第4話 日記に秘められた意味

 自分の命が危ない。僕は家を飛び出した。


 あくびをしていた張り込みの警官が、慌てた様子で追いかけてきた。僕は無視して大学病院へと走る。救急車を呼ぶより大学病院に駆け込むほうが早い。全力疾走しながら頭を整理した。


「今日昼ごはんに食べたカレーがとても辛かった。翌日もずっと辛いのが続いている。」


 ここでいう“翌日”とは8月21日。つまり氷雨の死後ということになる。でもそれでは当然おかしい。


 ならこれは


 一行日記には縦の罫線しか引かれていなかった。僕が読み間違えたのだ。


 あの2文字が「翌日」ではなく「」だったのだとしたら。そうなれば、2つめの“辛い”は「からい」ではなく「つらい」と読むことができる。


「今日昼ごはんに食べたカレーがとてもからかった。羽音もずっとつらいのが続いている。」


 僕はずっと、カレーに毒を盛られたのではないかと考えていた。でも氷雨は僕の料理しか食べないと言っていた。


 ということは、犯人が凶器に使ったのは毒入りカレーではない。羽音の出る生物を殺害に使ったということになる。猛毒を持つ昆虫か、あるいは……。


 そのとき、足元がもたついた。電柱に寄りかかる。額を触ってみると、とても熱い。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 ダメだ。もう走れない。


 と、誰かに後ろから肩を掴まれた。


「何をするつもりだ、堀北晴。まさか逃亡か?」


 張り込みの警官に捕まってしまった。僕は精いっぱいの声で答える。


「病院に……大学病院にお願いします。外国の病気とかに詳しい人に……誰かに……」


 直後、僕は気を失った。

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