第11話 楽しい学校行事
月日はあっという間に過ぎて4月が終わり今は5月の初め、学校行事で新入生同士の親睦会を兼ねた勉強合宿と言う一泊二日の行事がある。
クラスで3~5人のグループを作り一緒に勉強したり遊んだり、料理したりする普通の生徒なら大喜びするなんとも楽し気な行事だ。
問題はグループを作ると言う部分で俺はそれが
理由は俺に友達が少ないからだ。親睦会なのだから思い切って話したことのない相手ともグループを組むのもいいかもしれないが生憎そんな勇気もなく班決めでボッチになるのは確定事項だ。
しかし、そんな俺に声をかけてくれる神の様な人物達もいた。
「小田くん、よかったら勉強合宿のグループ一緒に組みませんか? まだ、私と有沢さんしか決まってないので」
彼女の名前は雛田千鶴、俺の数少ない友達の一人である。そして物凄い美人だ。
「小田くん。一緒のグループになろう……!」
俺の制服の袖を掴みながら、そう言ってくれたのはアイドル候補生でもある有沢雪乃。コミュ障だけど容姿はめっちゃ可愛い。
ちなみに、今は絶賛人見知りモードを発動中だ。
雪乃は二人きりなら唯一普通に話せるコミュ障仲間の俺を一緒のグループにしたかっただけかもしれない……。
でも、クラス――いや、校内でもトップクラスの美少女グループに誘われ、クラスメートから嫉妬の視線が突き刺さるのを感じる。
しかし、俺には他のグループと約束してるから、などと断る口実もないので有り難く入れさせてもらおう。
「よろしくおね――」
「ねぇ、雛田さんと有沢さんは良かったら俺のグループに入らない? 二人が入ったら丁度五人になるし」
俺の言葉を遮ってクラスの中心グループの一人である男子が千鶴と雪乃の二人に声をかけた。
「すまません、ちょうど今小田くんが入ってくれて3人になったのでお断りさせてもらいますね」
千鶴はにこやかに対応する。
「えっと……」
そう言って男子は気まずそうに俺にチラリと視線を送る。辞退しろって意味だろうか。
「でも、小田ってなんか暗くてつまらなそうじゃん? あんまり友達も居なさそうだし、だから俺たちのグループの方が楽しいと思うけど――」
「結構です」
男子の言葉を遮って千鶴が声をあげる。
心なしか笑顔が少し怖くなった気がする。
「小田くんは暗くないですし、友達が多いのは事は良い事ですが少ない事が悪い訳ではないので、それに楽しいか詰まらないかは私が決めます。少なくとも私は小田くんとお話しするの楽しいですよ」
「で、でも、こんなぱっとしないというか冴えない男より――」
「私が他の誰より小田くんと一緒のグループになりたいんです。それを他人にとやかく言われたくありません。それに人を貶める様なことを言う人と一緒のグループはお断りです」
千鶴は毅然とした態度で男子に言い放つ。
「あ、有沢さんはどうかな?」
「っ?! ――お、小田くんは……仲間、だから……えっと、その……ごめんなさい、え、えへっ」
さりげなく有沢雪乃の援護も入る。
男子生徒は小さく舌打ちをして、俺を睨みつけた後自分のグループに戻っていた。
「二人ともありがとう、でも、本当に俺でいいの?」
「はい、小田くんがいんです」
「は、はい……む、寧ろいてください」
「どうやら、クラスの他のグループももう決まったみたいですね。余りはいないみたいなので私たちは三人だけで決まりみたいです」
そんな千鶴の言葉に心底安堵した様子の雪乃。
知らない人が入ってこなくてよかった……と言った感じかな。
千鶴はグループのメンバー記入の用紙を貰いに行く。
「では、グループの班長は小田くんで」
「よ、よろしくお願いします」
千鶴が綺麗な字で用紙に俺の名前を記入する。
「まぁ……やれと言うならやるけど」
「ふふっ、安心してください副班長は私がやるのでしっかりサポートしますよ」
「まぁ、その辺は気にしないで3人しかいないし皆で協力しながら頑張ろうか」
その後は、俺と千鶴が主に会話をしそれを黙って聞いている雪乃の構図が出来上がった。
もう少し雪乃も話せるといいんだけど。
◇ ◇ ◇
そう言ったやり取りが一週間前の出来事で今日は一泊二日の勉強合宿当日。
勉強合宿いっても親睦会なのでずっと勉強している訳ではなく午前中に二時間ほど軽く自主勉強してから自由時間となる。
俺たちが泊る場所は森林公園の宿泊施設だ。当然男女は別になる。俺は他の男子達と雑魚寝になるが馴染めるだろうか、少し心配だ。
ちなみに宿泊施設の近くに大きな広場があり学校が遊ぶ道具を貸し出してくれている。
サッカーボールやキャッチボールするためのボールやグローブ、室内で遊べる人生ゲームなどもあった。
俺たち三人はフライングディスクを選び三人で投げ合って遊んでいる。
「それでは罰ゲームを決めましょう」
何回か練習と言って三人でディスクを投げて遊んでいると突然、千鶴が楽しそうな笑顔を浮かべながらそんな事を言った。
「罰ゲーム?」
「はい、せっかくなので本気で遊びましょう。変な所に投げたり、キャッチできなかったら負けです。負けた人は好きな異性のタイプを教えてくださーい。あっ、好きな人の名前でもいいですよ」
微妙に嫌な罰ゲームに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ば、罰ゲームですか?!」
これは雪乃、明らかに嫌がっているな。しかし、千鶴の方はノリノリだ。
俺は好きな人と言われて思い浮かぶ人物はいない。好きなタイプも難しいな……。
まぁ、負けなければいいんだ。絶対に勝つ! それに二人の好きなタイプを知りたい。
好きな人の名前を言われたら多少もやもやするけど。
「それでは、私からスタートです!」
千鶴が雪乃にディスクをふわりと投げる。雪乃はそれをキャッチしてから即座に俺に向けて真っすぐに投げた。
ぐぅ、雪乃意外と運動神経がいいな。そういえば、ダンスは上手かったもんな。だけど、俺も負けて居られない。
雪乃が投げたディスクをキャッチして千鶴に向かって投げる。
そんなラリーが5分ほど続いたがそれは唐突に終わりを告げる。
「あっ――残念です、指に引っ掛かってしまいました」
千鶴がディスクをとんでもない方向に投げてしまった。
俺は走ってディスクを拾いに行き帰ってくる。
「か、勝った……」
口から半分魂が出そうな雰囲気で雪乃が呟いていたのが聞こえた。
「あはは、言い出しっぺが負けちゃいましたね」
千鶴は利き手の人差し指で頬をかきながら苦笑いを浮かべる。
「こんなに、真剣に運動したのは久しぶりだよ」
「そうなんですか? 小田くんは体育の授業の時にお見掛けしましたが、足も速いですし運動神経も結構いいですよね」
「走るのはそれなりに得意かな。でも球技とかは苦手でね。まぁ、それはさておき、罰ゲームのお時間です、雛田さんの好きなタイプをお願いします」
俺がそう言うと心なしか、周りで遊んでいた他の生徒たちが静かになった気がして視線だけを移してみると、少しだけ近くに寄ってきている気がする。
「仕方ないですね、でも内緒ですよ」
そう言って千鶴は声を潜めた。
「私が好きなのは――有沢さんです!」
そう言って千鶴は雪乃に思い切り抱きついた。
「おぉっ!」
俺は思わずその百合百合しい光景に拳を握りしめた。
しかし、雪乃は千鶴に頬ずりされカチコチになる。
「っ?! ひ、雛田……さん、わ、私は異性では、ないです」
「確かに、好きな異性のタイプだって言ったな」
「ちっ、騙されませんか……」
千鶴が小さい舌打ちをしながら呟いた。
「雛田さんは意外と腹黒だな……」
「策士と言ってください」
そう言って千鶴は咳ばらいをした。
そして、俺と雪乃に手招きした。もっと近くに寄れと言う意味だろう。
「えっと、私が好きな異性は……困ってる人に手を差し伸べられる優しい人ですね」
千鶴が照れ照れしながらそう言った。
俺と雪乃は思わず真顔で顔を見合わせてしまう。
「それって……普通じゃね?」
「こ、困ってる人がいたら、た、助けます」
雪乃も俺も普通だよなと確認しあう。
「もう、つまりそう言う事を普通にできるお二人が好きって事ですよ」
そう言って千鶴は照れ臭そうにしながら珍しく歯を見せて笑った。
可愛いかよ……。危なく浄化されそうだった。
「さぁ、まだまだやりますよ! 次は普段人に言えない恥ずかしかったエピソードです!」
千鶴はそう言って再び距離を取る。
「どうやら雛田さんはまたやられたいらしい。奴はこの三人組で最弱」
俺が少しカッコつけてそう言うと雪乃は一瞬だけ俺の顔を見て笑った。
「……さ、三人組の面汚しよ」
チラチラと千鶴の方を気にしながらも雪乃ものってくる。
どうやら、俺たちの会話は千鶴にも聞こえていたようで千鶴がお腹を押さえて笑っている。
「ちょっと、二人ともそのセリフがすでに恥ずかしいですよ。それに面汚しって……。さぁ、気を取り直してレッツパーリィ!」
何だかんだ千鶴もノリノリだった。
それからも、三人で爆笑しながら楽しく遊んだ。
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