第39話 時は来たれり

 「どうやら、勇者が封印を解いたようだな」

 「えぇ、それにしても見事に騙されていましたね」


 王都ブラバスの暗闇につつまれた空間にて、2つのローブ姿が小刻みに揺れていた。


 「だが、残念なことに勇者は生存しているようです……どうやらあの国王殺しの男もあの場にいたようで」

 「そんなことは些細なことにすぎん、目的はあの封印が解ければよいだけだからな」

 

 暗闇の中で不気味とも感じられる笑い声が響き渡っていた。


 「……あと必要になるのは、『媒体』のみになりますがいかがいたしましょう?」

 「そいつはもう用意しておる」

 「と、申しますと……?」

 「傍におるではないか、今は国王の座を手に入れ現を抜かしている痴れ者が」

 「たしかにそうですね……」


 再び笑い声が響き渡って行った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「……この度は大変申し訳ございませんでした、どんな処罰でも受ける所存です」


 コンチネントエビルを倒し、オルティアさんの屋敷へ戻ると、セリカはオルティアさんの前で膝をつきこう述べていた。


 「1つだけお聞かせ願いますか? なぜブラバスはこの地を襲撃したのですか?」


 彼女の質問にセリカは、黙っていたがしばらくしてその口を開いた。


 「……あの封印を解けばこの聖剣の真の力が発揮されると言われていたからです」

 「それは誰にだ?」


 横からプリメーラが口を挟む。

 

 「国王イソッタ様です……」

 

 セリカの答えに俺は深く息をつく。

 話の流れから、予想はついていたが実際に言葉に出されると何ともいえない気分になってくる。


 「イソッタ王太子は……何を考えているんだ」


 俺の呟きに傍にいたナディアが心配そうな顔でこちらを見ていた。

 

 「……コンチネントエビルの封印を解いたものは誰であれ、死を持って償ってもらうところですが、倒したので不問といたします」


 オルティアさんは淡々とした口調で話していた。

 それに対しセリカは頭を深く落としていた。


 「……ですが、集落への住民に対する示しとして、早々にこの集落からの退去を命じます」

 「オルティア殿!?」


 咄嗟にプリメーラが声を上げる。

 

 「申し訳ございません、プリメーラ様。 私もこの集落の長として、今回のことはなかったことにすることはできませんし、この数日のブラバスからの行いで住民たちも怒りも増えつつあります……こればかりはプリメーラ様の頼みでも聞くことはできません」


 オルティアさんの言葉にプリメーラは何も言うことはできなかった。

 長として辛いところだろう。


 「ですが、その体では山を降りるのは厳しいでしょう……退去は傷が完治出来次第で構いません。 プリメーラ様、ゼスト様、ナディア様も戦いで負った傷が言えるまでゆっくりとご滞在くださいませ」


 そう告げたオルティアさんはこちらに向けて頭を下げて行った。


 「ありがとうございます……!」


 一番最初に声を上げたのはセリカだった。




 「……あれ、いつの間にか寝てたのか」


 4人で食事を終えたところまで覚えていたが、気がつけば寝てしまっていたようだ。

 部屋を見渡すとプリメーラとナディアもソファの上で気持ちよさそうな寝息を立てている。


 「セリカ……?」


 だが、そこにセリカの姿はなかった。


 「まさか、もう集落から出て行ったのか?」


 真面目すぎるセリカの性格ならやりかねないと思い、慌てて外に出ようとすると部屋の窓から彼女の姿が映し出されていた。

 外は穏やかではあるがしんしんと雪が降っていた。

 魔物の攻撃を受けた傷があるのに……

 俺はそう思いながら部屋の外に出ていく。



 外へと足を踏み入れると、雪が足首ぐらいまですっぽりと入っていく。

 足を踏み外さないように、力強く踏みしめながらセリカの元へと向かう。


「こんなところにいると体に障るぞ」


 セリカはオルティアさんに借りた厚手のコートを着て立っていた。


「……そういうゼスト様も」

「何だよその『様』って」

「私にとってあなたが勇者ですので」


 セリカは少し照れた様子で俺を見る。


「今の勇者はセリカだろ? 今の俺は国王殺しの汚名をきせられた単なる男だ」


 俺が乾いた笑いを混ぜながら返すと、セリカは真剣な顔つきへと変わっていった。


「ゼスト様は覚えていらっしゃらないかもしれないですけど、私はあなたに助けられました……!」

「……そうなのか?」

「えぇ、ダツンの部下が王都に襲撃をかけてきた時です」

「あの時か……」


 俺が聖剣に選ばれてから1年近く経った時のことだ。

 突如、ダツンの配下である魔物の軍勢が王都を襲撃してきた。


 俺や王都の騎士団たちは応戦したが、数の差がありすぎて多大な被害が出てしまった。

 その時に亡くなった国民たちの墓前でアルシオーネ様の嘆いていた姿は忘れられなかった。

 

 そのことがあり、アルシオーネ様は魔王ダツン討伐の命を俺に下した。


「それじゃあ……セリカもあの襲撃の——」

「えぇ、あの時に私は父と母を亡くしました」


 セリカの返答に俺は改めて自分の無力さを感じていた。


「すみません、ゼスト様を責めるつもりでは……」

「いや、構わないよ……勇者として国民を守れなかったのは事実だしな」

「でも、ゼスト様は私を救ってくれました……!」


 セリカは俺の手を掴んでいた。


「そんなあなたに感謝しています……!」

「……そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ」


 俺は苦笑いをしながら彼女にお礼を告げた。


「……それに比べて今の私は」


 セリカは掴んでいた俺の手を離すと、自身の手を天高くあげていた。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


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