まれやすくなると危惧するくらいの考えはあった。

 降下中に再びステルスを起動し、スカイガンナー達の視界から完全に見えて、更にはプラーナ探知からも完全に消える。大我の願望をすんなりと叶えてくれたシロスケには感謝だ。


「うお、消えた!?」


「すごい。戦闘以外にも多芸なんだ」


 驚く二人の声を聞きながら、大我は兎にも角にも今回のミッションは終了だ、と肩から重荷を下ろした気分で鏡の中に飛び込むのだった。

 またあの小さな浮遊感を体感し、今度はつま先からゆったりと社の中に着地する。

 とん、と軽い音と共に降り立ち、顔面からダイブしないで済んだ大我は、ぐるぐると肩を回して戦闘後の体の調子を確かめる。


「俺の方もおかしなところはなさそうだな。かなり力を振るったと思うが、倦怠感や疲労はなし、と。魔法少女はプラーナを消費して戦うって話だが、アレぐらいの使い方なら俺は問題なしか。

 どこまでやれんのか、余裕のあるうちに確かめとかねえとなあ。いざ助けに行って調子に乗って戦ったら、ガス欠で足手まといになるなんてのは、笑い話にもなんねえ」


 とりあえずこれから先も魔法少女が窮地に陥ったなら、助けに行くのは確定事項だ。そうなると助けに行く側の大我が自分の状態を万全に整えておかねばなるまい。


「とりあえず衣食住か。とりあえず雨風は凌げるが、風呂もトイレもないし、水は……本来の用途とは違うが、手水場の水でなんとかなるか?

 今のところ、喉は渇いていないし、腹も空いていない。燃費はいいみたいだが、明らかに神道モチーフだよな、この体。食べ物も選んで食べないと、こう、穢れが溜まって力が落ちるとかありそうで怖いな。

 なんだっけ、生臭とか血は駄目なんだよな。神社へのお供え物を参考にして、食べるものを選べば大丈夫か? 図書館に行って神道関係とサバイバルの本を借りてくるかね」


 とりあえずはこの神社の周囲の調査と、それから廃墟と化した無我身市で物資を調達しようと大我は当面の目的を設定し、行動に移る。とりあえず体を動かせば余計なことを考えずに済む。

 魔法少女を助ける為にも、まずは衣食住を充実させないといけないとは、いやはや、大我にとってまったくの予想外もいいところ。とりあえず大我は神秘の極みのごとき美貌のまま、途方に暮れた。



 大我がどうにか前向きに未来に向けて、あるいは目を背けて現実逃避気味に衣食住を充実させようと動き出したころ、彼女ではなく彼によって助けられた魔法少女達と彼女らを管理・統括している政府機関はすでに動き出していた。

 人口密集地に出現する傾向のある魔物災害を避ける為、現在、日本は北海道、東北、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄の各地域に首都機能を持った都市を拡散し、東京が壊滅した場合に備えている。


 日本に限らずプラーナ技術の発達と繁栄に伴い、拡大化の一途を辿る魔物災害は世界各国、例外なく平等に発生しており、各国も同じ措置を取っている。

 さてそのようにして日本各地に点在する首都機能付随の都市に、各地を守護する魔法少女達を統括する政府機関の支部が存在しているのは、自然な流れだ。


 スカイガンナーとクリプティッドエヌが大我に救われた数時間後、夜半の時刻に魔法少女を統括する『特異災害対策省』通称『特災省』の支部の一つで、未登録の新しい魔法少女、すなわち真上大我に関する会議が行われていた。

 参加者はザンアキュートと特災省の担当官、リモートで参加しているスカイガンナーとクリプティッドエヌ、更に魔法少女達を見出した妖精の姿もある。

 なお魔法少女達は全員が変身を解除していて、ザンアキュートは通っている中学校の制服姿、スカイガンナーとクリプティッドエヌは高校の制服姿だ。


 広々とした会議室で今回の会議を招集した特災省の役人が音頭を取って、会議を始める。

 シンプルな仕立ての良い灰色のスーツで身を固め、青いYシャツに緑色のネクタイを締めている。黒髪をきっちりと七三に分けて固めた、痩せぎすの男性である。年齢は三十代前半だろうか。

 生塩旗門うしおきもんと言い、ザンアキュートを含む無我身市や四季彩市の周辺都市を守護している魔法少女達の担当官である。


「それではザンアキュートさんが初めに遭遇し、そしてスカイガンナーさんとクリプティッドエヌさんが接触した未登録の魔法少女』について、情報共有と今後の対応について話し合いを始めましょう」


 生塩が手元のタブレット端末を操作して、全員がついている楕円形のテーブルの中央に立体映像が浮かび上がる。大我の二戦目、富士山上空で行われた戦闘を遠方からドローンで記録していたものである。

 ステルスを解除して、ワープでもして出現したように大我の姿が現れ、更に首飾りからいくつもの勾玉が高速回転しながら発射される姿、光り輝く剣を振りかぶり、ジャンボジェット機並みに巨大な怪鳥を一刀両断に斬り捨て、更には消滅させるまでの圧倒的な力がそこに収められていた。


「スカイガンナーさん達が交戦した魔物は二級相当の個体として認定され、個体名称『死喰鳥しぐいちょう』として登録されました。

 外付けの再生手段を保有し、大質量の巨体を誇る当該個体を一撃で消滅させた魔法少女については、特災省のデータベースに該当者は居ませんでした。

 あれだけのプラーナを保有するとなれば、最低でも一級相当の実力者ですから、データベースに登録されていないのは不自然です。これまで極めて厳重に隠蔽されていたか、それとも本当につい最近、活動を始めたかの二択でしょう」


 魔物は保有するプラーナの量によって、等級を割り振られて、その危険性を分かりやすく示している。

 最上位の危険性を示す特級は国家存亡クラスを意味し、国家に所属する魔法少女の全投入をもって対処するべき緊急事態だが、幸い、半世紀近い魔物災害の中でも両手の指で足りる程度の発生事例しかない。

 続く一級にしても、戦略級の超ド級戦力だ。エースやベテランを含む魔法少女を二桁以上投入しなければ、撃退は極めて困難とされる。


 そしてスカイガンナー達の相対した二級は、単独で百万人が暮らす大都市を瞬く間に灰塵に帰する殺傷能力ないしは特異な能力を備えている場合に割り振られる。

 相性の良し悪しを抜きにしても、スカイガンナーとクリプティッドエヌクラスの魔法少女ならば、最低でも五人は数を揃えて対処したい。


 幸いなのは魔物のほとんどは新人の魔法少女が単独で撃破しうる四級と、経験をこなした魔法少女が戦うべき三級が占めていることだろう。

 そして二級の死喰鳥をただの一撃で消滅させた大我の戦闘能力は、日本に所属する魔法少女達の中でも間違いなくトップクラスだ。

 改めて大我の戦闘能力の高さを確認したところで、旗門の垂れ目の視線がザンアキュートに移る。魔法少女姿を解除した彼女は、顔立ちこそ大きな変化はなかったが、髪の色が黒一色となり、きっちりと着込んだ制服と相まって清楚な佇まいだ。


「それと記録映像などは残っていませんが、ザンアキュートさんも彼女と遭遇し、助けられたと報告されていますが、その時の状況を改めて教えていただけますか」


 自分の子供、というにはいささか年が近いが、それでも一回り以上年下の魔法少女達に対し、旗門の態度は敬意と誠意を土台とした丁寧な物腰だ。

 年端もゆかぬ少女達をそれしか術がないからと、命懸けの戦いを強要し続ける罪悪感と無力感が、そうさせているのかもしれない。


「はい。私が無我身市に出現した二級魔物『鎧王鬼がいおうき』とその眷属である三級魔物『鎧将鬼がいしょうき』十二体と交戦し、鎧王鬼ならびに鎧将鬼十一体の撃破に成功したものの、一体を残してプラーナが尽きてしまいました」


 二級一体、三級十一体を撃破した、というザンアキュートの報告にスカイガンナーとクリプティッドエヌは軽く頬を引き攣らせる。

 二級一体を倒すのも困難な二人に対し、目の前の少女は二級一体なら問題なく勝てる戦闘能力を有しているのは明らかだった。

 大我はてっきり鎧将鬼を相手に追い詰められていたと勘違いしていたが、実際の彼女はより上位の鎧王鬼とその他の鎧将鬼十一体を撃破し、消耗していたからこそ窮地に陥っていたわけだ。


「最後の鎧将鬼に止めを刺されそうになったその瞬間に、あの方・・・が私の窮地を救ってくださったのです。

 怒号と共に放たれた蹴りで鎧将鬼に風穴を開け、そのまま空を覆う雲にすら大穴を開けて、あの方は私の身を案じてくださいました。ただ、御尊名を教えてはくださいませんでしたけれど……」


 心からの懊悩を込めて溜息を零すザンアキュートが、明らかに大我に入れ込んでいるのが分かるから、スカイガンナーとクリプティッドエヌはお互いに顔を見合わせた。

 彼女達も大我には大きな恩を感じているが、流石にザンアキュートほどのめり込んではいない。

 旗門はそんなザンアキュートの態度にはあえて触れずに、あくまで情報の共有と精査を目的とした会議を淡々と進行する。ある意味、図太いと言えるだろう。


「ザンアキュートさんの証言を含めて、かの魔法少女は一級の魔物を相手にしても単独で撃破可能な戦闘能力を有していると推測できます。我々の管理下にない状況は、彼女自身にとって不利益に働く可能性があります。

 可能な限り早期の接触と交流を図るべきというのが、特災省全体の判断です。ただ無我身市でザンアキュートさんを助け、その日のうちに富士山に姿を見せたことを考えると超高速での移動能力か、あるいは転移能力のような魔法を所有していると考えるべきでしょう。

 加えてステルスのような魔法を所有している可能性もありますし、そう簡単に事は運ばないでしょう」


「いや、でも、本当にあたし達を心配してくれていましたし、いい人だと思いますよ!?」


 リモート画面の向こうでスカイガンナーが思わず声を大きくするのに合わせて、隣の画面の中でクリプティッドエヌも首を縦に振って、同意を示す。

 命を救われたというシチュエーションもあるが、あの時、大我から掛けられた言葉には確かに自分達を案じ、無事を喜ぶ響きが含まれていたと確信している。


「私もスカイガンナーさんの意見に同意いたします。あの神々しいまでのお姿と威光を纏うあの方は、我々のような俗人とはかけ離れた次元で動かれているに違いありません。私達の視点で推し量ろうとしても、その真意の影を掴むことさえ叶うかどうか……」


 本気でそう思って口にしているらしいザンアキュートに引きながら、スカイガンナーはクリプティッドエヌとひそひそと言葉を交わす。


「あの子、なんかこう、熱量というか、重さが違くない?」


「ズンドコの重さ」


「なにそれ? いや、でも、そんな感じだわ」


「JMGランキングが高いとソレに伴って変人になるのかも」


「……かもしれねえな」


 JMG=Japan Mgical Girlの略称であり、日本魔法少女ランキングとも呼ばれる。

 日本国に所属している百名超の魔法少女達の対魔物戦に於ける能力の高さをランキング付けしたもので、ザンアキュートはランキング七位の猛者である。

 中学生ながらランキング上位に名前を連ねるザンアキュートは、同じ魔法少女達からの注目度が当然ながら高い。


「いずれにしろ我々は誠意をもって、彼女に信頼されるよう行動しなければなりません。その為には少しでも彼女の情報が欲しい。フェアリヘイム側に彼女の情報は入っておられませんか? アムキュさん」


 旗門にアムキュと呼ばれたのは、ザンアキュートの右肩の上あたりに浮かんでいる妖精のことだ。三十センチほどの小動物風の姿をしている。猫と犬と兎と、どれとも似ていて、しかし違う不思議な姿だ。

 星が瞬いていそうな黒いつぶらな瞳に、小さな鼻、耳は丸く大きく、白い毛並みの中で赤く染まっている。手足は短いが、尻尾は長くふんわりとしている。毛先は丸く整っていて、ネコ科のそれに近い。


「フェアリヘイムにもその子の情報はないっきゅ。僕達にとっても未知の女の子で、名前もわからないっきゅ。一応、フェアリヘイムの女王様にもお伺いを立てているけれど、分かるかどうかは……」


 しゅん、と分かりやすく落ち込むアムキュの姿はいかにも魔法少女のマスコットらしい姿だ。

 彼ら妖精とフェアリヘイムと呼ばれる異次元に存在する国家、それがプラーナ技術を発展させた地球各国に、魔法少女という魔物に対抗する為の剣を与えた者達だった。


 フェアリヘイムから派遣されたエリート妖精達が、魔法少女としての高い適性を有した少女を見つけ出し、特災省を通じてスカウトを行っている。

 稀に魔物やその他の災害や事故の現場に居合わせて、その場で契約が交わされる例も稀にあるが、まず合意の上で魔法少女となる。

 基本的に妖精は一体で複数名の魔法少女を担当し、魔法少女としての魔法行使やプラーナ制御技術の教導の他、メンタルケアなども行っており、また各国政府のプラーナ技術の開発にも携わるなど多忙を極めている。こんな見た目をしているが、非常に優秀なのだ。


「私の記憶に間違いがなければ、妖精に認められずに魔法少女になった例はただの一つもなかったはず。もしフェアリヘイムに彼女に該当するデータがなかったとしたなら……」


 顔色を変えずに口にする旗門に対して、アムキュはと言えば感情を隠すすべを知らないようで、はっきりと慌てた様子を見せる。


「もしその通りだとしたら、妖精を介さない魔法少女化技術が開発されたって事になるっきゅ。妖精以外の生き物と契約したのか、それともプラーナを制御する技術を発展させて、魔法少女化を成功させたのかは分からないけど、どっちにしろそれは凄いことっきゅよ」


「ええ。それも極めて強力な魔法少女の実装に成功したことになる。どこの国、あるいは組織にそれが可能か。総力を挙げて調べますが、そう簡単に尻尾は掴めないかもしれません」


「きゅう……」


「アムキュも旗門さんも落ち込んでいるところ悪いですが、あの方なら無意味に、無軌道に、理不尽に暴力を振るわれることはないでしょう。

 あの天を従え、地が膝を着き、海が額づくかのような威光を放つ、太陽の化身のような方は、きっと魔物との戦いに楔を打つ為にその姿を現しになられたに違いありませんから」


 この世の真理であると言わんばかりに自信満々に断言するザンアキュートを前にして、旗門とアムキュはひそかに視線を交わした。これはヤバい、と無言でお互いの意見を交換する。

 もとから真面目で思い込んだら、こうグッと突き進む傾向のあるザンアキュートだったが、大我のファーストインパクトの威力があまりに強すぎて、価値観の根底に大我が刻み込まれてしまったらしい。まったくもって罪な祖父である。


 別の意味で困った事態になったのを認識し、旗門は新たな頭痛の種が埋め込まれたのを認識し、口の中で溜息をなんとか堪えるのに成功する。

 それからザンアキュートの妄信的な主観の混じった大我に対する印象や情報の他、そんな姿を見て冷静になったスカイガンナーとクリプティッドエヌからの客観的な意見が伝えられて、少しは情報収集が捗ったのは不幸中の幸いである。


「では、今後も例の魔法少女仮称『ヒノカミヒメ』について情報収集と友好的接触を第一に……」


 会議を締めようとした旗門の言葉を遮ったのは、ヒノカミヒメこと真上大我が日本国内に出現したのを知らせる、緊急通信のアラームだった。

 今も会議室の中央に浮かんでいた立体映像が切り替わり、そこに無数の兎型の魔物を相手に大暴れ中の大我の姿が映し出される。


「場所は、青森か。日本中どこにでも姿を見せるというわけですか」


 旗門が映像の送信元を確認した時には、映像の中の大我は、胸元の鏡から無数の光線を発射し、更にその雨のような光線をすでに射出していた勾玉をリフレクター代わりに乱反射させて、効率的に一千を超える兎型の魔物を抹殺していた。

 瞬く間に分裂して数を増やし、圧倒的な物量でプラーナを食いつくす準二級兎型魔物『餓鬼兎』の群れを瞬殺する大我の勇姿に、ザンアキュートは恍惚と見惚れていた。


「ああ……本当に、美しい」

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