第3話 図工部部長・女古優麻

 そこへ、

「辰流」

 今しがた、魔女とまで言われた女古優麻にこゆうまが現れた。

辰流は、一旦止まり、よもや聞かれてはいないだろうかと慎重になりつつ振り返った。

 あと数センチで辰流と並ぶほどのスラリとした、女子の全国平均よりも高い身長。肩甲骨辺りまで伸びる艶やかな黒髪。前髪を眉に沿って一直線に切りそろえているため、やや細めの切れ長の目が力強くあらわれている。すうっと伸びた鼻筋と薄く鮮やかな唇。きめの細やかな肌は夏を経過したせいか、わずかに日に焼けている。しとやかな指には図工部ならではの切り傷や擦り傷一つもない。そんな魅惑的な外見に負けず劣らず、学業に関しても、県下ナンバー二の当校にあって、その校内トップスリーから落ちたことはない。ただ、無口な上に人との接触が極めて限られていた。迎合を良しとしないとでも見えかねないが、とはいえ、不遜というわけではない。決して他人が近づけない空気が彼女の周りにあったのである。それさえも、図工部ゆえに彼女がバリア的な何かさえ作り出しているから近づくことができないと小声がなかったわけではなかった。

 その風貌や能力と相応するとは思えないような図工部などという部の創設早々、美術展やらコンテストやらへの出品がことごとく入賞を果たし、賞金が入ることは一度や二度ではなかった。その他もろもろのやっかみを込めて、いつしか彼女には魔女というニックネームがつけられていた。

これが、図工部が有名な理由である。

気配なく近づいていた優麻は、二人から距離を取りつつ、

「ちょっと図書室に寄るから、遅くなるわ。それとこれ、甲斐さんから差し入れだそうよ」

 優麻からランチボックスサイズの保冷バッグが渡された。優麻の同級生・甲斐からはこうして時たまもらいものがあった。彼女は優麻にとって五指に収まる数少ない関係者の一人だった。

辰流にそれだけを言うと、道下に一瞥をさしてから静かな足音を廊下に響かせて遠ざかって行った。

「さすが魔女だな。地獄耳なのか」

 時間とわざとらしくおいてから硬直を解す道下に

「そんなこと言ってっから……。ま、いいや」

「で、その厨二病はどうしたんだ?」

 話題を戻された。

「火傷した。その痕を見られたくない」

 冷淡に一言で閉める。内心は言い訳探しに躍起になっていたのだが、それを悟られる訳にはいかないし、幼稚園以来の同学は察しが良い。

「魔女の実験でか?」

「だーかーら……実験は実験だが……」

「ほらみろ」

 そんな普通の男子高校生たちの雑談が交わされていたのだが、辰流の左腕に巻かれていたのはちっとも普通ではなく、彼が言い淀み、言い訳を探すのに十分なくらいに、道下曰く厨二病じみている代物であった。

 なぜなら、それは、一反木綿だったからである。

 一般的な男子高校生と、妖怪が共生をすることになったきっかけ。それは三週間近く前のことである。

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