怪談『玩具眼鏡』と、真相『見る目』


 こんな怪談がありました。


『玩具眼鏡』


 パーティーグッズで、漫画のような目が描かれたオモチャの眼鏡がありますよね。

 道の真ん中に、そのオモチャ眼鏡が落ちていたんです。


 春には、お花見客で賑わう広場のある公園。

 今は夏の終わりですが、生い茂る桜の木の下で夕涼み宴会でもしていたのでしょうか。

 公園の中を通る道の真ん中に、キラキラした大きな目のオモチャ眼鏡が落ちていました。

 私が歩いて行くと、描かれた目がまばたきしたように見えたんです。

 見る角度で、まばたきするように見える仕掛けなのでしょうか?

 さらに近付いて行くと、キラキラした目が明らかに私を見ています。

 歩いている私と、ずっと目が合っているんです。

 最近のオモチャには、トリックアートにも負けない仕掛けが施されているのでしょうか。

 ――また、まばたきしました。

 本当にトリックアートでしょうか?

 気味が悪くて、私は足が止まってしまいました。

 これ以上、近付きたくありません。

 眼鏡のレンズに、本物の大きな目があるようにしか見えないのです。キラキラしているのですけど、本物に見えて。

 オモチャ眼鏡に、ここまでリアルな仕掛けがあるのでしょうか。


 私が動けずにいると、道の向こうから大型犬が元気に駆けて来ました。

 その後ろからランニングのお兄さんが一緒に走って来ます。

 ちょっと足を止めたワンちゃんが、オモチャ眼鏡を口に咥えました。

 ランニングのお兄さんはそれに気付かず、オモチャ眼鏡を咥えたワンちゃんと一緒に走り去って行きました……。


 ワンちゃんが持ち去ってくれた妙なオモチャ眼鏡、本当にオモチャ眼鏡だったのでしょうか。

 あのワンちゃんに、何事もないと良いのですけど。




 ――――という怪談の、真相は?


『見る目』


 その日の怪談会には、大きな犬が参加していた。

 マスティフと思われる大型犬は、大人しく座布団にお座りしている。

 そして鼻先には、漫画のような目が描かれたオモチャ眼鏡を乗せていた。

「いやぁ、どうも。こんばんは」

 と、話し出したのは、そのオモチャ眼鏡だ。

 オモチャ眼鏡のキラキラした目が、パチパチと瞬きをしている。

 その目は、怪談会に参加している幽霊たちを見回し、

「人の形をした人形に取り憑く幽霊さんの怪談がありますよね。僕も同じようなもので、見るオバケなので目の描かれた眼鏡に取り憑いてみたんです」

 と、話し出した。



 百聞は一見に如かずと言いますよね。

 僕は、その言葉から生まれた『見るオバケ』です。

 その重要な『一見いっけん』が、口八丁な『百聞ひゃくぶん』によって変化することのないように、事実を見続ける役割をもっています。

 人の目と同じように、横にふたつ穴や点が並べば、僕は取り憑くことが出来るんですよ。

 以前は人のよく集まる公園の、古い木に空いた穴に憑いていました。

 でも、やっぱり移動しながら、多くの物事を見たくなりまして。

 花見宴会で使われた、このオモチャ眼鏡に取り憑いてみたんです。

 眼鏡がよちよち移動するにも限界があるので、この犬殿に運んでもらっています。

 視野が広がると言いますか、移動できるのは素晴らしいことですね。

 今日は、幽霊さんたちが集まる珍しい怪談会があると知って、見物させてもらいに来ました。

 誰も居ない場所から視線を感じて、そこに目のようなふたつの穴が開いていたら。

 そこには、僕の仲間が居るかも知れません。



 話し終えると、オモチャ眼鏡に描かれた目はにっこりと笑った。

「なるほど。見るオバケさんでしたか。大切な役割を持っていらっしゃるんですね」

 怪談会MCの青年カイ君は、オモチャ眼鏡に言った。

「ははは。そうなんですよ」

「……それで、乗られているワンちゃんとのご関係は?」

 と、カイ君は、オモチャ眼鏡をかけている大型犬に目を向けた。

「ボス・マスティフ殿です」

 と、オモチャ眼鏡が紹介すると、大型犬は鼻先に眼鏡を乗せたままペコリとお辞儀した。

「ボス・マスティフ殿、ですか」

「幽霊になっても、ずっと飼い主殿と散歩していたのです。ですが飼い主殿が新しい犬を迎えたのを機に、僕の足となってくれるよう頼んだのですよ」

 オモチャ眼鏡は楽しげに言い、大型犬はゆっくりと頷いた。

 カイ君は目をパチパチさせながら、

「えっと、マスティフ殿も了解の上、眼鏡さんを乗せている訳ですね?」

 と、聞いてみた。

「もちろん。ボス・マスティフ殿が飼い主殿に会いたくなれば、いつでも会いに行けるという約束でしてね。取り憑いている眼鏡を出て、マスティフ殿の目に取り憑くことも出来ますが、それでは僕がマスティフ殿を操ることになってしまうので。別々の方が良い関係でしょう」

 オモチャ眼鏡の話を、大型犬は尻尾を振りながら聞いている。

「なるほど。そういうご関係もあるのですね」

 カイ君が拍手すると、参加霊たちも拍手した。

「えっと、見るオバケさんとのことで、ちょっと緊張しますが、いつも通り続けましょう」

 幽霊たちの拍手に合わせて、大型犬も尻尾をパタパタと振っていた。

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