第47話 一件落着……?

 怪我はないか、乱暴なことはされなかったか、この口の血は殴られたのか? なんてシルヴェストルお兄様に質問攻めにされ、一通り答え終わったあと。


「それにしても、どうやってここがわかったの?」


 お兄様が渡してくれたハンカチでずびびびーと鼻をかんでから、ぼくは聞いた。


「オディロンが失せもの探しの占術を行使してくれたのだ。本来ならば丸一日かかる占術を、類まれな魔力量と卓越した技術によって力任せに短時間で終わらせたのだ。おかげで、オディロンはいま魔力不足で倒れている」

「オディロン先生……!」


 知らない間に、倒れるくらいがんばってくれていたなんて。ぼくは感動に目が潤んだ。


「占術によって、リュカがこの王都のスラム街にいることがわかった。細かい場所を、カミーユが商会の人間を使って割り出してくれた」

「カミーユ……!」


 ちょっと言動が妖しい人だと思っていたけれど、協力してくれたなんていい人だ。


「オディロンとカミーユの情報を元に捜索隊が結成されることになったのだが……オレたちはそんなの待っていられなくってな」


 お兄様はニヤリと笑った。


「『オレたち』って?」

 

「もちろん、オレとアランだ。アランは馬が暴走したときも、誘拐された瞬間も守れなかったと後悔していたからな。場所が判明した瞬間に、二人で城を飛び出して来たのさ」

 

「はわわ……!」


 お兄様もアランも、なんという無茶をするのだろう。

 捜索隊が結成されるまでの間くらい、待てばいいのに。

 でも、そんなに大切に思われているのだなと嬉しくなってしまう。


「スラム街を突っ切る途中、ごろつきどもに絡まれてな。誘拐犯の仲間か、それともオレたちの高貴な身なりを見てカモだと思ったのか。いちいち倒していては、時間が惜しい。そこでアランが囮になってくれたんだ。それですぐにリュカを助けに来れたんだ」

 

「そっか、アランは偉いね。……って、アランをすぐに助けに行かなきゃじゃん!」


 ぼくの指摘に、お兄様は目をぱちくりとさせる。


「たしかにそうだ! リュカを助けられた安堵で、すっかり忘れていた!」


 もう、お兄様ったら。ぼく以外のことになると、ちょっと抜けてるんだから。

 と思っていたら、ぼくの身体がふわりと持ち上がる。


「行くぞ、リュカ」


 なんとお兄様は、片腕でぼくを抱き上げてしまった。ぼくはお兄様の腕に座る体勢になった。


「そ、そんな、ぼく重いよ!」


 片腕に幼児を抱えた状態で、アランを助けに行けるのだろうかと心配した。

 だが、シルヴェストルお兄様はふっと柔らかく笑う。まるで白馬の王子様みたいに。


「何を言っているんだ、リュカは羽のように軽い」


 はわわ……!

 お兄様、かっこよすぎてハートを撃ち抜かれちゃうよ。

 こんなカッコいいお兄様を尊敬せずにいるなんて、無理じゃない?

 好きになっちゃうよ、もう。


 お兄様に抱えられ、アランと別れたという現場へ直行した。


 死屍累々だった。

 そこら中に血痕が飛び散り、ごろつきが倒れまくっていた。ここで死闘があったことは、容易に想像がついた。

 そして道端にアランとカミーユが座り込んでいた。

 なんでカミーユが?


「おや、これは殿下ではございませんか! ご無事で何より!」


 カミーユが顔を上げ、にこにこ顔でぼくに手を振ってきた。あの礼儀正しいカミーユがぼくを目の前にしても座り込んだままでいるなんて、相当疲れているか怪我していることが窺える。


「実はワタシも後から、殿下を助けに向かいまして。そしたらなんと、アラン様がごろつき相手に苦戦しているではありませんか。ワタシ、思わず加勢してしまいまして」


「しょーにんなのに?」


「あはは、カミーユ殿はナイフ一本で戦って下さいましたよ」


 答えたのは、カミーユの隣に座り込んでいるアランだった。こちらも護衛対象のままで座り込んだままなんて、無傷ではなさそうだ。


「リュカ殿下、情けない護衛で申し訳ありません……」

 

「ううん、アランはなさけなくなんかないよ! アランがここでたたかってくれたから、おにいちゃまがすぐにぼくをたすけにこれたんだよ」


「殿下は本当にお優しい方だ」


 沈んだ顔をしていたアランは、くすりと笑ってくれた。


「迎えの者をすぐに寄越させるから、お前らはそこにいろ。オレはリュカを城まで連れて帰る」

「かしこまりました」


 アランとカミーユは、同時に返事をした。


 お兄様はぼくを抱えたままスラム街を駆け抜け、スラム地帯を抜け出した。


「オレが吹っ飛ばした誘拐犯どもも、後から来る騎士らが捕えるであろう。そうしたら黒幕を吐かせて、すべて一件落着だ」


 スラム街を抜けるとお兄様はスピードを緩め、ぼくに笑いかけてくれた。


「わーい、いっけんらくちゃく!」


 もうこれですべて元通り、またシルヴェストルお兄様と一緒にスイーツを食べる日常に戻れるのだ。


 そう思っていた。


 だが、後日報せがもたらされた。

 捕らえられた誘拐犯がすべて、情報を吐く前に毒殺されたと。

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