第15話 見た目詐欺だけど、文句ありますか?

 人間は物事を考えすぎるのはよくない……。

 そんな言い訳の元、加賀の部屋で勉強会を開始しようとしていた。

 お姉さんのこととかいろいろ無視できないことがある気がするんだけど……全てを丸投げするスタイル。


(ま、まあこのお試し期間に否定的じゃないのはありがたいよな……お姉さん、妹が納得してるならいいって感じだったし……)


 それよりも今は……僕は今女の子の部屋にいる……。


「せ、先輩、さすがにきょろきょろ見られると恥ずかしいんだけど!」


「そうは言ってもさ……」


 加賀の部屋は20畳はありそうなフローリングの部屋だ。

 ベッドや本棚とかの家具はリビングと同様やたら物がいい気がした……女の子らしいぬいぐるみが結構な数置かれていて……というか端に置いてある真っ黒な巨大なクマのぬいぐるみはなんだ……?


 目つきがめっちゃ悪くて、作りが妙にリアルだ……大きさもゆうに2メートルはありそうだし……怖くないか?


「あれは、クマのレイカマーク2アルファオメガプラスだよ! ふかふかで気持ちいいんだ!」


 やたら機械的な名前だな……。


「えっ? ふかふかなの?」


 烏丸は興味があるのか、玲香に近づいて思いっきり抱きついた。


「わあああ、ほんとだぁ。くすっ、昔大きなぬいぐるみを持つのが夢だったな……」


「…………」


 本来、烏丸の女の子らしい一面は見ていて微笑ましい光景のはずだが――。


(どっからどう見ても目つきの悪いクマに襲われてる人にしか見えないな……)


「くすっ、いいなぁいいなぁ……」


 ……幸せそうなので無粋なことは言うのはやめておこう。

 ……ぶっちゃけ、クマに抱きついてる烏丸のスカートがめくれて……妙に艶めかしくて……いい光景だしな……。


「それじゃあ、勉強しようかっ!」


 加賀が気合を入れたような声を出し、本棚にあった参考書を中央のテーブルにドサッと10冊ほど置いた。


「なんだ? やる気あるな。そんなにテストやばいのか?」


 しょうがないな。

 僕はそれなりに成績はいいし、1年の勉強を見るぐらいはできるだろう。


「むぅ……」


 そんなことを考えていると、馬鹿にされたと思ったのか加賀が不満気に僕の顔を見つめてくる。


「先輩はわたしのことをなんだと思ってるの!! わたし勉強できるんだからっ! すごく、ものすごく! とってもヤバイぐらいに!」


「勉強のできるやつの語彙力じゃない気がするけど……」


「あっ! 出たその語彙力っていうの! わたし嫌いなんだよね。ふわっとしててさぁ」


「お前本当に勉強できるの……? かなり疑わしい……お前ぶっちゃけ馬鹿っぽい……失礼。えっと……アホっ……違う。クルクルパーじゃん」


「それ言い直してる意味ある!?」


 だってなぁ。人を見かけで判断するのはどうかと思うけど……全教科オール赤点とか言われても納得できる感じがする。


 まあ、うちの学校そこそこ偏差値高いから、それなりにはできるんだろうけど。


「じゃあ、先輩は語彙力って説明できるの?」


「そりゃあ、あれだよ。なんかすごいやつ」


「……先輩もダメじゃん」


 同レベルだった。


「もうっ! 意識高い系の言葉なんてどうでもいいよ! そうだ! これ証拠ねっ」


 加賀はそういうと1枚のプリントを差し出した。そこには『中間試験結果』と、書かれていた。


(こういうのって……人に気軽に見せてもいいのか? 彼氏(仮)だからいいのか……なんか何気ないこともドキドキするなぁ……)


 僕はそんなちょっとキモいと言われそうなことを考えつつ、結果表に目を通した。


 するとーー。


「え、えっ? 100点が結構あるんだけど……」


 数学や現代文など点数が60点程のものもあるが、英語、世界史、日本史、家庭科などいくつも100の数字が並んでいた。


 その数8教科……。


「お、お前本当に頭いいの?」


「だからさっきからそう言ってるじゃん! 受験の時死ぬほど勉強したもん!」


「す、スリランカの首都は?」


「スリジャヤワルダナプラコッテ」


「ぽ、ポルンガを呼ぶ呪文は?」


「タッカプラット、ポッポルンガ、プピリット、パロ」


「お前すげぇな!?」


「えっ、そ、そう? ……ふふっ先輩に褒められちゃった……」


 さっきまでの怒りはどこへやら……加賀は嬉しそうに笑う。可愛いやつだ。


 これなら勉強会はすんなりできそうだな。


「あ、あの……ちょっとよろしいでしょうか?」


 その時今まで会話に加わらずクマのぬいぐるみの抱きついていた烏丸が身体を起こして、自分の鞄から1枚のプリントを取り出す。


 その表情は硬い……いつも余裕あり気に微笑んでることが多い烏丸からしたら珍しい。


「えっと……隠しててもバレることだから」


 僕は烏丸からプリントを受け取った。それはさっきの加賀が出したものと同じ中間試験の結果だ。


「あっ! わたしも見たい見たい!」


 その内容はーー。


「…………30点以上がないんだけど」


「あ、あはは……わたし見なきゃよかったかも……」


 引きつった笑顔の加賀さん。


「うん。はいそうですね……さくらちゃんの言う通りかな。あはは……」


 世界史関しては2点だ。マジかお前「テストなんて授業をまともに受けてれば点数取れるでしょ?」みたいな見た目してるのに……。

 見た目詐欺にも程があるだろ……。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る