メッセージ
「お前、珍しいものしてるな」
カフェオレを飲みながら、俺の机を覗き込むように見てきたのは、桐原斗真。俺の友人で、小学のことからつるんでいる親友と言っても過言ではない存在だ。
ちなみに、俺と同じ学校に行きたいという理由で、もうひとりの親友と一緒に猛勉強してまでこの学校を受験した努力の人でもある。……まあ、今はあまり成績がいいとは言えないのだが。
「せっかく活用できるものなんだから、使わなきゃ損だろ」
「そんなこと言ったって、めんどいだろ? それ。校外に持ち出しが厳禁だから、学校内でメモするしかないし」
そう。俺が今机の上でやっているのは、この学校の入試の問題をメモする作業だ。
昨日咲ちゃんに勉強を教えるといったはいいものの、思えばすでに十二月。この過去問をもとに、基礎を教えていこうとは考えていたが、それでは間に合わないことに気がついてしまったのだ。
それなら、ということで、問題から絶対に出そうだなといったところをメモして、そこを中心的にさせて、とにかくうちの入試に受かるようにサポートするのが先決だ。
「それにしても、それ、幼馴染ちゃんのか?」
「なんでひまり? あいつはもう受かってるぞ?」
「は? じゃあ誰のだよ。お前、ほかにそんなに仲いい後輩とかいたっけ?……あ! 知らない人からのお金での依頼は停学、下手したら退学だからやめておいたほうがいいぞ」
「違うわ!……ひまりの友達だよ。この学校を受験するっていうんで、手伝ってあげようと思って」
斗真は、「ほーん」と興味あるんだかないんだかわからない適当な返しをして、カフェオレを飲む。そうして、少しニヤリとした笑みを浮かべた。
「なあなあ。それってもしかして、女の子か?」
「……ああ。そうだけど、どうかしたか?」
「おいおい、それいいじゃねえか! もしかして、その子を狙ってたりするのか?」
「は?」
ニヤニヤとした斗真は、さっきとは違い興味津々そうな顔をしながら、少し身を乗り出し気味に聞いてきた。
「狙ってるって、何がだよ」
「おいおい、とぼけんなよ。彼女にしたいと思ってるのかってことだよ」
「違うわ。妹といつも仲良くしてくれてるし、結構長い間顔見知りではあったから、助けてあげたいなって思っただけだよ」
きっぱりと否定すると、斗真はつまらなさそうに「なーんだ」と言ったあと、ほんの少し真面目な顔になる。
「まあでもさ、そんなにきっぱり言うけども、もしかしたら後でお前がその子のことを好きなる可能性もあるわけだ。逆ももちろん然りなんだからな?」
「そうだよ。斗真と私だって最初から好きあってたわけじゃないんだから」
「うわ! びっくりした。凜花ちゃんか」
佐山凜花は斗真の忠告のようなセリフに合わせるようにして後ろから声をかけてきた。
凜花ちゃんは、斗真と同じく小学の時からの親友で、俺がここに進学すると言ったからここに決めたもう片割れだ。
ちなみに凜花ちゃんは斗真と付き合っている。そのせいでこの二人は俺に大量の惚気話を離してくるようになった。友人が幸せなのはいいことなんだが、少し微妙な気持ちにもなる。
「それにしても凜花ちゃん。わざわざこっちに来てどうした?」
「どうしたって、彼氏と友達に会いに来たら駄目なの?」
凜花ちゃんはわざとらしく「ぶー」と頬を膨らまし抗議の目線を向けてくる。「そうじゃないから」と否定すると、元々本気で言っていたのではないのだろう、すぐに表情を戻した。
「ひまりちゃんから連絡来てるよっていいに来たの! 和人、スマホ見てないでしょ」
「あ!」
そう言えば、この作業に集中しすぎてスマホを全く見ていなかった。これは失敗だ。
画面を見てみると、ひまりからの通知がいくつも来ている。メッセージを開いて見てみると、案の定、
『和人さん? ちょっといい?』
『あれ?』
『おーい』
『見てなさすぎ!!! スマホ持ってる意味ないじゃん!』
と、怒ったようなメッセージが来ていた。……というか、一時間目の休み時間くらいから送られてきてたんだな……。
とりあえずこれ以上待たせた帰ったときに不機嫌になってしまうかもしれない。すぐに画面をタップした。
『すまんすまん。ちょっとすることがあって。それで、何か用か?』
と送ると、その数秒後に返信が返ってくる。
『やっと気づいた! 咲ちゃんが和人さんとメッセージしたいって言ってるけどいい?』
咲ちゃんが? まあ、これから勉強を教えるならあったほうが便利だけれども。
『わかった。そっちで勝手に紹介しておいて』
そのメッセージに既読がついて、一分くらいで、今度は別のアカウントからメッセージが届いた。差出人は、さき。きっと咲ちゃんだ。
『よろしくおねがいしますね』
一言の挨拶。
『よろしく』
俺も一言で返してみる。すると、やっぱりすぐに新しいメッセージが更新された。
『今日、できれば図書館に来ていただいていいでしょうか』
昨日話したことを、今日さっそくということだろうか。
幸い、今日は特に忙しい用事もない。
『わかった。じゃあ放課後な』
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