第2話 赤き悪魔と戦神と呼ばれる者
戦場で戦神と呼ばれる猛将がいた。
名はグラディウス・ヴァンアスガルド。帝国では大将の地位についているものの、現場主義者なのか、戦好きなのかわからないが、後方で指揮を取ることなく、戦場を駆ける強者だった。
私はエルバル国で中隊長の地位にいた。女だてらに一個中隊を率いるのは珍しいことだったが、如何せん私は強かった。赤髪の魔女という異名が付けられるほど、武勲を上げたと言ってよかった。因みに敵国からは赤き悪魔と呼ばれていた。
そんな私と戦神と呼ばれた男との出会いは、勿論戦場と言いたいところだが、そうでは無かった。
私が主に立っていた戦地は南方であり、戦神は北方で暴れていたので、互いの異名こそ知ることはあったものの、直接対峙することは無かったのだ。
ではどこで出会ったかと言えば……。
「マスター。おかわりー」
とあるバーで私は一人で酒盛りをしていたときだった。
私は既に三軒のバーを巡っており、今いるバーで四軒目だった。まぁ、あれだ。飲まなければやってられないというやつだ。
「毎日、毎日。飽きもせずによくドンパチやってられることだよね」
完全に現実逃避をしていた。毎日とは言っているが長年戦争を続けてきた二国間でも暗黙の了解がある。
春の収穫時期は休戦ということだ。
その休戦期間を使って休暇を申請し一週間の休暇をもぎ取ったのだ。とは言っても部隊の事務処理や武器の申請書類、部隊の増員手続き等に時間がかかってしまった。恐らく戻れば速攻に戦場に送り出されることだろう。
一人グチグチ文句を言っている飲んだくれに、バーのマスターは何も言わずに、琥珀色のお酒を出してくれた。
私はこの休暇で散財することを決めているので、少々高いお酒でも飲めるのだ。
「どこかにいい男って転がっていない? そろそろ結婚退職していいと思うのだけど?」
現在25歳の私は行き遅れもいいところ。赤髪の魔女なんていう異名が付いてしまったために、嫁の貰い手がないのだ。いや、私を慕ってくれている奴らはいるのだが、頭のネジが二・三本吹っ飛んだ奴らばかりで、異性という感覚は全くない。
「だったら俺のところに来るか?」
斜め上から声が降って来たため、視線を向ければ、印象的な金色に視界が占められていた。いや、思ったより近くに顔があったため、思わず身を引く。
そして、瞬時にその人物が誰かを割り出す。
黒い軍服を身にまとっていても、鍛えられた筋肉質の身体が見て取れ、皮肉めいた笑みを浮かべている容姿は、整っているものの、金色の瞳は獰猛さを隠しきれていない。長い銀髪を一つに結っているこの男。
噂に違わぬその姿。
戦神と恐れられるヴァンアスガルド将軍。
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