第3話 旅への誘い

 「なぜ、勇者であるあなたが国王殺しの罪に……」


 俺は王太子からアルシオーネ王の殺害の罪をきせられたことや、牢から抜け出してここまで逃げてきたことを話した。

 話を聞いたプリメーラは怒り混じりに返す。


 「それがわかれば苦労しないよ」

 

 プリメーラの言葉に気がつけば言葉を強めていた。

 俺の表情で何かを察したのか、彼女は「すまない」と静かに答える。

 

 「……それにしても、必死に守ってきた勇者に対して何の疑いもせず国王殺し呼ばわりする国民も大概だ」


 彼女の怒りの矛先は別のところへと向かっていた。


 「仕方ないさ、国民は権力あるものには逆らえないものだしな」


 俺は笑い混じりに答える。

 だが、プリメーラの言うことに関して無下に否定することはできなかった。


 俺は勇者として命あるものを守るのが使命だと思い続けてきた。

 元々はアルシオーネ様の教えを守ってきただけなんだが……。


 必死に守ってきた人たちから汚名で呼ばれた時には自分の存在価値がなくなったも同然だった。


 「それで、どこか行く宛はあるのか?」


 プリメーラは俺の顔をじっと見つめていた。


 「全くないな」


 ずっとブラバス王国で過ごしてきたため、行く宛などほとんどなかった。

 唯一あるとすれば、魔王を倒した際、一緒に戦った仲間の住んでいる場所があるが、こんな時に行っても迷惑をかけるだけかもしれない。


 「それなら、私と一緒に旅をしてみるのはどうか?」

 「……え?」

 「ずっと1人で旅をしていて、そろそろ話し相手が欲しいと思っていたところだ、それにあなたほどの力強い人がいれば心強い」

 「けど、この通り俺は武器も何も持っていない、単なる足手纏いにしかならないぞ」

 「大丈夫だ、武器ならここにある」


 プリメーラはそう告げると右手に黒い大きな大剣が現れた。

 

 「その剣はさっきの……それに今どこから出したんだ?!」


 俺が大声をあげると、プリメーラは自信たっぷりの表情を浮かべていた。


 「これは私の魔道具の1つ『ストレージボックス』だよ、どんなものでも入るから旅の必需品だな」

 

 魔道具——

 たしか、魔術で作られた道具のことだと聞いたことがある。

 

 「魔道具本当にあったんだな……」


 聞いたことがあるだけで、実際に見たのは初めてだ。

 俺の言葉にプリメーラは「すばらしいだろ」と言わんばかりの顔をしていた。


 「そしてこれは私が作った最高傑作の『魔剣ラファーガ』だ、かっこいいだろ!」

 「ま、魔剣!?」

 「あぁ、安心してくれ……呪いなどの暗黒魔術で作られた剣ではないんだ、正式名称は『魔道具タイプ剣型 ラファーガ』略して魔剣ラファーガだ」

 「……まどろこしい略し方をしないでくれ」


 俺は安堵の息をつく。


 「作ってみたのはいいが、私じゃ重くて扱えずにどうしようか悩んでいたところだったんだ。最悪立ち寄った街で売ろうと思っていた」


 プリメーラは魔剣ラファーガを手に取ると、俺に差し出した。


 「……そんな大層なものを俺が使っていいのか?」

 「構わないさ、私にとってこれは宝の持ち腐れだしな」

 

 ふふっと微笑むプリメーラだが、すぐに表情を曇らせる。

 

 「どうした?まだ何かあるのか?」

 「いや、汚名を着せられたまま国を離れてもいいのか考えてたんだ」

 

 今戻ってもすぐに幽閉されて、処刑されるのは確実だ。

 それにずっと育った場所を離れるというのにも多少の後ろめたさもある。


 そんな俺の言葉にプリメーラは大きく息を吐き出す。


 「あなたは優しいな……でも、そんな優しさを仇で返した国民なんか放っておくがいいさ、時が経つにつれて自分たちがしたことの愚かさを身をもって知ることになるだろう」


 意気揚々と話すプリメーラの言葉を聞いた直後は苛立ちを覚えたりもしたが、少し冷静になってみればもっともな言葉だった。

 今戻ったとしても、あの国に俺の居場所はない。


 それに……


 『その時が来るまで生き延びろ』

 

 あの時助けてくれた人の言葉がふと脳裏に流れ出していた。

 

 「……わかったよ、何もしらない俺でよければ同行させてくれ」


 そう告げるとプリメーラは目を大きく開けて喜びの表情を浮かべる。


 「こちらこそ、よろしく頼むぞ!」


 そう話しながら彼女は俺の頭を撫でていった。

 瞬間、顔に熱が帯びたように真っ赤になっていく……。

 

 「……おっと、失礼」


 俺の顔をみたプリメーラはすぐに手を放した。

 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「ついにやったぞ……!」


 王都ブラバスの暗闇に沈む国王の間にて、王太子のイソッタは悦に浸っていた。


 「これでこの国は私の物だ!!!!」


 悦に浸るあまり、大声をあげるイソッタ。

 その後ろで黒い影が姿を現す。それに気づいたイソッタは踵を返す。


 「おまえのお陰でうまくいったぞ」


 イソッタは影に向けて声をかける。


 「おめでとうございます」


 影は淡々と答える。


 「ゼストには逃げられたが、深手を追っているようだから、そこらへんで野垂れ死ぬだろう、むしろそうなったほうが好都合!!」


 イソッタの高笑いが部屋中に響き渡っていた。


 「それでは次の段階に進みましょうか、イソッタ王太子、いや……イソッタ王」


 影の言葉を聞いたイソッタはさらに上機嫌になったのか、口元を歪めて「そうだな」と口にしていた。

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