第23話 悩み
崎本からダンジョン攻略の許可が出たので、早速次のダンジョンを探した。
しかし、現在参加可能なダンジョンを見て、絶望する。
二つしかなかった。
(少なすぎだろ……)
現在、ダンジョンは月に二回程度しか出現しない。
だから、難易度の低いダンジョンが出現すると、すぐに攻略されてしまい、ダンジョン不足になる。
実際、俺が許可を待っている間に、東北でダンジョンが一つ出現し、攻略されてしまったようだ。
(もっと増えればいいのに)
おそらく一般人が聞いたら、不謹慎だと思うに違いないだろう。
彼らにとって、ダンジョンは災厄の元凶でしかない。
しかし俺からすると、ダンジョンはある種のアトラクションであり、エンタメだった。
だから、より多くのダンジョンで楽しみたいと思う。
(まぁ、でも、ないなら、しゃーない。どっちにしようかな)
残っているのは、『軽井沢ダンジョン』と沖縄にある『美ら海ダンジョン』だった。
軽井沢ダンジョンは相変わらず難易度がSだし、美ら海ダンジョンは難易度がBだった。
近場という観点なら、軽井沢ダンジョンだが、杭打の存在を考えると、躊躇してしまう。
また、難易度がかなり高く、制度上は参加できることになっているが、現場では経験不足を理由に、嫌がられてしまうかもしれない。
一方、美ら海ダンジョンの懸念点は金だ。
宿泊費に関しては、ギルドが運営する野営地を利用すれば何とかなるが、交通費は負担してもらえない。
だから、金がない俺にとっては、安くはない出費になる。
(でも、軽井沢に行くのにも金がかかるし、少しだけ高くなったと思えば、いいか。あ、でも、今は正月だぞ)
俺には関係ないが、世間は今、正月と呼ばれるシーズンだから、沖縄行きの飛行機のチケットが取りにくいし、取れても馬鹿高いことが容易に想像できた。
(見るだけ見てみるか)
航空会社のサイトを確認し、自分の予想が当たっていることを知る。
やはり、高いチケットしかなかった。
もしも俺が上位ランカーだったら、ギルドの力で何とかできたかもしれないが、駆け出しの冒険者に、ギルドはそこまではしてくれないだろう。
(……明日の俺に任せよう)
その日は決断することなく、眠った。
そして翌日、ギルドのサイトを開いて、落胆する。
美ら海ダンジョンが攻略されていた。
つまり、残っているのは、軽井沢ダンジョンだけだった。
(軽井沢か……)
別に場所が嫌なわけではないが、近場だと、あの杭打が現れる可能性があるから、それだけを懸念している。
(どうしようかな)
悩んでいるうちに、イライラしてきた。
俺はただ、ダンジョン攻略を楽しみたいだけなのに、どうしてダンジョンとは関係ない部分では悩まなくてはいけないのか。
本当にあの男が邪魔だ。
いっそのこと、事故に見せかけて殺してしまおうか。
その方が幸せになれる気がしてきた。
あの男を本気で消したい。
――そのとき、スマホのアラームが鳴り、我に返る。
(……ヤバいヤバい)
頭の中が殺意が渦巻いていた。この状態で狂戦士になったら、本気であの男を殺しかねない。
だから俺は、気分転換のために、バッティングセンターに行って、ひたすらボール――否、杭打の顔面を打ち続けた。
そうしていると、憂鬱だった気分が和らいでくる。
そして、杭打を殴り続けたことで満足した俺は、軽井沢へ行くことにした。
今の精神状態なら、あいつを見かけても、我慢できるだろう。
しかし、軽井沢ダンジョンに関する情報を確認しようと思い、改めてギルドのサイトを見て、俺の考えは変わった。
栃木県の日光市に新たなダンジョンが出現していたからだ。
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