第17話 SNSの反応

 その後俺たちは何とか無事に駐車場まで降りてくることができたのだが、その時にはもう日は暮れかけていた。


 全員戦いに巻き込まれたこと、そして襲われたからとはいえ、野犬とイノシシを殺してしまったということにショックを受けていた。


 陽菜さんはさすがにそこから山道を運転して帰る気力はないようで、俺の両親、それと、彼女たちの両親に迎えに来てもらうように連絡を取った。

 三姉妹は彼女たちの両親の車に、そして俺は俺の父親の車に乗せられて、家に帰り着いた時には日付が変わっていた。


 ちなみに陽菜さんが運転してきた軽自動車は、彼女の母親が運転して帰った。

 もちろん、俺は車内で両親から

「お前がついていながら、なぜこんなことになったんだ」

 と散々叱られたことは言うまでもない。

 後から聞いた話ではやはり三姉妹もみんなかなり怒られたようだ。


 残念ながら、この一日が楽しいだけの記念日とはならなかった。

 だが、俺と日向子にとって、今までの一生で一番印象深い日になったのは間違いなかった。


 それから約一週間、何事もなく無事過ごすことができた。

 彼女たちの別人格も現れてきてはいない。

 倒した化け物についても、あれはそういう個体であって、他に動物に取り付くような邪鬼は存在せず、復活にはまた千年ほどかかるだろうという話だった。


 動物に取りつくことしかできず、またその動物以上の力を引き出すことができない。つまりは邪鬼の中では弱い存在なのだという。本当に強い化け物は、物体を拠り所とし、取り付いて、独自の骨格、肉体を形成するのだという。


 これは、日向子や陽菜さん、空良から聞いた言葉だ。彼女たちはもう一つの人格と記憶を共有している。

 今回の件について、彼女たちはこう推測する。


 神器は、聖域の中で守られていた。

 そのことを邪気の配下が知っており、剣山の山中に、永い間潜んでいたのかもしれない。

 ただ、その化け物は聖域の中には入れなかった。

 今回、神器の発動を察知して、近くの動物に取り憑いて襲いかかってきただけなのだろう、ひょっとしたら本能だけの稚拙な化け物に成り下がっていたのかもしれない。

 だとすればもうそんな化け物はほとんど残っていない可能性もある。

 残っていたとしても休眠状態なのだろう、そう願いたい、という話だった。


 そしてこの一週間の間に、剣山の山中で起きたという超常現象にSNSサイトで一部騒ぎになっていた。

 頂上付近で見ていた人が、異様に集まるカラスの群れ、山中の一部分が異様に暗くなる状態、その中できらめく閃光、沸き立つ煙、さらに一部にだけ降り注ぐ集中的な雨、それらを全て撮影しており、動画投稿サイトにアップしてしまっていたのだ。


「これ、明らかに超常現象だろう? 剣山で何があったんだ?」

「剣山って、ソロモンの秘宝が埋まっているんだろう? ついに暴かれたか?」

「そもそも四国八十八箇所ってそこに眠るアークを守護するための結界だったはずだ!」

「これは年末特番筆頭だな!」


 フェイク動画だとか、胡散臭いことこの上ない、いう冷静な人もいたが、いろいろと見当違いの意見も出ていて、この頃にはすっかり元気になっていた日向子たちと一緒にそれらを見て笑いあったのだった。

 もうあの戦いの件で、この騒動も終わってほしい。みんな心からそう望んでいた。


 ――剣山の邪鬼が倒されたことに呼応するように、徳島県桑野川の上流、若杉山辰砂採掘遺跡付近の未発掘の空洞内で、新たな邪鬼が復活しようとしていた。

 その体は、辰砂から抽出される水銀を主材料とした流体金属で構成されつつあった。

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