『友達部』へようこそ。~ボッチの俺が居場所を求めて~

虻川岐津州

ボッチ不良


本当は、友達が欲しかった。


俺、ユーリア・イリイーチ・ヨシムラは中学の3年間、1人で過ごした。


1人の方が気が楽だったから


周りの人達が、俺を見る眼が怖かったから


生徒はもちろん先生まで腫れ物に触れるかの様に扱うのだから



いつのまにか誰も近寄らない人間になっていた。



------------------------



4月、高校生になった。


その日の俺はこれからの生活を少なからず期待していた。


父親がロシア人なので俺の髪の毛は灰銀色、目の色も青という日本人顔ではない、おまけに身長は180センチ、見るからに威圧的なため、中学では友達と呼べる人付き合いはなかった。


だから夢を見ていたんだ。


友達を作って、なんならまだ見ぬ彼女とイチャイチャしたいな。


バラ色の、さくら色の思考に囚われて高校生活という青春の1ページを飾ろうとしていたのだが………。



ナンデコウナッタ。



今、…俺は…病院に…住んでいる。



入学式当日、登校中にアクセルとブレーキを間違えた、お年寄りに車で撥ねられた。


車は壁にぶつかり大破、撥ねられてなかったら壁と車の間に挟まり、死んでいただろう。


幸い、お年寄りの方も怪我はなかったらしいが、俺はというと肋骨を折ったせいか呼吸がしづらかった為、入院することになった。


誰も見舞いに来ない。


知り合いや、まして友達なんていないから…。


ついでに言うと両親は4月から仕事の為、海外生活。


高校生になったとたん一人暮らしとなった。


こんなとこで高校生生活をスタートするとは誰が想像しただろうか。




家に誰もいないこともあって3週間入院した。


入院中、見舞いに来たのは、俺を撥ねたお年寄りと担任の先生と名乗る女性、たったの二人だった。




初登校が4月の終わり、新入生歓迎イベントとか親睦旅行的なものも終わり、クラスのグループが出来上がっていた為、中学から引き続きボッチというグループに分けられてしまった。


転校生なら未だ良かったのだけど、入学初日から3週間、登校しなかったことで不良と思われているようで、もうすぐあるゴールデンウイークという大型連休の予定も全く何もない、本当にこれからの学校生活に不安しかない。


日本人離れした顔、恵まれた体格、みんなが近寄りがたいのは、その見た目もあるのかなとは思う。


おまけに、自己紹介の時に居なかったので同じクラスの生徒の名前すら知らない。


当然、隣の席の眼鏡女子も間違いなく怖がっている。


高校の付近も、まだ慣れていないから町の中を一人でウロウロすることも多かったけどすれ違う人からも恐怖が伝わってくる気がする。



そんな俺だったがある日、町でモデルのスカウトに声を掛けられた。


自分を変えたいとか、お金が欲しいとか、そんな気持ちは無いけど、自分の居場所が欲しいと考えていた俺にはスカウトの史内隆俊ふみうちたかとしさんの言葉は、渡りに船って具合に心に響いた。


史内さんを信じて、その日にモデルの仕事をする契約をして、連絡先を交わし後日、会う約束をして、その日は別れた。




授業は、入院中、何もすることがなかったので先生が、お見舞いで持ってきてくれた教科書で勉強していたおかげで難なくついていけたというか、それ以上で5月中旬の中間テストでは学年7位という成績を修めた。


うちの学校は中間テストと期末テストは上位30位までの順位を張り出すので7位だと分かった。


余談だが名前がユリア・I・吉村となっていた為、ほかのクラスでは帰国子女の銀髪美女だと勘違いされ大いに沸いたそうだ。


-------------------------


中間テストが終わりみんなが浮かれ気味に下校準備する中。


やはり、ボッチの俺は誰にも声を掛けられる事もなく帰る準備をしていた。


「ヨシムラ、後で職員室に来い」担任の?先生に呼び出された。


“先生の名前、知らないな”などと考えていたが教室を出て職員室に向かう途中


授業で使った資料本を抱えた同じクラスの女子を見かけたので手伝いを申し出て職員室まで行くことにした。


ついでに、先生の名前を聞いた。


先生の名前は倉野清美くらのきよみと解った。


それだけで良かったのだけど、俺のことをみんなが不良だと怖がっていることまで教えてくれた。


同じクラスの女子は澤田望さわたのぞみ、委員長をしているということだった。


どうりでみんなが怖がっている俺に話しかけてくれるはずだと納得した。


見た目で取っつき難いんだろうねって事らしい。


まっ、想像通りだけど。


委員長と話しながら職員室に着いた俺はそのまま担任の倉野先生のところまで行き資料本の束を机において先生に聞いた。


「何か用ですか?」と尋ねると、


「用ってほどのことでもないんだが、ヨシムラ学校楽しいか?」と聞いてきた。


俺は、少し考えて「…どうでもいいかな」と答えた。


いい加減な返答に、倉野先生はあきれ顔で「そっか、楽しくないか」と言った。


委員長の澤田さんが何か言いたそうだったがその前に俺が「それも含めて、どうでもいいです。委員長と話しながら来たんですけど、俺、クラスのみんなから怖がられているみたいですし、なんか今更、話しかけたりしにくいんですよね。それに、中学の時からボッチなので、一人のほうが楽かなっていうのが本音ですね」


「じゃあさ、ヨシムラ、部活やらないか?」先生がそんなことを言ったが。


何がじゃあなのか、どうして部活をせねばならないのか疑問なのだが。


「部活とかめんどくさいので嫌です」と返す。


「ヨシムラは体格もいいから運動部で活躍できると思うんだがな」


「よしてくださいよ、動くの苦手なんで運動なんて無理ですよ」


俺の説得が無理だと思ったのか、先生の矛先が委員長に向かった。


「澤田、お前、部活してたっけ?」


「いいえ、私も帰宅組ですけど」一瞬、先生の目が光ったように見えた


「よしっ‼澤田とヨシムラで何か部活作って始めろ」


「はぁ~、何言ってんすか。勘弁してくださいよ」


「先生、わけわかんないこと言わないでください。どうして私とヨシムラ君なんですか」澤田さんが反論する。


「実はな、クラスで部活やってないやつに何か部活をやらせろって校長がうるさいんだよ」


「なんでうちのクラスなんですか?他にも部活やってない人はいると思うんですが」


「そうですよ、私達には私達なりの放課後の過ごし方ってあるんです。いくら校長先生に言われようと指図されたくありません」


「じゃあ、本当のことを言おう。実はなうちの生徒で、でっかい外人顔のやつが放課後うろうろしてる。子供が怖がるって苦情が入ってな「それ俺のことっすか?俺のことっすよね」その対応で部活やらせろってなったんだよ」


「じゃあ、ヨシムラ君だけ部活すればいいじゃないですか。なんで私にまで、とばっちりが来るんですか」澤田さんは当然反論する。


「そこは、ヨシムラ一人じゃかわいそうかなと………」目線をそらし先生がそんなことを言った。


「ようは、私にヨシムラ君の監視をしろということですよね」先生の苦笑いに図星だと思った。


澤田さんもそれに気づいたのか益々嫌な顔をして「なんで私が…」とぼそっと言った。


俺みたいな訳の分からない外国人顔の奴には係りたくないんだろうけど、先生の態度にも澤田さんの言動にも嫌な気持ちが含まれていることは明確なので俺は何の反応もできなかった。


だから、「部活は俺一人でなんかします。先生にも委員長にも迷惑はかけません。それでいいですよね。でわ、さようなら」と言って足早に職員室から出て行った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る