部員を集めろ!
一週間後。空き教室に四人の男女が集まっていた。
「集まってくれてありがとう」
そう切り出したのはリヒトだ。リヒトは穏やかな笑みを浮かべたまま、隣でにこにこ笑いながら座っているセラに目をやった。
「セラがこの二人を部員として確保した……という認識で合ってるよね?」
「ん」
「そっす、先輩」
スラリとしたモデル体型の少女が頷き、黒の短髪の少年もまたリヒトの言葉を肯定した。
「わたしすごいでしょ!」
「うん、セラはすごいね」
「えへへ〜」
胸を張ったセラの頭をリヒトは優しく撫でる。セラとリヒトは外見の雰囲気が真逆すぎるため、こうして並んでると親子に見えなくもないな……と黒髪の少年は思った。
「それじゃあ、自己紹介といこうか。まず言い出しっぺの僕から行くよ。僕は狩倉リヒト。二年生だね。セラの幼馴染み兼保護者だよ。よろしくね」
「いや待ってください。保護者って何スか?」
「?……僕は何かおかしなことを言ったかな?」
心底不思議そうに首を傾げるリヒト。そんなリヒトを見て少年のツッコミはさらに加速する。
「いやおかしいでしょ!?先輩まだ高校生ッスよねというかセラと一個しか年違わないッスよね!?それなのに保護者って何スか!?」
「そうは言ってもなぁ。セラの両親からも認めてもらってるし」
「セラの両親何やってんの!?」
「毎年リヒトには肩たたき券贈ってるんだよー。毎年泣きながら受け取ってくれるの」
「セラの健やかな成長が僕の喜びだからね」
「狩倉先輩今いくつなんスか……」
少年がツッコミを放棄したのを見計らい、次はわたしね!とセラが手を挙げた。
「わたしは瀬良晴夏だよ!セラって呼んでくれて良いよ!あ、あと一年生!よろしくお願いします!」
「よくできました」
「わーい」
セラが自己紹介を終えるとリヒトは飴を手渡した。美味しい〜と飴を舐め始めたセラを、リヒトは満足そうに見ている。
(……おじいちゃんと孫?)
「コウタ、何か、言いたそう」
「いや、何も……」
少年は黙ることを選択し、次はオレっすね、と手を挙げた。
「オレは
「こーちゃんよろよろ〜」
「こ、こーちゃん?」
「セラは仲良くなりたい人にあだ名をつける癖があるんだ。受け入れてあげて」
「はぁ……」
「最後、私。私、山中アリア。一年生。よろしく」
アリアは自己紹介を終えると軽く会釈した。
「アリちゃんは山育ちなんだよね?」
「ん。最近、山、下りた」
「山中さんは入学した時から有名だったよね。身体能力がずば抜けて高いって。運動部からの勧誘がすごかったって聞いてるよ。よくセラは山中さんを口説いたね?」
「セラ、優しい。私、好き」
「えへー。わたしもアリちゃん好きー」
「……」
ちなみにセラがアリアを勧誘した時の様子を見ていた小歌は、後にその光景を「野生動物の餌付けに成功した小学生」と例えた。要は食べ物で釣ったのである。
「さて、これで四人は揃ったから部としては成立するけど……」
「大会には出られないねー」
「あと一人、必要」
「そういや先輩も勧誘とかしてたんスか?」
「そうだね。何人かには声をかけたんだけど僕の方はてんでダメだったよ」
「
「?あいつ?」
「風見ッスよ。
「あー……彼か。一応声はかけたけどダメだったね」
「やっぱりかー……」
要領は得ていないのに何やら会話の成立している男衆と、ついて行けてない女衆ではっきり二分化されていた。揃って首を傾げるセラとアリアを見て、リヒトはごめんと謝った。
「セラと山中さんにもわかるように話すね。一年生に風見颯くんっていう子がいるんだけど、彼とびきり足が速いらしくて。なんでも中学まではオニゲーム界のホープなんて呼ばれてたらしい」
「え、そんな人がいるの!?」
「逆にセラ知らなかったのが驚きなんだけど……。セラがオニゲーム部立ち上げるって言ったんだよな?」
「大丈夫。私、も、知らなかった」
「山中には最初から期待してないから……。で、話戻すけど。どうも何かあったらしくてさ。今はオニゲームどころか他の何にも興味示さないくらい冷めきってるらしい」
「何があったんだろー……?」
「それは知る由も無いけれど。彼がいてくれたら百人力だよね。なにせ僕たちは寄せ集めに過ぎない。経験者がいるのといないのとでは話が違うよ」
ふぅ、と息を吐いたリヒト。どうやら颯に声をかけに行った時のことを思い返しているようだ。よほどつれない対応だったのだろう、リヒトは憂いを帯びた表情で目を伏せた。
「でも応えてくんなかった以上、オレたちにはどうもできないッスよね。どうします?」
「はいはーい!わたしに良い考えがあるよ!」
「セラ?」
セラは目をキラキラ輝かせ、机に身を乗り出した。リヒトに危ないよ、とたしなまれると素直にまた椅子に座り直した。
「セラ、良い考えって?」
「ふっふっふ、それはやってからのお楽しみ!というわけで、風見くんとこ行こー!風見くんってクラスどこだっけ?」
「私、と、同じ」
「そーなの?じゃあアリちゃん案内してくれる?」
「任せて」
話を進めるセラをどう止めようかと小歌は迷っていたが、彼の迷いを感じ取ったリヒトが優しく肩に手を置いた。
「ここはセラに任せてみよう」
「良いんすか?」
「良いんだよ、好きにやらせてみよう。あの子の思いつきは馬鹿にできないんだ」
「……わかりました」
こうしてセラとアリアを先頭に、一名高校オニゲーム部(仮)はアリアと颯のクラスを目指した。
「たのもー!風見くんはいますかー!」
放課後ということもあり、教室に残っている生徒はまばらだ。小歌は颯はもう帰ってしまったのではないかと案じていたが、のそりと気だるそうに顔を上げた中性的な顔立ちの少年と目が合った。
「……なに」
「あ、あなたが風見くん?ですか!」
「そうだけど、なに。うるさいんだけど」
「わたしたちと一緒にオニゲームやろ!」
「嫌」
セラはニコニコ笑顔で颯に声をかけたが、そんなセラを颯は即座に切り捨てた。
「用ってそれだけ?ならもう帰って」
「帰らないよ!風見くんもオニゲームやろうよー!」
「やらない」
「やーろーうーよー!!」
「うっさ……」
「こらこら、セラ。風見くん嫌がってるのにそんな無理強いしたら駄目だよ」
セラが颯の体を揺さぶり始めたので、リヒトは苦笑いを浮かべながら彼女を引き剥がした。
「ごめんね、風見くん」
「俺に申し訳なく思ってるなら早く帰ってもらえます?」
「そうは言っても、君が必要だからここに来たわけだからね。どうだい、風見くん。取引をしないかい?」
「……取引?」
セラたちが心配そうにリヒトを見ている中、リヒトはいつもの穏やかな笑みを崩そうとしない。彼はいつも通りの声色で話を切り出した。
「僕たちとオニゲームをしよう。それで君が勝ったら君のお願いを聞こう。ただし僕たちが勝ったらオニゲーム部に入ってもらう。……というのはどうかな」
「俺のメリットがない。却下です」
「風見くんへの運動部全般からの勧誘をやめるよう働きかけることもできるのに?」
「……は?」
「僕は顔が広いからそういうこともできなくはないよ。それでも君は逃げるのかな?……あぁそれとも、オニゲーム界のホープと呼ばれたほどの足の速さは嘘だった?」
「っ!!」
颯は勢い良く席から立ち上がった。悔しさを顔に滲ませながらもリヒトに掴みかかることはしなかった颯は、わかりました、と呟いた。
「俺のお願い、ちゃんと叶えてくださいよ」
「うん、もちろんだよ。それじゃあ明日の放課後にまた会おうね」
「……」
行こう、とリヒトが歩き出したためセラたち三人も彼の後を追った。
「先輩、良いんすか?」
「何がだい?」
「あんな約束して……。絶対オレたち負けるじゃないすか。相手は――」
「おや、何も考え無しに約束をしたわけじゃないよ」
「……?」
「僕たちはベストを尽くそう。ね、セラ」
「?うん!」
いつもの穏やかな笑みを崩さず余裕な様子を見せるリヒトに、小歌は不安を隠せなかった。
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