第7話 恐血苦闘/キョウチクトウ

バルキュリア王国 マーケット街


 様々な出店や商店が多く並んでいるこの場所は国民にとって重要なライフラインである。


 日々この場所は多くの客で賑わいを見せ続けている。


 数多くの人間が出入りするこの場所で明らかにこの国の格好ではない目立った奴らがそこにはいた。


「あっ!あれも美味そう!あれも!これも!ここは天国かよーー!!」


「はしたないですよ、カカシさん。一応、貴女もレディなんですから言葉使いに気をつけて常に美しくいなければ」


「オジョウは色々細かいんだよ〜。いいじゃん!せっかくの異世界なんだし、私達以外知り合いなんていなくて誰もみてないんだからさ、オジョウも思いっきり楽しんじゃいなよ!!」

 ハレルヤ女学園 2年 眞澄 翔子 通称 カカシ


「そういうわけにはいきませんわ。いつ何時、そしてここが異世界でも私は私。誰も見ていなくても私が見てるんですもの。だから1秒たりとも気を緩める訳にはいかなくてよ!」

 2年 花京 結香 通称 オジョウ


 カカシの来ている服が学生服に対してオジョウがお召しになっているのは学生服にはとても見えない豪華なドレス。この国の貴族でも着ないような可憐なドレスを見に纏いながらドレスの裾をヒラヒラと踊らせながら妖艶に街を歩いてる。


「それがレディとしてただしい振る舞いかどうかは別だと思うけど……」

「何かおっしゃいました?カカシさん?」


「いいえ!全然。何も思ってもいなくてよ!」

「そうでしたか。ならいいですわ」


「あっぶな〜…。オジョウはキレたら面倒って話だからな私も気をつけないと。そうなんだよな?」


 カカシの後ろを歩くカモメが答える。


「ええ。私の情報に嘘は御座いません。ごきげんよう」

「何が「ごきげんよう」よ!?カモメまでオジョウに合わせなくてもいいじゃん。普段そんなんじゃないんだから」


「つい…。でも、それだけ私も警戒してるってこと。噂によるとキレた時の騒がしさはあのサシミさんを超えるって話もあるくらいですから」

「そうなの?」


「ええ」

「私、サシミとは戦った事ないからな〜」


「……きっとカカシくらいよね」

「ん?何が?」


「園芸部の皆さんを呼び捨てにしてる事よ」

「あー。私は別に気にしてないからね。別に普通でしょ」


「普通じゃないわよ。カカシが気にしなくてもこっちが気になるの。ウチの頂点なんだから敬意を使うのは当然でしょ」

「敬意って。別にあっちもそんなの気にしてないだろ。それにウチらは仲間であっても組織じゃないんだ。好きにしていればいいんだよ」


「そういうことじゃなくて……」

「私にはそういうことなの!それでいいのよ!」


 話を強引に終わらせたカカシはルンルン気分で駆け出し様々な出店を見て歩く。


「ちょっと待ちなさいよ、話はまだ終わってないから!」


「カモメさんも大変ですわねー。カカシさんはいつもああなんですから言っても無駄な事くらいお分かりの筈でしょうに」

「……それはそうなんだけどね、でも、ほっとけないのよ。一応歳は違えど同級生だしさ。それに、オジョウも同じ気持ちでしょう?じゃなきゃ性格も正反対な貴女がカカシといつも一緒になんていないでしょ?」


「…やっぱりバレてました?」

「ええ。それは簡単に」


「流石ですわね。……カカシさんを見てるとなんか元気出てきません?理由はよくわからないんですけどね。なんか悩んでいても、それでいいんだって、ありのままでいいんだって言われてるような気がして。そんな姿に結構救われっちゃってるんですよ、私。本人はそんな事微塵も気づいてないんでしょうけど」

「カカシはびっくりするくらい鈍感だから」


「でも、それでいいんですよ。カカシさんは。そうじゃなきゃカカシさんじゃありませんから」

「それはおっしゃる通りね。オジョウ。あ、」


「どうされました?」

「カカシのヤツ。あそこの出店で大量に焼き鳥らしき肉を食べてるけど、アイツお金どうするつもりなんだ?」


「カモメさん……お金お持ちじゃないんですか?」

「持ってる訳ないでしょ。そもそもここに来たのもこの世界のお金の価値を知るために来たんだから。買物に来たわけじゃない。それなのに、アイツは……一応聞くけどさ、オジョウはこの世界のお金、お持ちだったりします?」


「いいえ。私は格好だけですから」

「ですよね。ってきっとそれが原因だ!」


「どういう事です?」

「だって普通は金がない奴に店の商品を食わせるわけないでしょう。恐らく店の人はオジョウのドレス姿を見てどっかの貴族かなんかと勘違いしたんだよ。カカシの事をその付き人か何かだと思ってるんだ。きっとそうに違いない!」


「では、そんな私が貴族じゃなくてお金すら持ってないなんて気づかれたら……どうなります?」

「どうなります?って言われても…ヤバいんじゃない?この世界の警察的なヤツに突き出されたり、最悪の場合は殺されちゃったりとか?分からないけど!」

「大変じゃないですか!どうしましょう!?カモメさん!どうすれば?!」


 カモメの言葉を想像してしまったオジョウはらしくない程慌てだす。


「ちょっ、どうするって、私に聞かれても…とにかく落ち着いてって!落ち着きなさい!オジョウはレディの中のレディなんでしょ?そんなレディならどんな時でも冷静に落ち着いてなきゃいけないんじゃなくって?」


 カモメの言葉に徐々に普段の冷静さを取り戻す。


「そうですわね……。どんな時でも私らしく冷静に……。カモメさん助かりました。さっきのは、らしくありませんでしたわ」

「そ。落ち着いたならよかったけど。それなら2人でとにかくカカシを止めないとね!これ以上を事を大きくされたら取り返しのつかない事になりそうだから!」

「そうですわね。急ぎましょう!」


 焼き鳥らしき肉を夢中で貪り食らっているカカシを止めようと2人が慌てて側に駆け寄る。


「ちょっと、カカシってば!これ以上はダメだから!いい加減食べるのやめなさいよ!」

「ん?なんで?コレ結構美味しいよ。何の肉かは分からないけど、見た目通り焼き鳥みたいな味するしさ。2人も食べる?」


「そういう問題じゃないのよ……とにかく一度食べるのやめて冷静になりなさいって。そしたら事の重大さが分かるはずだから!」

「そうですわ。それにカカシさん、あんまり勢いよく食べると太りますわよ。いいんですの?」

「ウソ?!そうなの?」


「嘘ではありません。何かの本で読んだ事ありますからきっと間違いありませんわ!」

「…本当に〜?」


「ええ、本当です。(そんな本は一度も読んだ事はないのですけど)」

「…そっかぁ」


「ですから一度食べるのをやめて私達とお話なさいません?」

「うーん……でもいいや!このあと運動すれば全部チャラでしょ!!」


 2人の説得は虚しく失敗に終わる。


 カカシは店の店主に勧められるままに肉を食べ続けている。


 それを受けて2人は小声で喋る。


「どうしましょう、カモメさん…。カカシさんったらとんでもない量を食べておりますわよ。それなのに店主の方にお金がないなんて知られたら……」

「ええ。予想通り大変なことになるかも。予想が現実になるって意外と嬉しくないのね……」


「どうしましょう!?なんとかしないと私達まで血祭りに挙げられてしまいますわ!」

「血祭りって……それは流石に言い過ぎなんじゃない?」


「え、だってさっきカモメさんが仰ったではありませんか。お金がないってバレたら最悪の場合殺されるかもしれないって」

「いや、あれは冗談だから。事の重大さを分かりやすく伝える為の私なりのジョークでしょう?」


「え!そうだったんですの!?全く気付きませんでしたわ。というか何故、こんな大変な時に冗談なんて言うんです?こういう時くらいは空気をお読みくださいましっ!」

「空気って…あのくらいの冗談分かると思うじゃん…」


「私がそんなの分かるわけありませんわ!」

「そんな事で怒らないでよ。それこそ今じゃないでしょ?オジョウも空気読みなって…」

「なんですってー!!!」


 小声だった声は次第に大きくなっていく。


 そんな2人は会話に夢中になって周りが見えていない。


「ご馳走様でした!ふぅ…食べた食べた。あ、そうだ、おじさんお会計はちょっと待っててよ」


「なんだと?」


「大丈夫、大丈夫。ちょっと運動した後にちゃんと払うから。だからさ、後でその人達から払ってもらってよ」


「?」


 そう言うとカカシは揉める2人にそっと近づく。


「ンンンッ!!」


 カカシが咳払いすると2人は音に気付きカカシの方を向く。


「カモメ、オジョウ。シャル ウィ ダンス?」


 突然の誘いに戸惑う2人。


「はぁ!?なに言ってんのよ!!今はそんな事してる場合じゃないでしょ!」

「そうですわ。もっと他に考えることがあるのですから」

「でも、レディとしてせっかくの誘いを断るなんて無礼な真似は出来ないよね?だからさ、カモメもオジョウも早く一緒に踊ろう!!」


 差し出された手を掴む暇もなくカカシの方から強引に手を掴み自らの体に寄せ付けたその瞬間。


 2人を襲おうとしていた鋭利な刃は見事にカカシの身のこなしによってかわされたのだ。


「「え!?」」

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