第15話 看板娘プリティ☆デビル




「い、いラッシャセー……」



 子供部屋ヒキニート、異世界にて初めてのおしごとをするの巻。

結局ウェスタさんに押し切られて喫茶ペチカでウェイトレスとして働くことになってしまった。



「ダメじゃダメじゃ! おい新人、もっと腹から声出さんか!」



「アンタも新人じゃねえか!」



 なんでサタンが仕切ってんだよ。



「なに恥ずかしがっとるんじゃおぬしは」



「いやだっておかしいだろ! なんで俺たち喫茶店で働くのに変身してんだよ!」



 そう、何故か俺とサタンはプリティ☆デビルに変身して店に立っているのである。会えるアイドルかな?



「ふたりともかわいいよ!」



「フレイムがそう言うなら拙者はこれでよいのじゃ」



「俺は良くねえよ」



 サタンの変身衣装は、黒を基調としたフリルたっぷりのゴスロリ風で、喫茶店の制服にしてもギリいける気がする。

でも俺のは布面積少な目のチア衣装だ。チアガールがこんなシックな喫茶店にいるのはおかしいだろ。秋葉原とか行かないと許されないってこんなん。



「ごめんなさいねえ。お店の制服が用意できるまでの辛抱だから」



「そ、それを言われるとなんも返せないっす……」



 売り上げがアップしたら俺たちの制服をオーダーメイドしてくれるらしい。じゃあおしごと頑張らなきゃじゃん。



「ふたりとも、新しい制服を手に入れる為にがんばるルナ!」



「がんばるるな~!」



 ルナはフレイムに抱っこしてもらって、腹話術という設定で人前でも喋れるようになった。いや本当にそれでいけるんか?



「なあサタン、変身ヒーローって普通正体を隠すもんなんじゃないのか? こんな大っぴらにしてて大丈夫かよ」



「とはいえ、そもそもこの姿で入国手続きしたからの。あと拙者の事は今はサタデーと呼ぶのじゃ」



 そうだった、変身してるからサタンは今デビル☆サタデーだった。



「俺も今は、ホワイトじゃなくてデビル☆サンデーか……」



 いやさ、アニメとかだとお約束だけど、実際にいちいち呼び方変えるのめんどくせえな。



「というわけで、しっかり身締めて働いて、ガッツリ稼ぐのじゃ! はい、お客様の目を見てご挨拶! もう一回じゃ!」



「はぴねすエナジーどこいったんだよ」



 __ __



 カランコロン。



「い、いらっしゃいませ~! おひとりですか? お席ご案内します!」



 喫茶店が営業時間になり、ポツポツとお客さんが来店してくる。

何組かの客の相手をしているうちに俺も接客に少し慣れてきた。もしかしてこれ、壮大なヒキニート脱出プロジェクトか何かなのか?



「庶民ども、よく来たのじゃ! さあ何が食いたい? 拙者のオススメはこのトルネードチキンピラフじゃ!」



「いやおかしいだろ! あっすいません……こちらの席へどうぞ。それではごゆっくり~……」



 人に散々接客態度を指摘しといて自分はなんでそんな傍若無人なんだよ!



「わあ、制服フリフリで可愛い~! お嬢ちゃん、お店の手伝いしてるの?」



「喋り方もなんか面白いね~。じゃあわたし、おすすめのトルネードチキンにしちゃおっかな~」



「うむ、料理ができるまでしばし待たれよ!」



「…………」



 サタデーはお客さんからめちゃめちゃ可愛がられていた。こどもパワー恐るべし。



「注文お願いしまーす」



「あ、はーい」



 おっといけない。接客に集中しないと。



「お待たせいたしました。ご注文をどうぞー」



「このサンデー☆スペシャルパフェっていうやつください」



「う゛……そ、それは……」



「あ、もしかして売り切れですか?」



「……い、いえ大丈夫です。少々お待ちください」



 ついに来ちまったか、この時が……



「……ウェスタさん、サンデー☆スペシャルパフェ、入りました」



「りょーかい!」



 …………神よ。



「はい、お待たせ~。それじゃあサンデーちゃん、アレ、お願いね」



「は、はい……」



 俺は処刑台に向かうような気持でお客さんの元へパフェを運ぶ。



「お、お待たせしました~。サンデー☆スペシャルパフェです。それじゃあ、今からこのパフェがもっと美味しくなるように魔法をかけますね~」



 ウェスタさんにお客を増やすアイデアを聞かれて、適当に答えたコレがまさか採用されるとは……。



「パフェさんもっと美味しくな~れ☆デビデビ☆サンデー☆デビデビきゅ~ん☆」



 …………。



「ありがとうございましたサンデーさん。いやほんと……ありがとうございました」



「なんで2回も感謝したんですか」



「これ、少ないですけど受け取ってください。これからも応援してます」



「ありがとうございます……」



 チップ貰っちゃった。明日もがんばろ。



「あんなサービスあるんだ!」



「サタデーちゃんもやってくれるの?」



「ん? おおよいぞ! 特別に呪文をかけてやろうぞ! さあピラフよ、拙者の名の下にその旨味を顕現するのじゃ! デビデビ☆サタデー☆とるね~ど☆」



「かわい~!」



「あ、ほんとに美味しくなった気がする~! さっすがサタデーちゃん!」



「ふっふっふ! 苦しゅうない苦しゅうない!」



 苦しゅうないってなんだよ。喫茶店の接客でそんなこというヤツ初めて見たわ。



「はい、お会計2000エルになりますルナ!」



「ありがとうございました~!」



「フレイムちゃん、それ腹話術? すごい上手だね~」



「えへへ~」



 ルナはフレイムと一緒に会計を担当している。持ち前の頭脳で計算機いらずだ。



「注文、よろしいか?」



「あ、はーい」



 ん? なんか聞き覚えのある声だったな……



「お待たせしましたーって、お前……」



「あ、ホワイ、じゃなかった……サンデーさん、どもです。地獄の釜からあなたの元へ駆けつけました。漆黒のブラックリスターです」



 ダフマじゃねえか。



「……ご注文は?」



「あ、そのあの……サンデー☆スペシャルパフェを……さっきの魔法マシマシでお願いします」



「ウチはラーメン屋か」



 魔法もニンニクも増せねえから。



「ウェスタさんから、お二人が今日からペチカでウェイトレスをやるって聞きまして。これはもう行くしかないと。そしたらサンデーさんが非常に可憐でキュートな魔法を唱えているではありませんか! これはもう我にもやってもらうしかないと、そう思っ」



「はい、パフェ一丁ね。ちょっと待ってね」



 それからダフマはサンデー☆スペシャルパフェを3つも注文し、俺に3回も萌え萌え魔法を唱えさせて、大満足して帰っていった。



「あ、お疲れじゃサンデー!」



「ああ、お疲れ……なあ、サタデーさんよ」



「なんじゃ?」



「働くって、大変なんだな」

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