第7話 初めてのクエスト

 薬草を採るために、俺とモカは近郊の森を訪れた。

 近郊と言ってもそれなりに距離があるので、馬車で丸一日かかってたどり着いた。

 さすがにモカの前で一直線猛ダッシュキメるわけにはいかないからな……。

 帰りは空間転移魔法で即帰宅だ。


「ふぅ……結構疲れたな」

「そうですね……私もうへとへとです」


 まさか薬草採る前から疲れるとは、冒険者ってのも案外大変なんだな。

 すると、急にモカの腹の虫が鳴った。

 ――ぐぅ。


「……! は、恥ずかしいですぅ……」


 モカはかわいらしくお腹を押さえて顔に紅葉を散らす。


「そういえば、俺も腹減ったな……」


 思えば、こっちに来てからなにも食べてない。

 つっても、異世界の飯事情もなんにもわからんしなぁ。

 万が一ゲテモノ料理食わされたらたまったもんじゃない。

 しかもここは森の中だし、なにか食おうにも自分たちでサバイバルしなきゃだし。

 あいにく、万年引きニートである俺にそんなワイルドなことはできない。


『だから、スマホ使えばいいじゃない』

『あ、そうか……通販できるんだ……!』


 またも女神に言われて思い出す。クソ女神だが、必要なときにはこうして助言をくれるから案外役に立ついいサポート約なのかもしれない。いや、ただ暇なだけか?

 とりあえず俺はまたアイテムボックスからチートアイテム筆頭なんでもスマホを取り出した。


「じゃあモカ、ちょっとそこらで座って待っててくれ」

「あの……トウヤさん、それは?」

「あ、ああ……これは俺のユニークスキルみたいなもんだ。魔法道具的なアレだ」

「すごいです……! トウヤさんは魔道具にもお詳しいんですね!」

「ま、まあな……」


 適当に嘘をついて誤魔化しつつ、スマホをポチポチ。

 異世界の森の中でスマホをいじってるのはなんだか変な気分だ。

 てかこれお金はどうするんだ……?


『お金はモンスターの素材やアイテムを売ればいいわ。ちょうど、モンスターハウスでたくさん倒したときの戦利品があるでしょ?』

『ああそうだった……ってかそれ売れば修繕費になったんじゃね!?』

『あ……それはそうかもね。私も気づかなかったわ……』

『あーでも、それだとあのカマセーヌとかいう奴に一泡吹かせられねえからなぁ。ここはやっぱクエストで大成功するしかねえって!』


 どうせ金だけ用意したって、また難癖付けられて余計に事態が悪化するだけだ。冒険者として、実力と実績を見せつけてやらなきゃな。

 そのためには、きちんとクエストをクリアしていって冒険者ランクを上げるしかない。修繕費はその中で稼げばいいや。

 とりあえず俺はアイテムボックスのインベントリ内のアイテムをすべて売却する。脳内に表示されているボタンをぽちっと押せば一瞬で処理完了だ。

 そしてなんとスマホの中に表示されている残高は1,755,686Gになった。


「おお! これだけあればなんでも買える!」


 このなんでもスマホを使えば、あらゆる商品を現代から取り寄せることができるらしい。

 とりあえず今すぐ食べれそうなものを探して、食品のページを検索する。

 うーんレトルトや缶詰でもいいけど、せっかくだし美味いもの食いたいよなぁ。

 モカにも美味しい料理を食べさせてやりたい。


「しゃあない、俺が作るか!」

「…………?」


 さすがに川で魚を採ったり肉をさばいたりは無理だが、食材と調理器具を買いそろえれば、森の中でも料理するくらいはできる。

 ずっと一人で孤独に引きニートしてたんだ。自炊くらいはお手の物。

 とりあえずキャンプ用の料理器具と、バーベキューセットなんかをいろいろと注文する。

 それからモカと川辺に移動し、野営の準備を整えた。

 ものの5分くらいで、アイテムボックスの中に注文した商品が届いていた。

 俺はそれを並べて、ちょっとしたキャンプ場を作り上げた。


「すごいですトウヤさん! どれもこれも見たことないような魔道具ばかりです!」

「まあな、俺の田舎の師匠(女神)の造ったユニーク魔道具だ」


 極端な嘘は吐いていない……と、思う。

 さっそく俺は食材を袋から取り出して焼いていく。

 高級肉や野菜たっぷりのバーベキュー大会といこうじゃねえか!


 ――じゅううう。


「うわぁ……すごく美味しそうな香りです……ゴクリ」


 口から今にもよだれが出そうな感じで、モカが食い入るように肉を眺める。


「はは、もう少しまってくれ。今すぐ食わせてやるからな」

「わ、私もいただいていいんですか!?」

「当然だろ? まさか俺一人で食うとでも思ってたのかよ。それに、俺たちはもう仲間だ。遠慮はいらん」

「わぁ……! ありがとうございます! トウヤさん!」


 とっても遠慮がちだけど、素直でいい子だ。

 俺はもっとモカが喜ぶ顔が見たくなった。


「よっしゃ! 出来たぞ! どうぞお先に食ってくれ!」

「いいんですか! ありがとうございます! いただきます!」


 俺は肉をモカの皿に取り、そこにバーベキューソースをかけてやる。

 それから野菜やスープも用意して……っと。


「トウヤさん! こ、これ……! すごく美味しいです!」

「そうか、よかった!」

「こんな高級なお肉、生まれて初めて食べましたぁ♡ うーん、ほっぺたがとろける~」

「ははは、大げさだな」


 だが、異世界人からしたら誇張抜きにそうなのかもしれないな。

 日本で買える最高品質の肉を用意したからな。到底こっちで食えるような肉とはわけがちがうだろう。

 しかもなんといってもこのバーベキューソースが最高だ。

 俺たちがしばらくの間、高級食材たちに舌鼓を打っていると……。

 どこからか、大型の虫モンスターが空気も読まずにブーンと飛んできた。

 肉の臭いにつられてやってきたのか、大きなハエのような気色悪いモンスターだ。

 そしてそいつはあろうことか、モカの目の前にちょこんと止まった。


「ぎゃあああああああああ!!!! と、トウヤさん!!!! 虫です! 虫!!!! いやあああああああああああああああああああああ!!!!」

「お、落ち着けモカ!」


 モカは発狂して手に持っていた肉を皿ごと宙に放り投げた。

 とにかくこの虫をなんとかしないと……。

 俺は虫に向かって魔法を放つ。


「アイス――!!!!」


 森の中だから炎魔法じゃなくて氷魔法を使って追い払う。

 さすがに魔力のコントロールもできるようになってきたから周りに被害はない。

 ピンポイントで虫モンスターにだけ氷のつぶてをぶち当てて瞬殺だ。


「ふぅ……大丈夫か! モカ!」

「あ、ありがとうございますぅ……」


 モカは恐怖と驚きのあまり、その場に腰を抜かしてへたり込んでいた。


「……って、モカ。服が汚れてるじゃないか!」


 さっき皿を放りなげたせいで、モカの綺麗な服にバーベキューソースがべったりついてしまっていた。

 しかも肉の油やスープまでしみ込んでいて、今すぐに洗わないと染みになりそうなくらいだった。


「だ、大丈夫です。私は平気です!」

「ダメだって。今すぐ洗って乾かさないと!」

「そ、そうですか……?」

「そうだよ。せっかくのモカの可愛い服が台無しじゃないか!」

「か、可愛いですか!? そ、そうですか……それなら……」


 ということで、ちょうどそこに湖もあることだし、モカは服を乾かし、水浴びをすることになった。

 もちろん俺はその場から離れて、絶対に見えないようにして待機する。

 ただモカになにかあったときにすぐ駆けつけれないと困るので、あくまで声が届く範囲だ。


「すみません、私がドジなせいで……時間を無駄にしてしまって」

「いや、そんなことないさ。それよりも、汚れが落ちてよかったよ」


 俺がまたスマホで取り寄せた洗剤をつかったら、汚れはすぐに綺麗に落ちた。

 あとはドライヤーと携帯バッテリーのおかげで、水浴びが終わるころには乾かし終わっているはずだ。

 物干し竿にドライヤーを器用に固定して、自動乾燥機を作ってある。

 くぅ……モカの水浴びをこの目で見られないことだけが悔やまれる。


『じゃあ覗けばいいじゃん』

『そんなことするかバカ』


 暇なので脳内で女神にツッコミを入れていた。そのとき――。


「きゃああああああああああああああ!!!!」

「モカ…………!?」


 モカが水浴びをしている方から、ただならぬ悲鳴がきこえてきた。

 俺は急いで、その場に駆けつける――。

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