枯れ尾花を揺らす者

「あのー……この先の廃寺に幽霊がでるって話。本当なんですか?」


 私の経営する小さな民宿を訪れた客が、夕食の時間にそんな事を聞いてきた。とても若い男女の客で、多分カップルか何かだろうと私は思った。


「ええ、まあ。……あまり大きな声では言えませんが、以前あの寺の敷地内で首を括った人がいるとかなんとか。ここを訪れたお客様の中にも、苦悶に満ちた男の姿を目撃したという方々が何人もおります」

「ええー!」

「コワーイ!」


 大袈裟に彼等は驚いてみせた。だがそれは、自分たちが楽しむ為の雰囲気作りにも見える。きっと食事の後はそこに肝試しでもしにいくつもりだろう。ウチにくる客はほとんどが目当てなのだ。

 私は二人への夕食を出し終えると、裏手に回りアルバイトとして雇っている地元の青年に声をかけた。


「この後お客様が二人、あの寺に行くらしい。だからいつもみたいに適当に怖がらせてやってくれ。若いし、きっとSNSとかで騒いでくれるだろう。……全くいい時代になったもんだよ。広告一つにウン十万とか払ってたのが馬鹿らしくなるね」

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