第8話 トカゲの尾行
大樋、猿飛、梶の三人組でいわゆるイジメっ子集団だ。
俺はこの三人組に目を付けられている訳で邪魔な存在でもある。
そのうちの梶は細身の高身長で百八十センチはある。
しゃくれていてたまに何を言っているのか分からない時もあるが、攻撃的なところがあり誰も気にかけない。ただ後ろにいる大樋の存在にビビって誰も言わないのだろう。
そんな梶は目つきが鋭く獲物を狩るような眼光をしている。
氷華はそんな見た目から『トカゲ』と言っているのだろう。
そんな俺は氷華と共に下校中の梶を尾行している訳だ。
「尾行してどうするのさ」
「峯岸くん。ゲームを攻略する上で大事なことって何だと思う?」
「えっと、攻略サイトを見るとか?」
「その通り。じゃ、敵を倒すためにいきなり敵に戦いを挑むかしら?」
「攻略を優先するなら敵の情報は知るべきだな。でもゲームとして楽しむなら何も知らずに挑戦するのも悪くない」
「これはゲームじゃない。負けは許されない。だったらまず攻略するためには敵の情報を把握することが効率的でしょ」
「なるほど。そう言う意味ではこの尾行は効率的って言えるのか」
「私の情報が間違っていなければこの後、トカゲは弱点を晒すはずよ」
一体どんな情報を掴んだと言うのだろうか。
正直、梶の個人情報なんて興味ないが、敵の情報を知るためには仕方がない。
梶は俺たちの尾行に気付いていないまま電車に乗る。
「普通に家に帰るだけだと思うけど」
「黙って見ていなさい。ほら、降りるわよ」
梶が電車を降りたことで俺と氷華も降りる。
この駅が梶の最寄駅だろうか。でもここは繁華街で住宅がある場所ではない。
家から反対方向になってしまったが、最後までついて行くしかない。
改札口を通ると梶は駆け足で行ってしまう。
「どうしたんだ? あんなに慌てて」
「十七時十分前」
十七時に何かあるのだろうか。
すると、梶はとあるビルへ入って行く。
その入り口にはとあるアイドルのライブ会場と書かれていた。
「もしかして梶って……」
「いわゆるドルオタってやつね。私たちも入りましょう」
「入るってチケットないけど」
「チケットならここに」
準備万端といった感じに氷華は二枚のチケットを見せた。
「いつの間に」
「後で五千円請求させてもらうから」
「あ、はい」
バイトをさせていたのはこのことも影響があったのかもしれない。
会場に入り、薄暗い室内には三十人程度の観客がいた。
その中に梶は先頭にいた。しかも衣装を用意していたのか、推し全開のものである。
「皆! 今日は来てくれてありがとう。きらりんズの
三人グループのアイドルでそのうちの黒髪ショートカットの天神亜豆が梶の推しらしい。駆け出しのアイドルでまだ知名度はないので現在は地下アイドルとして活動中。
「あずあず! 今日もきらりんしているー?」
「はい。キラキラ!」
何だ。このノリは。全くついていけない。
「峯岸くん。シャッターチャンスよ」
梶は推し全開で激しいドルオタダンスを披露する。
動画と写真を納めて証拠は抑えた。
「普段、イキっているトカゲがこんなものを見せられたら印象が三百六十度変わるわね」
「一周しちゃっているな。確かに別人みたいだ」
「彼、小遣いや食費を削って推しアイドルに全額注ぎ込んでいるみたい」
「そこまで? 執着心強いな」
梶の動きが速すぎて目で追えない。
この時間に全力を尽くしているようである。
ライブの後は握手会が行われていた。
「握手会、参加しなくていいの?」
「いや、知らないアイドルだし」
「でもお金払ってここまで来た訳だし、女の子の手を触れる良い機会だと思うけど」
「変な言い方するな」
氷華に茶化されたが、ノリで俺は握手会に参加した。
「今日は参加してくれてありがとう。また来て下さいね」
「こ、こちらこそ。良いダンスだったよ」
「ありがとうございます」
ニコリとアイドルの天神亜豆は微笑んだ。
まぁ、悪くない……かも。梶のような全力な推しにはなれないけど。
「どう? アイドルの生を味わえたかしら?」
「変な言い方するな。氷華さんは握手会参加しなくて良かったのか?」
「興味ないわね」
人にはさせておいて自分はしないのか。別にいいけど。
梶は人に迷惑を掛けないだけまだマシかもしれないが、普段の行いは迷惑でしかない。
その存在は決して許されるものではない。大樋と一緒になって悪さをしている時点で同罪なのだ。
「さて。必要なカードは揃ってきたわね。次はジョーカーを取るわよ」
氷華は不敵な笑みを浮かべていた。
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