第13話 彼女のお家

 駅から歩くこと数分――。

 僕たちは閑静な住宅街の中にある加賀の家に着いた。この辺は大きな家が多く立ち並んでいて、どの家も素人目で見てもお高そうだ……。


 駅からも歩いて5分と、立地もばっちり。そんな高級住宅街の中でも目立つ3階建ての洋風の家が加賀家だ。

 正面の白い門は学校の正門ぐらいの大きさがあり、家自体も大きく、学校の教室が1学年分は入りそうだ……というか下手したら小さい学校なら入るんじゃないか……?


「わ、わぁ、大きい家だねぇ……」


「お、お前の家……すごくないか?」


 小並感だが……凡人の僕にはそんな感想しか出てこない。加賀ってお嬢様なのか……僕とは全然釣り合わないんじゃないのか……?


 僕今『居候』の身だしな……。


「まあ、大きくないと言ったら嫌味になるかも」


 加賀本人に嫌味っぽさはない。

 もしかして……箱入り娘なのか……今……加賀がタッチパネルで操作してる門が……自動で開き始めたんだけど……すげぇ。


「あ、あはは……家に自動ドア? ……芸能人の家みたい……」


 僕と烏丸は加賀の言葉に苦笑いを漏らす。


(ん? 烏丸も僕と同じ凡人なのか……? ……でもなぁ、烏丸、見た目はお嬢っぽいし……まだ決まったわけじゃないよな……)



「さあ、入って、入って!」


 僕と烏丸は加賀の言葉に機械みたいに頷いて、後を追った。

 もう身分の差は力の差だと思い知らされた気分だ……。


   ◇◇◇


 外装もおしゃれだったが……内装はさらにすごい……。

 教室ぐらいの広さのリビングには絵画や壺など美術館に置いていそうな物が飾られており、さらに家具も明らかにいい物だ。


「先輩たちはそこのソファーにでも座ってて! わたし飲み物持ってくるから!」


 加賀は僕たちが家に来たのがよほど嬉しいのか、スキップをする様にキッチンの方に歩いていく。


 そして、僕と烏丸は高級感丸出しのリビングに取り残された。


(あのソファーって前にテレビで見たぞ……ブランド品のやつだ……数百万の……)


「……わ、私って凡人だなぁ……へ、へぇ……すごい部屋」


 烏丸は俺と同じでびくびくしながらリビングを見渡している。

 この態度で確定したな……!


「おお、同士よ。見た目は清楚だから、お前もお嬢かと思ったけど……お前も大したことない凡人の生まれだったのか!?」


「褒められてる気がしないんだけど……」


 ジト目で見るな。やめい、盛大に褒めてるんだから。


「そうだ! 美恵先輩! 勉強する前に見てほしい物があるんだけど……」


 その時、キッチンから加賀が顔を出して烏丸を呼んだ。その顔は微妙に赤い気がする……なんだ? 何を見てほしいんだ? 

 ……これにツッコミを入れるとセクハラになるのだろうか……?


「ん? さくらちゃんどうした……あっ、前に言ってた新しい下着かぁ――」


「わぁ! わぁぁぁぁぁ!! 先輩の前で言わないでよっ!」


「あっ……ご、ごめんなさい。この部屋に動揺し過ぎたよ……あはは……」


 まったくだ、どうしてくれるんだよ……僕めっちゃ居づらいじゃねぇかよ……ん? でも待てよ。こういう会話に加わってこそ男の器というものではないのか?


 よし……。


「なんだよ? 新しい下着か? 青か? 白か? それともレースか?」


「……」


「……うわぁぁ」


 盛大にやらかしたあああああああああああ!!!!

 2人ともドン引きじゃねぇか!!! 彼氏どころか変質者を見る目だぞ!


「くすっ、はいはい。高円寺君に見せるのは今度ね。まずは私が責任をもって品定めするから~、さくらちゃん、変態さんは無視して行こっ」


「う、うん…せ、先輩……き、期待しててね……」


 2人は失態を犯した僕にも優しい声をかけながら、2階に上がっていった。

 ……悪いな男で……なんか男を履き違えてる気がする。特に加賀に対しては罪悪感しかない……茹でだこの様に真っ赤だったし……。


「はぁ……………ん?」


 僕この高級感あふれるリビングに1人きり……それにここって女子の家であって……えっ? ぼ、僕ここに1人で居ていいの?

 な、なんかさっきとは違う謎の罪悪感がすごいんだけど……。


「い、いや気にする必要ないし。僕は加賀の彼氏だし。お試し期間中だけど」

 

 と、とにかく、堂々としてればいいんだ。加賀は今日は両親はいないって言ってたから、お父様とお母様に会う心配はないし――。


「…………」


「…………」


 そんなことを考えていると――玄関側の入り口には下着姿の美少女が立っていた。


 下着姿と言っても履いてるのは下だけだ。上半身は裸だ……芸術品の様なピンクの突起物が見えてしまっている。

 腰が細く足が長い……だが胸がもう少し欲しい……。

 えっ? げ、幻覚?


「…………」


「…………」


 美少女は事情がのみ込めていないのか……呆然とした表情だ。それはこっちも同じ気持ちなので自然と見つめあう形になる。

 よく見れば身体や髪が濡れてるし……風呂上がりか……?


「…………」


「…………」


 綺麗な人だなぁ……。

 身長は170センチ近くあり、髪は綺麗に薄く染め上げられており、5メートルほど離れているが、ここからでもサラサラなのがわかる。


 うむ……モデルみたいな人だな……って、なんでそんな人がいるんだ!? しかも裸で!!!


 僕がいつやるギャルゲーみたいな展開!


「えっ? えっ、ええ? ち、痴女!?」


 ふっ、ふ、ふ、不法侵入者!? 助け、メンタルが強そうな烏丸を呼ばなきゃ!!!


 だってこの状況がギャルゲーだとすると……襲われる!! 犯される!!


「きゃああああああああああ!!! 烏丸さん助けてええええええええええ!!!」


「ひ、悲鳴はあたしの役目じゃない!? えっ、き、君、誰ええええ!? さくらぁ!? さくら助けてええええええええええ!?」


 この時の僕は冷静じゃなかったんだ……初めて彼女の家に来てめっちゃ緊張してたし……なんなら、緊張でリバースしそうだった。

 でも……それにしても……何で女みたいな悲鳴を上げてるんだよ……きもい……。


 冷静に考えれば加賀言ってたじゃねぇか……「『両親』は旅行に行っている」って、『姉』はいるってことだ……最悪の初対面になったな……。

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