初恋を乗り越えた先で最愛に変わった。

冒頭、なんて過激な愛に縛られた夫婦なんだろうと、強烈なインパクトを与えた激しく燃え上がるような情熱のヴェロニカさんと温かい陽だまりのような慈愛のハロルドさん。
全く真逆だけれど、ただの政略結婚で終わるような絆でもない、惹かれ合う夫妻の姿に圧倒されました。
そして事態は急転直下、思わぬ方向へと二人を引き裂いた。
ハロルドさんの心に棲まう女性がいるのは分かっていたけれど、まさかその女性の旦那様、しかも陛下にヴェロニカさんが監禁される羽目になるとは思わなかった!
陛下の逆怨み凶行による被害者になっても、決して弱音を吐く事なく凛とした姿は、あの過激なまでに一途に旦那さんへの愛を貫いたヴェロニカさんらしいけれど、揺さぶられた自分の心を保つためには旦那さんへの愛に縋るしか無かったのかもしれない。
そんな中で半年もの長期攻防戦に持ち込まれ、折れたのはまさかの陛下。
きっと、陛下が欲した愛情のカタチも、信頼も、友情も、全て兼ね備えた人がヴェロニカさんだった。
決して振り向かない、自分に靡かないからこそ、陛下は余計ヴェロニカさんが眩しく、恋しく写ったのだろうな。
それは確かに、母親への崇拝のような愛でもあり、一人の女性として恋い焦がれた愛でもあった。
そんな頑なな陛下の心を解放したのもやはりヴェロニカさんで、最後まで泥まみれな自分を信じてくれた気持ちに報いたかったから、ヴェロニカさんを手放したような気もしました。
激情的な愛で縛る妻の自分への想いが鎮火してしまったように感じ、彼女の気持ちを取り戻したくて焦り、必死で、激しく求めるようになるハロルドさんの気持ちが痛々しく、切なくなりました。
まるで立場が逆転した夫婦となってしまったけど、最初から最後までヴェロニカさんの愛は初恋相手のハロルドさんのもので、変わったのは恋い焦がれた想いが熟され唯一の最愛に変わっただけ。
初恋は実らないのではなく、溢れる想いに溺れるか、焦がれる想いに燃え尽きるのかもしれない。
ヴェロニカさんがハロルドさんの腕の中で安心して眠れるように、愛する人との可愛い子宝に恵まれ幸せに笑うように、孤独に怯える陛下もいつか周りの様々な愛し方に気づくといいな。
とても素敵な話でした。ありがとうございました。