第20話 ウェインズ大陸の先住民とゼストの過去

 「よーし! さっそく頂こうぜ! 2人とも遠慮なんかしないでじゃんじゃん食べてくれよ!」


 日が沈み、あたりはすっかりに夜になった頃、チェイサーの屋敷では豪勢な食事会が行われていた。

 俺たちの目の前には肉から魚、サラダにスープとありとあらゆる料理が置かれていた。

 

 せっかく用意してくれたのだからと、プリメーラはワイングラスに注がれた真っ赤なワインを真っ先に嗜んでいた。


 「お、プリメーラさんはワインが好きなのか、それじゃ後で俺の秘蔵のワインでも開けるとするかな」

 「それは楽しみだ」

 

 チェイサーの言葉にプリメーラはこれまでにない笑顔を見せていた。

 毎度のことのようにならなければいいが……。

 

 「おーい、さっきから全然食べてないけど、どうした?」


 チェイサーが俺に向けて手を振っていた。


 「あ、いや……何でもない、ちょっと考え事してた」


 そう告げると、目についた肉料理を皿に装っていく。


 「……もしかして、さっきの少年のことか?」


 ワイングラスに口をつけながらプリメーラが話す。


 「まあな……」


 俺が返事をするとチェイサーが不思議そうな顔をして俺たちを見ていた。


 「お、なんか面白そうな話か?」

 「そんな楽しそうに聞ける話でもないけどな……」


 プリメーラ同様にチェイサーもワインを飲んでいるので、上機嫌になっており、簡単には引き下がりそうもなかったため、先ほど起きた盗みを働いた少年のことを話した。

 にこやかに効いていたチェイサーだったが、次第に真剣な表情へと変化していった。


 「あー……ライカンスロープのことか」

 「ライカンスロープ!?」


 真っ先に反応したのはプリメーラだった。


 「この大陸にはライカンスロープたちがいるのか?」

 「あぁ、一説によると元々このウェインズ大陸に住んでいたのはあちらみたいだけどな」

 「なるほど、それは初耳だな……」

 

 興味津々な表情を浮かべるプリメーラだったが、俺にはさっぱり理解できなかった。

 

 「そもそもライカンスロープって……?」

 「人間に姿を変える狼族のことだよ」

 「それじゃ俺が助けた少年ってのは……」

 「まあ、ライカンスロープ族だろうな」

 「うまく人間に変えてたんだな……」


 少年だと思った自分が少し恥ずかしくなっていた。


 「以前はこの国から離れた場所に生息していたんだが、なぜか近年になってウォルター山脈の麓に住むようになったんだ」

 「何か理由があるのか?」

 「それが全然」


 チェイサーは両手をあげながら首を左右に振っていた。


 「それ以来、この国に姿を出すようになったんだよ……怖がる国民も出てくるので城の騎士団が一度向かったが、返り討ちにあって以来何もしてないんだ」

 「たしかこの国の騎士団って……」

 「あぁ……クレスタ兄さんだ」


 たしか、チェスターのすぐ上の兄だったはず。


 「まあ、盗みを働くぐらいで国民を襲うことはしないから別にいいとか言ってたな、顔を真っ青にしながら」

 

 チェイサーは笑いを堪えながら話す。


 「まったく、自分の兄のことだろ、いくらなんでも笑ったら失礼じゃないか?」

 「そうなんだけどさ、怪我して帰ってきた時の兄さんの顔を思い出したら笑いが止まらなくて……!」


 次第にチェイサーは大声をあげて笑い出していた。


 俺はその様子に呆れながら料理を皿に装っていった。



 「寝る部屋はこちらを使ってくれ」

 

 大量の食事を堪能した後、チェイサーが俺たちの休む部屋を案内してくれたのはいいが……


 「……チェイサー、一つ聞いていいか?」

 「どうした? もしかして部屋が狭かったか?」

 「いや、それに関しては申し分ない」

 「じゃあどうした?」

 「何で俺とプリメーラが一緒の部屋なんだ?」


 部屋には宿のベッドとは比べ物にならないほどの豪華なベットが置かれていた。

 それも2つ。


 「だって今まで2人で旅をしてきたんだろ? 今更部屋を別にする必要はないんじゃないか?」


 言ってることは真っ当だが、不可解なのはチェイサーの顔がニヤけていることだ。

 絶対に何かよからぬことを考えているのだろう。


 「もし、プリメーラさんが嫌なら別々にするがどうする?」


 チェイサーはプリメーラの方へと視線を向ける。

 急に話を振られたプリメーラは一瞬驚きながらも、すぐに平然とした顔になっていた。


 「私はゼストと一緒でも大丈夫だ、別に一緒に旅をする仲間でもあるしな!」


 何かひどく慌てているようにも見えるが、まあ彼女がいいと言うなら構わないが……。


 「近くにメイドたちの部屋があるから、何かあったらベルを鳴らして呼んでくれ、それじゃまた明日な!」


 軽快に部屋を出て行こうとしたチェイサーだったが、直前に足を止めると、俺に向けて小さく手招きをする。

 何も考えずにチェイサーの元にいくと、俺の肩を組みながら小声で……


 「段取りはつくってやったからな、うまくやれよ!」


 そう言ってチェイサーは右手の親指を立てていた。


 「うまくやれって何をだよ……」

 「おいおい、俺の口からそんなこと言わせんなよ!」


 ニヤニヤと笑いながら俺の腹を肘で軽く小突いてきた。


 「そんじゃな〜! 2人ともごゆっくりー!」


 勢いよくドアを閉めるチェイサー。


 「……変なやつ」


 ため息をつきながら近くにあった椅子に座った。


 「ゼストはまだ寝ないのか?」


 ベッドに腰掛けていたプリメーラがこちらを見ていた。


 「なんか食べすぎて腹が重いから落ち着くまで起きてるよ、眠たかったら先に寝ていいぞ」

 「いや、私もまだ寝れそうもないから起きてるさ」


 なんか眠たそうな目をしているが、気のせいだろうか……。

 

 「そういえば1つ聞いていいか?」

 「どうした?」

 「……なぜ、あの時盗みをはたらいた少年を助けたのだ?」

 

 プリメーラは興味津々といった顔で俺を見ていた。


 「……似ていたんだよ、昔の俺に」


 結果として少年かと思っていたのは、人に化けていたライカンスロープだったが。

 似ていたのは姿ではなく、やっていたことが……。


 「俺も昔、同じことをしていたんだよ」

 「どういうことだ?」

 

 話そうか迷ったが、別に今更隠すことでもないからいいか……。


 「俺、孤児なんだよ」


 俺の話にプリメーラは目を大きく開けていた。



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【あとがき】

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