第11話 遭遇

 今、俺とケイトは座れる場所を探して歩いている。


「バッド君……何したらそんなんになるの?」


「ちょ、ちょっとね……」


 剣と魔法の修行をしているなんて言えない。

 なんでかって? そりゃ恥ずかしいからだよ! 何となく!


「もしかして……他に友達が出来たの!?」


「え、え?」


「だから! バッド君に新しい友達が!?!?」


「待って待って! そんなことないから!」


 キラキラ目を輝かせながら、ケイトは俺に詰め寄ってきた。


 ケイトのやつ……俺が友達できるなんて奇跡だと思ってないか? そんなに驚くことか?


 ……まぁ、できてないんだけどな。


「じゃーどうしてな……あ、ごめんなさい!」


 ケイトは俺の方を見ながら歩いていたせいか、前から来た男に激突してしまった。


「すいません」


 俺も謝る。でも、この男も避けようと思ったら良けれたはずだろう。なんか感じ悪いな。さっさと行こう……あれ?


 ケイトの様子を見ると、さっきとは打って変わって、恐怖に満ち溢れているような顔をしていた。


「ケイト。なぜこんなところにこんなやつといるんだ?」


 なんだ? こいつケイトの名前を知ってるのか?

 話しかけられても黙り込んでいるケイトを見て、俺はアクションを起こす。


「ちょっと……あなたはケイトさんと、どんな関係性なので……」


「ちょっと君は黙っててくれ」


「はい……」


 負けた。圧で負けた。普通に負けた。


 でも、今ケイトは絶対に脅えている。この男に。


「ごめんね……バッド君……」


 震えた声を絞り出すように言ったケイトは、その男と目を合わせないように話し始めた。


「どうして……ここにいるの……」


「どうしててって、遠出から帰ってきただけだよ。ケイトこそ何をしてる」


「何って……私の勝手でしょ」


「少し見ない間に生意気になったものだ」


 この二人の関係。少しわかったかもしれない。恐らくだがこの二人……


「いつまでいるの……お父さん……」


「軽く一週間だ。明日から一週間、空けておくように」


 それを聞いた瞬間。ケイトは全てを悟ったように顔を引きつらせた。

 見たことの無いケイトの顔。俺の知らない、彼女の感情。


 ケイトの父と名乗る男は、ケイトと俺の間を割るように歩いて行った。


「大丈……」


「お母さんには! お母さんには手出さないで……」


 声をかけようとした俺の声を遮るように、ケイトは男に向かって叫んだ。


「……それはまだ決められないな」


 お母さんには手を出すな。ケイトの家庭。想像もしたくないことがたくさん現れる。


 前世では両親が14歳で死ぬ、と言っていた。

 という事は、この男ももう時期死ぬ、ということだ。


 確定はしてないが恐らく、この男はDV野郎だ。でも、ケイトの身体に傷のようなものは無かった。


 少しの間、いなかったらしいから、治ってしまっただけなのかもしれない。自分で治癒魔法で治してしまったのかもしれない。

 でも、この状況……かなりまずい。


 聞こうにも聞けないし、この前俺の家であった一件にも関わってきていそうだ。


 あの時の涙と、もし、関係があるのなら。俺は放っておけない。


 だからといって今は絶対にでしゃばっては行けない。


 俺の記憶によると、ケイトの両親が亡くなるのは俺の両親が亡くなる一週間程前だ。


 俺がやるべきことはまず、ケイトの両親の死を回避すること……なのか?


 この男は生きてていいのか? てか、未来って変わる可能性があるんだったら……今見てるこの光景も変化したあとなんじゃないのか?


 分からない分からない。どうしろって言うんだよ。


 てか、ケイトの両親はダンジョンで死んだんだろ? この家族が夫婦仲良くダンジョンなんて行くのか……


「バッド君?」


 思考を遮ってきたのは、ケイトの声だった。

 気が付いたらあの男はもうおらず、ケイトの表情もさっきよりはマシになっていた。


「あ、ごめん……」


「こっちこそごめんね。なんか悪いとこ見せちゃったよね」


 今、俺は踏み込んでいいのか。ここで話を聞けば何か変わるのか。


 ……やめておこう。俺が聞いたところで何も変わらない……


「そんなことないよ。大丈夫。何かあったら……俺に出来ることだったら、何でもするから」


「……ありがとね」


 小さく呟いたケイトはどこか浮かない表情をしていた。


 ──────


 その日の夕方。


「今日は家まで送るよ」


「……いいの?」


「うん。いつもこっち来てもらってばっかな気がするし」


 これは建前で本当の狙いは、ケイトの家の場所を何となく理解することだ。


 ストーカー宣言では無い。普通に心配だからだ。本当だからな? 嘘じゃないぞ?


「じゃぁ……お言葉に甘えて」


 俺とケイトは街を出て歩き出した。


 10分くらい歩いた頃。


「あそこに見えるのが私の家」


「え……あれ?」


 指をさした方向を見てみると、俺の目に映ったのは確かに、大きな宮殿だった。


「あれはいつも会ってる街の隣街にある宮殿。隠しててごめん。私……ここの領主の娘なの」


 えー!? まてまてまてまて!! 領主の娘!?!?

 俺そんなのと仲良くしてたのか!?!?

 前世の俺こんな御身分の人と結婚してたのか!?!?


 てかあの男……領主!?


「本当に……? 知らなかった……」


「そうよね。ごめんなさい」


「あ、謝らないでいいんだよ!」


「私の身分が分かっても……仲良くしてくれる?」


 少し寂しそうな顔をしたケイト。決まってる当たり前じゃないか。


「あぁ。もちろん」


「……ありがとね」


 ケイトはまっすぐ宮殿の方を見て、俺の方は見ない。


「じゃあ……さ。もし、来週、いつもの場所私が来なかったら……」


「……?」


「私のことは全部忘れて」


 ケイトのその発言は脳に直接届いたかのように、大きく聞こえた。


 俺はこれから起きることは全く分からなかった。でも、これから起きることは、決して良いことでは無いこと位は分かっていた。

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