第22話:おやくそくな事情

「テ、テメェ俺が虫だってのか?!」

「すまぬな、羽虫の言葉は分からぬのだ。ヒゲずらのハゲよ」


 顔面蒼白になりながら、「の、信長。それ以上煽ったら大変でアリマスぅ」と涙目のミリーだったが、あいにく人間以下との話す言葉は持ち合わせておらぬ。


「何が分からねぇだ、ちゃんと理解してんじゃねぇかよ! もう許さねぇ……大人しく先輩に授業料をおさめてたらって思えるように教育してや――ぶべッ!?」


 あまりに五月蝿く、あまりに見るにたえないハゲたヒゲの顔に藤吉郎サルを投げつけると、「あんまりですぞ大殿様ぁあぁあぁ」と言いながら、ハゲたヒゲの眉間に良い角度でケリが入る。うむ、見事なり。


 感心していると、ハゲたヒゲの周囲に居た冒険者達が立ち上がり、「新人クンよ~調子に乗りすぎじゃねぇか?」と、十数名が優しげな視線で見守る。

 それを見たミリーは「こ、殺されるでアリマス」と震えているが、どこをどう見ても素人そのもの。

 だからまぁ、五月蝿い羽虫にご退場願おうか。


「調子に乗るかどうかは余が決める。キサマらが判断するなど、おこがましき事よ……のけい」


 魔力を載せて静かに太く声を奴らへと聞かせる。すると全員の表情が凍りつき、震えた後に腰を抜かして後退りをする。マヌケ共め。

 そのまま行く手を阻む者を排除した後、ギルドの奥へと歩を進める。

 

 大抵の者は驚きと困惑で顔をこわばらせるが、中には「やるじゃねぇか!」とか、「いい男じゃないかい、一杯おごるよ!!」などと威勢のよい男女もいたりするのが面白きよな。


「うむ。そちらの好意、後ほど馳走になるぞ」

「そうこなくちゃな! 待ってるぜ!」


 なかなかどうして。羽虫ばかりじゃない、この世界の住民を好意的に思いながら歩いていると、ミリーが額の汗を拭いながら話す。 


「あ、相変わらず信長のやる事は驚きの連続でアリマスな」

「そうか? この程度普通の事よな」

「キキ。そうだぞミリー。大殿にかかればこのくらいは日に何度もあるわ。だからまぁ……俺様はどれだけ苦労したか……」


 ブツブツと何かを言っているヤツに、「なにか言うたか藤吉郎サル?」と聞くと、「何でもありまへん!」と勢いよく顔を左右に振る。

 まったく調子のいいやつよ。そんな感じで歩いていると、二階から人相の悪い男女三人が降りてきた事で、ミリーの表情は一気にかげる。


 いや、恐怖にふるえていると言ってもよいか。そんな表情をしつつ、余の袖を強く握る感覚を左手に感じつつ理解した。


「……奴らか?」


 そう訪ねたと同時に、男女三人は大声でミリーへと話す。


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