第2話 二股のお試し期間というパワーワード

 それから数十分後。

 僕と美少女AとBとファミレスに来ていた。


 学校からそこそこ離れているので、たぶん知り合いに会うことはないだろう……


(このメンツでファミレスにいる時に会うと絶対にめんどくさいことになるから会いたくない…)


 そんな僕の心労は知らずに、目の前の席に座っている2人の美少女はリラックスしているようだ。

 特に美少女Bは頼んだミルクティーを飲みながらくつろいで悪態をついている。


「初デートがファミレスって……なんだかなぁ……先輩、もっとおしゃれなカフェとか行こうよ。『美恵先輩』もその方がいいでしょ?」


「えっ、そう? 私は場所はあんまり気にしないよ。ふふっ、好きな人とこうしてるだけで幸せじゃない?」


「わぁ! 何その女子力のお手本みたいな答えは……やっぱ女子力じゃ敵わないなぁ。で、でも初デートなんだし! もうちょっとほら、あれだよ! あれ! すっごいやつ!」


 あんまで初デートとか言うよ……。誰が聞いてるかわからないんだし……というか……そろそろ話を進めよう。


「ちょ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……?」


「くすっ、そんなにかしこまらなくてもいいのに。高円寺君は特別なんだから」


「そうそう先輩♡ 先輩が聞きたいことならなんでも答えてあげる! スリーサイズ?」


 この2人の異常な好感度の高さはなんだ……? ギャルゲーみたいだ……。僕らまだ出会って30分くらいしか経ってないんだけど……。


 そして、スリーサイズは後で聞こう。


「ぼ、僕たちは互いのことを知らなすぎるんだ。だからやることは1つだ。それは――自己紹介だ!」


「自己紹介? それいいかも……あっ!」


 俺の言葉を好意的な反応で受け止めていた美少女Aは、なぜか急に慌て始めたと思ったら、申し訳なさそうに手を合わせた。


「わ、私……告白に緊張しすぎて……名乗ってすらいなかったわ……ご、ごめんなさい」


「い、いや、それはいいんだけど……名前を聞かなかったのは僕も悪いし。ごめん」


 互いを知らなすぎる俺たちは頭を下げて謝ることしかできない。


「えっ? 名前って……え? えええええ?」


 そんな様子をミルクティを飲みながら見ていた美少女Bが「こいつらマジか…」という顔で驚いた声を上げる。

 危うく手に持っているカップを落としそうになるぐらいだ。


「えっ……先輩名前すら知らない女の子の告白をOKしたの?」


「い、いや……まだイエスと言ったわけじゃ……」


 ノーとも言ってないけど。


「えええええええ!? 言ったよ! 先輩絶対に言ったって! 地面に頭を擦り付けながら、付き合って下さいって言った!」


「事実をねつ造するなよ……」


「えっ……わ、私たちもう付き合ってるんだよね……? 高円寺君、頷いたよね……?」


「……えっと……」


 えっと……美少女AとBがこの世の終わりのような顔をしてるんだけど……


 少なくともそっちが言い始めた二股うんぬんはまだ返事してないんだけど……でも今更ノーとは言えない雰囲気だな……。


「うぅ……高円寺君……」


「先輩……先輩はこんな大チャンスを逃す男じゃないと信じてる! え、えっと…その、あの……付き合ったら私たちの、お、おっぱいも揉み放題だよ!!!!!」


「大声で魅力的なことを言うなって!!!」


 他のお客さんこっち見てるじゃねぇか……。幸い周りも騒がしいから……そこまで気にされてないようだけど……。


「うーん、でも二股はなぁ。世間体がなぁ……」


 これを否定したら僕は30まで童貞まであるが……こんな幸運はないだろうし……だけど怖いものは怖い……おう、我ながらチキン。


「うーん、ボッチでも世間体って気にするだねぇー。そうかふーん」


 美少女Aがどこか責めたような視線を向けてくる。ええー、この魅力的な二股を否定している僕を褒めて欲しいんだが……


 そんな僕の気持ちをわかってか、美少女Aがキリッとした表情を見せる。


「なら、高円寺君の気持ちが定まるまでは『二股のお試し期間』としようか?」


 な、何? そのパワーワードは。


「それ採用!!!」


 パッと笑顔になる美少女B。


「え? でも……!」


「先輩! お試し期間におっぱいを揉めるかもしれないよ?」


「そのプラン入ります!」


「じゃあ、決定!」


 はっ!? しまった! おっぱいに釣られた!?

 う、うん、お試し期間ってのは友達の延長線上みたいなもんだろう。まあ、入っても問題ないだろう……たぶん。


「うむ……高円寺君はおっぱいが好きと……」


 なんか美少女Bは1人で考え込み始めたし……普通に恥ずかしいからやめて…


 というか、いい加減自己紹介を進めよう……。


「それでまずは名前を教えてもらってもいいか?」


「……あ、遅くなっちゃってごめんね……? 私は烏丸美恵(からすまみえ)。高円寺君とは同級生で隣のクラスだよ」


「隣のクラスか……どおりで見覚えがあるわけだ……それで、そっち子の名前は?」


「えっ?」


「えっ?」


 僕と美少女Bはお互いの顔を見合わせる……どうにも意思の疎通ができてないようだ。なんか決定的な思い違いをしているような空気だ……。


「えっと……先輩ってわたしの名前知ってるよね……?」


「いや……知らんけど……」


「……はっ!? なんで知らないの!?」


「そんなこと言われても知らんもんは知らん……」

 

「し、信じられない……はぁ……いいや。わたしは『加賀さくら』。1年生……」


(こ、ころころと表情が変わる子だな……いい意味で)


 加賀と名乗った少女は不機嫌そうに言い放つ。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ……。


 僕……本当に加賀にはあったことないぞ……こんな可愛い子ならそう簡単に忘れないだろうし、僕引きこもり気味だから知り合い自体が少ないし……。


「よ、よろしく。僕は高円寺慎太だ……」


「ふんっ、そんなこと知ってるわよ! 今更名乗んないでよ。他人みたいじゃない!」


「まあまあ、さくらちゃん、そんなに怒らないであげて。これから3人で仲良くやるんだから……くすっ、いろんなことをねっ。ふふ、お試し期間♪ お試し期間♪」


 加賀はなんかめっちゃ不機嫌だし……烏丸はなんか悪戯っぽい笑みを浮かべて楽しそうだし……


 何がなんだかわからないけど……昨日までのゲーム漬けの生活が一気に変わった気がした。

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