俺を嫉妬させるなんていい度胸だ〜御曹司からの過度な溺愛〜

せいとも

第1話 プロローグ

 『コツッコツッ』


 大理石の上を歩く革靴の音がエントランスに響く。


 この場を支配する圧倒的なオーラを出し歩く男。半歩前にはSPなのだろうか。こちらもただならぬオーラを放っている。


 その男の姿を見た者は、スッと端に避け男の通る道をあけて頭を下げる。


 どこかに近寄る隙はないかと遠巻きに見る女性が数人。無知なのか強者なのか、はたまた自分に余程の自信があるのか……。


 その時だった。


 男の数メートル前で、『ビタッ』と痛そうな音を響かせ盛大に転ける女性。


 『シ〜ン』と辺りは静まり返った。


 一瞬にして男の機嫌は急降下。


 『ピキッ』と音が聞こえそうなほど、眉間にシワが寄る。


 周囲は固唾を呑んでこの状況を見守っている。


「痛っ〜い。なんで?何かに引っ掛かったんだけど〜えっ⁈」


 転ろんだ女性は痛みに耐えながらも起き上がったが、あまりにも静まり返っていることに疑問を感じ周囲を見回す。するとなぜかみんなが女性を見ている気配を感じる。転けた羞恥よりも戸惑いが大きくなる。


 その時――。


「おいっ」と怒鳴り声が聞こえた。

「えっ⁈」

「お前、わざとか?恥をかいてまで俺の気を引きたいのか?」

「……。えっ⁈だ、誰?」


 女性の視線の先には、ぼんやりした男性のシルエットしか見えていなかった。掛けていた眼鏡が外れて少し先に飛んでしまっていたのだ。


「「「「え⁈」」」」


 女性の一言に様子を見守っていた周囲から驚きの声が上がった。


 コツコツと革靴の音をたてて女性の前までやってきた男性は、片膝をつきしゃがんで女性に目線を合わせる。一瞬目を見開いた後、なぜか口元が上がった。きっと周囲には気づかれないほどの変化だが、SPらしき男性は内心驚いていた。


 周囲は、男性の行動自体に驚き声も出ない……。


 辺りには緊張感が漂っている。


「俺を知らない?そんな訳ないだろう?このオフィスビルで働いてるよな?」

「は、はい。あの〜眼鏡が……」

「はあ⁈」

「こちらでしょうか?」


 SPらしき男性が女性のメガネを拾って差し出す。


「あっ、すみません。ありがとうございます」


 お礼を言いながら、女性は眼鏡を掛けた。


 次の瞬間――。


「し、し、し、新城社長〜」


 女性の絶叫がエントランスに響き渡った。





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