レッドクリスマス

久石あまね

第1話 事件

 クリスマスイブ。


 街に雪が降り、白く雪化粧された。


 恋人たちにとっては素敵な聖夜になるだろう。


 小さな駅のベンチに座った僕は、長いため息をついた。ため息は煙のように白く、この世の毒素が含まれているような気がした。


 クリスマスイブだというのに僕には恋人はいない。二日前にふられたのだ。本当なら今日、プロポーズする予定だった。鞄の中には今でも、指輪が眠っている。おそらく、もう渡すことはないだろう。


 この小さな駅には普通電車しか停まらない。


 通過する特急電車に飛び込んだら、即死だろうなと思った。


 ふと死にたいなと思った。


 今死んだら楽だろうな。


 楽になりたいな。


 そんなことを考えていると、隣のベンチから物騒な会話が聞こえてきた。


 「死のうか」


 少年が少女に深刻な声色で言った。


 「もう死んでしまいたい、こんなことになるなんて」


 少女が少年にか細い声で言った。


 隣のベンチから物騒な会話が聞こえてきた。


 ふと隣を伺うと、中学生の男女が肩を寄せ合い座っていた。


 地味で浮かない顔のメガネの少年と、綺麗な黒髪を頭の左右で束ねた顔の丸い少女がいた。


 いったいどうしたのだろうか。


 「まもなく、一番線に電車が通過します。危険ですので足元の黄色い点字パネルまでお下がりください」


 電車のアナウンスが鳴り響く。


 「雪穂ちゃん、ごめんな、僕のせいで」


 「ううん、そんなことない。隆行くんは悪くない。あの子たちが悪いの」


 二人はどんな関係かはわからないが、恋人同士ではないなと思った。


 でも二人の会話から、この二人には共通の秘密があるような気がした。


 その秘密は二人にとってはものすごく影のあるもののような気がした。


 この二人は今から死のうとしているのではないかと思った。


 空から白いものが降ってきた。


 雪だ。


 さっきまでやんでいた雪がまた降ってきた。


 電車が轟音をたて接近してきた。


 二人はベンチから立ち上がらとプラットホームの白線をまたいだ。


 危ない。二人は本当に死のうとしている。


 「危ないよ」


 僕はベンチから立ち上がって二人に近づいて声をかけた。


 少年のほうが振り返った。


 少年の瞳は、暗く闇のようだった。そして少年はまた前を向いた。


 あなたには関係ない。

 ほっといてくれ。彼の目はそう言っているような気がした。


 そして二人は特急電車に、はねられた。


 僕の目の前で。


 

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