第27話 美恵様は見た!

 この世には無視してはいけない人間というのがいる。

 そいつらは放っておくと勝手にことを荒立たせて、大騒ぎにする迷惑な奴らだ。今日出会った湯島などはその典型だ。


(だって今日初めて話したのにもう3度も社会的に殺されそうになったし……はぁ、僕最近女難の相とかマジで出てるんじゃないか?)


 まあ、そんな悲観してもいられない。これから僕はその問題児と2人でお話をするんだから……。


 はぁ、なんで湯島と2人でファーストフード店に来てるんだろ……。


「ねぇー高円寺、私先に席取ってくるね」


「ああ……何か頼むか? 僕がまとめて注文するよ」


 店内は学生などで込み合っており、5分ぐらいは並びそうだから、分担した方が効率的だろう。早く帰りたいし……。


「うーん、それじゃあ、適当なサラダセットをお願い~。私好き嫌いしないから本当に適当でいいからぁ~お金は後で払うねぇ~」


 そう言うと湯島は足取り軽く二階に上がっていく。あいつなんで機嫌いいんだ……?


 というか……これ……浮気にならないよな……僕はできればこの場から逃げ出したい訳だし。

 というかお試し期間中は浮気って……ああ、どうしたら。

 さくらに殺されたらどうしよう…


(はぁ、とっとと注文するか……帰りに正美さんの分も買ってくか……文句言われそうだけど、今日は飯を作る気になれん。我慢してもらおう)


「いらっしゃませ! ご注文はお決まりでしょうか!」


「えっと……このダブルバーガーのポテトセットとアイスティーであと……」


(あいつの注文はなんにしようか……サラダセットなら何でもいいって言ってたけど……)


「只今グランドカーニーバルハンバーガーがおすすめです」


 レジのお姉さんが進めてきたのは5段重ねの巨大ハンバーガーでおひとつ1000円のお高いものだ……。食べ盛りの男子高校生がギリギリ食えるか食えないかぐらいのボリューム。


 うん。あいつなんでもいいって言ってたしな。

 これにしよう。僕は何も悪くない。


「じゃあ、それで、ドリンクは一番巨大なコーラにして下さい。サラダも山盛りで」


 ドリンクの注文は湯島から教えられてないからな。サイズも聞いてない。僕は悪くない。


「ありがとうございます! 他に注文はございますか?」


(うーん。湯島ばっかりいっぱい食ってずるいな。僕も何か追加しようかな――)


『あっ、私フレッシュレタスバーガーのセットください。私も飲み物はアイスティーでお願いします。くすっ、私たち気が合うね慎太君』


「かしこまりました! 少々お待ちください!」


 店員は僕の背後から聞こえてきた声に反応し、商品の準備を始めた……って……そんなことよりも……。

 おいおいおいおいおいおい。この声って……。


「はろー、慎太君」


 後ろを向くとそこには満面の笑みを浮かべた美恵が立っていた。


 その笑みは怒っているものではなく「面白いところに遭遇しちゃったなぁ~」みたいな悪戯っぽい感じだ。


「ねぇ、慎太君浮気? これって浮気かなぁ? うむ。私は物分かりのいい女だから、さくらちゃんには内緒にしてあげるねっ」


「お、お前なんで……?」


「お仕事が終わって妙にお金を使いたい気分になってね。家の用事があるって言ってたさくらちゃんと別れて1人で遊びにきたんだぁ」


「僕と同じような理由だな……僕たち気が合うな」


「くすっ、だよねぇ」


 唯一違うのは僕にはやっかいな連れがいるということだ。

 はぁ、このとってもいい笑顔は湯島の件はおおよそ把握してるっぽいな。


「それであの女の子は誰なの? 彼女? 彼女かな? 彼女だよね?」


「違う……はぁ、なんでそんなに楽しそうなんだよ……お前さぁ僕が女子と遊んでてもいいのか?」


 さくらなら激怒してスーパーサイヤ人3になってるだろうし、僕もお前らが男子と遊んでたらショックだぞ。

 二股のお試し期間してる身で大変恐縮だけど……。


「うーん。その辺がさくらちゃんと考え方が違うんだよねぇ。私は浮気しないけど、彼氏は浮気しても最終的に私の元に戻ってくればいいんだよね。むしろ浮気相手と仲良くしたい」


 特殊性癖過ぎるだろ……。


 はぁ、でもこんなこと考えちゃあれだけど……本当にさくらじゃなくてよかった……やましいことは何もないけど、大騒ぎになってただろうしな……。


 よしこうなったら、美恵も巻き添えだ。一緒にギャルに面談をすることにしよう。

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