悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

夢見るシャーリー

夢じゃなかったんだ……)

 シャーリーはゆっくりとベットから起き上がり、部屋を見渡した。

 ふかふかのベッド、格調高い物に囲まれた豪華な部屋 。平民で孤児院暮らしだっだシャーリーとは縁遠いものだった。

「おはようございます、シャーリーお嬢様。起きていらっしゃるでしょうか?」

 扉がノックされ、外からそう聞こえた。

(お嬢様……。私、男爵家のお嬢様になったのね……)

 シャーリーはうっとりとし、自分の身に起きた奇跡のような出来事を思い出す。

 8歳の時、暴走した馬車が起こした事故で両親を亡くしたシャーリーは、身寄りがおらず孤児院で暮らすことになった。孤児院は経営難だったらしく、生活は楽ではなかった。しかし、同じ孤児院にいる子供達と楽しく暮らしていた。

 そしてシャーリーが14歳になる年に、クリフォード男爵家当主のクレイグと彼の妻マージェリーが現れた。何でも、シャーリーの父はクレイグの兄で、平民の女性と駆け落ちしたそうだ。シャーリーの父がクリフォード男爵家と縁を切っていたせいで、亡くなったことやシャーリーの存在のことが今までクレイグに伝わっていなかったのだ。しかし、それを知ったクレイグが是非兄の子供であるシャーリーを引き取りたいと申し出たのである。ちなみに、クレイグとマージェリーの間には子供がいない。子供に恵まれなかったようだ。そういった事情もあり、シャーリーをクリフォード男爵家で引き取り後継者として育てたいみたいだ。

「シャーリーお嬢様?」

「あ、起きてます」

 カーラという、シャーリー専属侍女の声でハッと我に返った。

 その後、カーラにより身支度を準備されて、シャーリーはクリフォード男爵邸のダイニングルームに向かう。

「おはよう、シャーリー。よく眠れたかい?」

 義父ちちとなったクレイグが、シャーリーに優しく問いかける。

「はい……お義父とう様……?」

 シャーリーはおずおずとクレイグのことを義父と呼んだ。

「それはよかった。困ったことがあれば遠慮なく言ってくれて構わない」

 グレイグは嬉しそうである。

「ありがとうございます、お義父とう様」

 シャーリーは微笑んで返事をした。

「シャーリー、スコーンは好きかしら? 今日の朝食はスコーンなのよ」

 朗らかに微笑む義母ははマージェリー。

「スコーン……! 今まで食べたことがなかったので、楽しみです」

 シャーリーは目を輝かせてに微笑んだ。

「あら、そうなの。だったらたくさん食べるといいわ」

 ふふっと笑うマージェリー。

「ありがとうございます。えっと、お義母かあ様」

「あら、お義母様だなんて、照れるわ」

 マージェリーはシャーリーからそう呼ばれ、嬉しそうに微笑んだ。

 クリフォード家の朝が始まる。

 シャーリーは、褐色の髪にグレーの目で可愛らしい顔立ちをしている。

 グレイグはブロンドの髪にグレーの目、マージェリーは栗毛色の髪ににクリソベリルのような緑の目である。

 血縁上ではシャーリーはグレイグの姪に当たるので、2人の顔立ちは少しだけ似ていた。

 そして翌日からは貴族令嬢としてのマナーや所作などの勉強の時間が始まった。

 ネンガルド王国の貴族令嬢は15歳になる年に、成人デビュタントの儀に出席して初めて社交界デビューとなる。シャーリーは今年14歳。成人デビュタントまで1年もない。だからマナーや所作の勉強は少し厳しめだった。そのせいでシャーリーはこの時間が大の苦手になってしまった。

(貴族のお嬢様ってこんなことしないといけないのね)

 シャーリーは勉強の時間になると憂鬱になる。しかし、同時に別のことも考えていた。

(だけど、私が置かれた状況ってまるで物語の主人公だわ! 貴族の家に引き取られた平民の女の子が、これから社交界に出て王子様とか身分の高い男の人と出会って恋に落ちる……)

 シャーリーはうっとりとした表情で想像を膨らませていた。

 2年程前からネンガルド王国の市井では、少女達の間でそういったロマンス小説が流行っていたのだ。シャーリーも孤児院にいた時は友人達と一緒にそういったロマンス小説をよく読んでは友人達とあれこれ妄想していたようだ。

 そうしているうちに、あっという間に時は過ぎてシャーリーが15歳になる年になった。

 マナーや所作の勉強が苦手なシャーリーだったが、何とかギリギリ貴族令嬢としてやっていけるレベルまでは達した。成人デビュタントの儀でも、クレイグにエスコートされながら何とか乗り切った。

(私、これで社交界デビューしたんだわ。これから夜会やお茶会に出て王子様とか身分の高い男の人と恋に落ちる……。素敵だわ!)

 シャーリーはグレーの目を輝かせてウキウキしていた。

 そして初めての夜会でシャーリーはある令嬢と出会うのであった。

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