第59話 力の秘密




 食事を終えた後、柊一さんはこれから用があると言って、一足先に帰宅した。柊一さんに用がある、というのが不思議だった。なんていうか、おにぎりと仕事にしか興味なさそう。お隣だけど、普段どんな生活をしているのか全く想像がつかない。なんとなくずっと寝てそうなイメージなんだな。失礼かな。


 暁人さんと二人になり、私は注文したデザートを食べていると、彼が白い封筒を差し出してくれた。


「井上さん、とりあえず今回の仕事の報酬を」


「あ、ああ! ありがとうございます!」


 受け取り頭を下げる。そして申し訳なくなって眉を顰めた。


「てゆうか、今回は浄化の仕事もなかったし、ほんと何しに行ったんだって感じですよ。お給料頂いちゃってすみません」


「何をおっしゃるんですか。あなたの貴重な時間を使わせてもらっているのですし、何より怖い思いをしたのはほとんどあなたですよ。だって俺と柊一は今回ほぼ見てませんからね」


「あ、そういえば……やっぱり私って……」


「引き寄せやすいのかどうかは確定ではないですが……ううん。まあ、あまり気にしないのが一番ですよ」


 言葉を濁された。ああ、多分暁人さんも思ってるんだ、私が引き寄せやすいタイプだって。くそう、そんなの想定外だ。変な能力が開花しちゃったのかな。


 拗ねながらドリンクを飲んでいると、暁人さんが静かに言った。


「それに……井上さんの存在が、柊一にとっても凄く大きいと思って」


「え? ……ええ!?」


 何その意味深発言! 一気に私の心臓が暴れ出す。それってなに、もしかして恋ってやつでしょうか? あんなスーパーイケメンが、私を!??


 舞い上がったところで、暁人さんが微笑んで続ける。


「はい。柊一が食べるシーンを見ても態度を変えませんし、むしろおにぎりを作ってくれたりして、本人が本当に嬉しそうで」


 あれ、なんか思ってたのと違う。私はすんと冷静さを取り戻す。恋とかそういうのではなさそうな言い方に、現実に引き戻された。


「あ、ああ。なんか柊一さんもそれしつこいぐらい言ってくれました。まあ、食べるシーンはちょっと怖くもあったんですけど、すごい才能だし、結果いいことをしてるんだし、なんでそんなに感謝されるのか分からないぐらいです」


「……そうですか」


「むしろ、あんな大変そうなお仕事、体が心配ですよ」


「優しいですね本当に」


 何度も言われる優しい攻撃。そんなにだろうか? 私からすれば二人の方がずっと優しいし、こっちは普通の人間と表現するしかない、ありふれたタイプだと思うのだが。


 暁人さんは少し視線を落とす。


「それに……柊一の異変にもすぐに気づいていた」


「異変?」


「あの夜、柊一が出した異変に気付いていたでしょう。だからあいつの腕をつかんで止めてくれた」


「ああ……」


 ぼんやりと思い出す。私の目の前にいた柊一さんから、言葉に言い表せられないオーラを感じ取ったのは事実だ。なんとなく彼の腕を掴んでしまったのを覚えている。


「止めた? っていいますか、なんか不安になったからつい掴んじゃっただけです」


「素晴らしいです。あなたは非常に勘もいい」


「何か起こるところだったんですか……?」


 尋ねると、暁人さんは小さく苦笑いした。


「いえ、俺も心配しすぎているんだと思います。大人になったあいつは、ちゃんと力も制御できるようになってるし。でもつい、色々考えすぎてしまって」


「……力の制御? もしかして、食べる力ですか? でもあそこには悪霊なんて」


 言いかけて止まる。あの夜のことを思い出した。


 近所の人たちの行いを暴いたわけだが、反省の色もなく、録音した音声をお金で解決しようとした醜い人間たち。悪霊ではないものの、悪しき人たちだった。


……まさか。


 私は小さな声で呟いた。


「あの力は、人間相手でも出来るのですか?」




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