第9話 天太
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
私の考えた作戦はシンプルだった。
『童話の街にある時計塔を崩して奴らへ叩きつける』。
あの九芒星達は劇場前で芒炎鏡の一撃を受けている。そこへ追い討ちの質量攻撃を加えれば倒せるだろうと考えていた。
結論から言えば作戦は成功した。
絡まる蔦を芒炎鏡を使って燃やすと時計塔は面白いぐらいにバランスを崩しながら広場へ真っ直ぐ落ちて行った。さながら創世記の塔のように。
そして二対の九芒星を巻き込んで大きな致命傷を与えることに成功したのだ。
━━━━━だけど私はこの作戦を実行した事を死ぬほど後悔した。
「ハトちゃん………………?」
時計塔の落ちた広場の先には私のかけがえのないただ一人の親友が血溜まりの中で溺れていたのだ。
なんで、なんで? ハトちゃんの身のこなしなら奴らの攻撃なんて簡単に避けられるのに。私と一緒に訓練した時だって私の攻撃を全部避けたハトちゃんがお腹に大きな穴を空けて倒れていたのだ。
「………………」
「"治療プログラム…………出力全開。対象者の心拍数低下中。グリーンライトの出力…………増加"」
「お願い………………もう少し持ち堪えてねぇ!」
ガレキに埋もれた広場へ戻ると、そこには陣光衛星を使ってハトちゃんを治療するメイアさんの姿があった。
しかし無機質な音声がハトちゃんが徐々に死へ向かっている事を無情に告げていた。
「あ…………あ…………」
叫ぶ言葉も出ない。漏れ出て来るのは嗚咽のみ。
しかし悲しんでいる暇は無かった。
━━━━ガラッ
『………………』
『………………』
ガレキの中から二対の九芒星が這い出て来たのだ。
その星型の身体は大きく崩れ、生物としては瀕死の状態。しかし奴らは生きていた。
ハトちゃんは死んだのにコイツらは━━━━━━生きていた。
「……………………」
この後の作戦とかそんな細かい事はもうどうでもいい。
コイツらはハトちゃんを傷付けた。
━━━━━それだけで、充分だ。
「
「"所有者の音声を認識"」
無機質な音声が鳴り響くと同時に私が背負っていた白い箱が重たい音を立てながら地面へと落ちていく。
そして箱はガシャガシャと軽快な機械音を響かせながら徐々にその形を変貌させた。
━━━━それは一本の真っ白な大剣。
私の身長ほどの大きな大剣が厳かに鎮座していた。
対ホシ型異形決戦兵器『
忌まわしき仇敵を殲滅する最終兵器は燦々とした太陽の光を受けその刀身を明るいオレンジ色に輝かせていた。
「覚悟して………………今からやる」
愛おしいほどの殺意を込めながらその猛々しくも美しい大剣を手に持つ。
底冷えするほどの柄の感触を手の平に感じながら大剣をホシ達へ向け構える。心の中で感情を煮えたぎらせながら。
『
『Bec
舞台の役者は二人と二体。
殺された親友と親友の仇を討つ者。そして親友を殺した者。
「ククク…………」
━━━━なんとも、なんともわかりやすい構図だ。やることもただ奴らを殺すだけとシンプルなのが実に良い。
炎と氷に包まれた悲劇の舞台の上で、さながら西部劇の果し合いのよう。━━━━ついにこの時が来たんだ。
「………………」
『
先に仕掛けたのは敵からだ。
赤い九芒星が己を身体を一際強く輝かせると今までより更に大きな真っ赤な熱光線を放って来た。
私の身体を埋め尽くしてしまいそうなほど大きな炎のエネルギー。その様は全てを溶かし迫り来る溶岩のような熱さ。
並の者なら当たっただけで灰燼と帰すだろう━━━━そう、並の者、ならね。
「━━━ハッ!」
天太芒炎鏡を一振り。これだけだ。
これだけで全てを溶かし尽くすはずだった熱光線は露と消え失せた。
軽い、実に軽い。先程まで苦戦していたのが嘘のような呆気なさに思わず乾いた笑みがこぼれてしまう。
『
『………………
その様子を見て赤い九芒星は私が挑発していると思ったのだろうか。青い九芒星の静止を無視すると、不愉快な二重音声に怒りの感情が込めながら私に向かってその硬い身体で突撃を仕掛けて来る。
「………………ククッ」
赤い九芒星の感情を露わにした突発的な行動。その理由は油断だろうか? それとも何かの作戦だろうか?
━━━━━いや違う、こいつの行動は『下である存在に私が嗤われることなど許されない』という傲慢だ! 今まで人類を屠散らかした者が成せるプライドの結果だ!
「ククク………………ざーんねん」
そしてその傲慢から起こり得る行動の結果を私は待っていた。
戦いというのは先に感情を露わにした者から敗れていくのだ。━━━━━
「
掛け声と共に構えると天太芒炎鏡の刀身がオレンジ色に眩く輝き始める。さながら落ち行く夕陽のように。
そして迫り来る赤い九芒星に向けて両手に握りしめた大剣を思いっ切り振り下ろした。
━━━━━ザンッ
静かな、とても静かな乾いた音がこの童話の街の中で大きく木霊した。
『
そしてカランという音と共に赤色に染まった九芒星はその身体を真っ二つに両断され地面へと崩れ落ちるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます