ご懐妊から始まる溺愛〜お相手は宇宙人

七夜かなた【電子書籍配信開始】

第1話 ご懐妊

「おめでたですね」


 ちょっとお腹の出たお医者様が、和音にそう言った。  


「え? あのもう一度お願いします」


 聞き間違いだろうか。「おめでた」というのは、妊娠した女性に言う言葉だ。それとも和音の知らない別のことでもそういうのだろうか。


「あなた、妊娠しています」


 医者は言い方を変えてそう告げた。

 どうやら聞き間違いではなかったようだ。と、すれば。


「誰かとカルテ間違えていませんか? もしくは検査の結果を間違っているとか」


 告げられた言葉が信用できず、疑いの眼差しを向ける。


 そもそもの発端は人間ドックだった。

 地球上のどの国でも女性は二十歳から二十三歳までに人間ドックを受けることが法律で決められている。

 それはどの国でもどんな女性でも例外はない。

 では男性はというと、女性のように法律では縛られていない。そこは任意なのだ。

 なぜ女性だけが必須な上に法律で義務化されているのか。

 それは少子化問題に関係すると聞いている。

 結婚しない人も増え、妊娠出産しない人も増えてきたため、二十一世紀後半から出産率向上が世界共通の問題として、世界保健機構から提言されたのだった。

 しかし、妊娠出産するためにまずは健康第一ということで、人間ドックを受ける。

 受検料はもちろん国の負担で無料。しかし受けられる施設は限られており、四十七都道府県のうち、わずかに五箇所のみ。地方から受検する際に備えて宿泊先も完備されていて、さながらリゾート施設並に豪華だった。

 和音は今年で二十三歳。受検年齢ギリギリで受けるため、ここ国立健康管理センターでそれを受けた。

 なぜギリギリだったのかと言うと、母子家庭で母親が病気になり、看病のために受検のための時間が取れなかったからだった。

 その母もついこの前看病のかいもなく亡くなり、三ヶ月後には二十四歳になるという状態で、保健所から最後通告が届いた。


「妊娠も出産も相手がいないから予定もないけど、タダだし、ペナルティも嫌だし受けよう。それに、子供がもし産めるなら結婚を考えよう」


 そんな感じで二ヶ月前に東京にある病院で受けた。

 唯一の近親者である母親を亡くし、天涯孤独となったからこそ、自分が子供を持つということに、関心が湧いたのもある。


 検査結果は特に問題なし。

 健康の太鼓判を頂いて帰宅した。

 しかし、その一ヶ月後、軽い目眩や胸焼け、そしてどんなに忙してくて寝不足でもきちんと来ていた生理が来なくなった。


「健康だって証明されたのに」


 そんな時、人間ドックを受検した国立成人病センターからその後の体調について問い合わせる手紙が届いた。

 二十四時間いつでもお問い合わせください。

の文句を読んで連絡したのだ。


「どのような症状が?」


 繋がったオペレーターに自分の症状について話すと「え!」と、なぜか驚かれた。


「え、何か大変な病気でも?」


 脳裏を過ぎったのは亡くなった母のこと。病気って遺伝も関係することがあるとかないとか、だったかな。


「再検査いたします。もちろん旅費等は全部こちらもちで」


 そう言って飛行機のチケットなどが送られてきた。

 そしてなぜか大勢のスタッフに迎えられ、この前人間ドックで受けた場所より更に豪華な最上階に連れられて、「院長」と書かれた名札を胸に掲げた目の前の男性が出てきた。

 血液検査やらエコー検査、そして恥ずかしながらの婦人科の検査を終えて、一時間後、和音は「院長室」というプレートの掛かった部屋へ連れてこられた。

 まさか、すごく稀な病気とか、根治出来ない病気とか?

 びびりながら豪華な革張りのソファに座らされて、さっきの言葉を告げられたのだった。


「城咲和音さん、おめでたです」

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