BGM音量0

『グウェン』

第1話 ホームワード・バウンド

 学校が終わり、ツバキと一緒に帰り路につく。ツバキと付き合いは高校で同じクラスになったことから始まったが、帰る方向が同じだとわかると、わりとすぐ家に招かれた。一度行けば、それからは、毎日のように一緒にゲームをするようになった。しかし、ゲームを作るやつだとは思わなかった。不思議ちゃんだから何をしても特段おかしくはなく、驚きはない。ただし、それ以上にものぐさな奴だと思っていた。休み時間に聞いた話では、『ホラー風の短編ゲーム』ということだったが……ほかには特に話すこともなかったので、もう一度たずねることにした。




 「クソゲーなんだろ?」


 「日本の財産さ」


 「ありえねーだろ!」


 


 ふざけて聞いたらふざけて返されたので、俺は、思わず突っ込んでしまった。ツバキは、そのことを気にも留めないで続ける。




 「例えばさ、何の変哲もないサイトがあるとすんじゃん?」


 


 ”すんじゃん?”に違和感を覚えつつも、俺は、てきとうに、ああ、と相槌を打つ。どういうのか知らないが。




 「BGMもなにも流れてない普通のサイトだよ。たまにBGM流れてる個人サイトもあるけどさ、そういうのじゃなくて、普通のサイト」


 「それがどうしたんだ?」


 「そのサイトにBGMが流れてないとは限らないってのをネタにしたゲームさ」


 「ふーん……」




 ツバキの言うことがどういう意味だかを少し考え、分かりかけたが、しかし、完全に理解する前に、ほぼ反射的にそれがどういう意味か尋ねた。ツバキは、”そのまま”の意味だとして、その詳細を語った。




 「簡単だよ。そこには、人の悪意が流れているかもしれない。”音量がゼロ”なだけでね。再生はされてるのさ」




 理解にいたらないものの、なんかしっかりホラーな気がした。ゲームへの期待感が上がり、素直にすごく面白そうだと感想を伝える。




 「でも、それをプレイヤーに明かすことは、まぁ、ないんだよね。最後の最後。だから、まぁ、ほとんど退屈なゲームだよ。一発つーか。それだけの。それだけ知ってたら、あとは、終わりみたいな」




 平坦な、なだらかな道とはいえ、俺との位置関係的に、ツバキは、振り向きながら話さなければならないので、自転車を漕ぎながらだと少々ふらつくことになっており、俺は、それが気がかりになっていた。しかし、”早く帰ろう”と提案するのも、なんだか負けた気がして一瞬気が引けたが、このままの状態を続けるのはよくないと思い、結局、早く帰ることを希望した。

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