第8話 ある問題の提議

 凛々しいウィンリアの口が開く。誰もが彼女の言葉を聞こうと、静かにしている。


「それはメイプルの戦いという課題だ」


 短い赤毛の少女メイプルの視線が下に。他の皆は納得した顔に。俺も正直だろうなと思っていた。メイプルはシンちゃんを除けば、この中で最も対人戦を経験していない。そもそも加入したのも一年半前で、前年の交流試合に参加していなかった。彼女にはサバイバル技術がある一方で、戦闘能力は低い。


「確かにメイプルは活躍をしている。私達のギルドを広めてくれている。だがいずれ、様々な立場の人間相手に戦うことも出てくる」


 メイプルはレインからの影響を色々と受けまくっている。人々のために活動をするという志は実に立派だと思っているが、実際はドロドロしたところだってある。現実を知らない。戦いを知らない。それがメイプルの問題だ。


「魔物とは戦い方が異なっている。知恵を使い。魔法を使い。卑劣な手も使う。それが知能を有する種族というものだ。生憎私は教えるということを最も苦手としている」


 はっきり言った。最も苦手と。ウィンリアもやろうと思えば出来ると考えてはいるが、騎士貴族と庶民という立場の違いで変わって来るのかもしれない。或いは加減ができないのか。異端過ぎて参考に出来ないか。そういったものだろう。


「とりあえず一般的なやり方とかそういうものを教えればいいって感じっすかね」


 レインが右手を挙げて発言した。ウィンリアは特に反論することなく、受け入れている。


「ああ。それで問題ないはずだ。忘れているかもしれないが、交流試合は勝つことを目標としているわけではない。実戦に慣れ、互いの実力を改めて把握することを目的としている」


 何人かが忘れていたと言わんばかりの表情をしていた。全戦全勝が多いからだろう。ウィンリアはその辺りを理解していたようだ。


「分かりました。メイプル、頑張ります」


 だいぶガチガチである。大丈夫だろうか。ウィンリアがアドバイスを送る。


「もし悩んだら周りに相談するといい」

「はい!」


 本当に彼女は頼れる人だ。騎士貴族の娘とか、そういう立場関係なく。


「もうひとつの課題だが」


 もう別の課題に移るようだ。いくら何でも早過ぎないか。俺とレインに視線を送っている。魔法に関することだろう。


「魔法の準備は問題ないか」


 参加者や観戦者が怪我しないように防御を付与したり、魔法を結界内に閉じ込めたりしたりすることだ。その辺りについては既に準備済みだ。


「問題ないよ。レインと一緒にやったからな」

「そうか。流石だな」


 二日前、会場に魔法を付与したばかりだ。あとは当日の朝に微調整をするだけで、余程のことがない限り、安全に楽しめる。


「他に誰か気になる事があれば発言して欲しいのだが」


 ジュナが緩く手を挙げた。ウィンリアがめんどくさそうな顔になっている。経験上、俺も分かっている。


「パチワリあるかしら?」


 ジュナはこの王国から遠い東の暑い国出身だ。そこで育てられるインディカ米に似た細い奴を発酵したお酒だ。インドの響きがある。というか、ほぼそのままな気がする。


「ああ。お酒があるのならいいのよ? せっかくの祭りだもの」


 ジュナはお酒が好きだ。節度は守るのでまだ良い方だ。祭りぐらいしか呑まないらしいから、そう思っているだけだが。


「ある。セオドアさんが色々と用意してるはずだ」

「あらー、流石ねぇ」


 これで答えになったと判断したのか、ウィンリアは両手で叩く。


「これで終わりにしておこう。交流試合に参加する者は各自準備。参加しない者はマスターにやることがあるかどうかの確認を」


 もうひとつの冒険者ギルドのセオドアさん達がやってくれたお陰で、俺達の負担は少なめになっている。ウィンリアの発言で確実に俺に集中するはずだ。色々と考えなくてはいけない。

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