第19話 スタートダッシュ

「じゃあ始めるぞ。1年のオフェンスから開始でいいな?」


 部長がそう言うと、2・3年からはなんの反乱も出なかった。部長はセンターラインを踏んだ隆にボールを渡す。隆は先ほど教わった通りにボールを持ってホイッスルが鳴るのを待っている。


 --ピィィィ!


 開始のホイッスルが鳴る。隆はボールを真斗にパスする。


「ゆっくり1点取りに行くぞ!」


 大きな声で真斗が鼓舞する。そしてボールをセンター、45°で回していく。

 俺も慌ててコート端で待機する。ボールが来たらシュートを打つ意識だけしておく。


「サイド、OK!」


 ディフェンスについている2年の先輩(たしか高橋たかはし先輩だったはず)が手で俺を指しながら声を出している。

 なるほど、こうやってディフェンスをするのか。俺が先輩から学んでいるうちに、オフェンス側に動きがあった。


「弘樹! クロス!」

「おけ!」


 真斗が弘樹に指示を出す。弘樹は大きく膨らんで真斗の後ろに回る。


「センター! チェンジ!」

「45°OK!」


 先輩達が声を出しながら動きに対応していく。センターを見ていた先輩はそのまま弘樹のディフェンスにつく。


「っっ!!」


 弘樹は真斗からボールを受け取ると、そのまま勢いよくジャンプした。


 --シュッ……!

 --バンッ……バサッ……!


 ジャンプして弘樹の手から放たれたボールは、先輩の手に当たることなくゴールへと向かい、ゴールポストに当たってネットを揺らした。


 --ピッピッ!


 ゴールの合図のホイッスルが鳴る。俺は慌てて自陣へと戻る。


「ナイッシュー!」

「よし! 守るぞ!」


 それぞれシュートを決めた弘樹に声をかけるチームメンバー。弘樹は喜ぶことなく気を引き締めるようにみんなに伝え、ディフェンスにつく。


「ふぅ、1本取り返すぞ!」


 先輩達がゆっくりと攻めてくる。


「サ、サイドOK!」


 見様見真似で先ほどの先輩の真似をして声を出す。

 先輩達はゆっくりとボールを回しながらこちらの様子を伺ってくる。


「ディフェンス隙間空けるな! センターもっと圧!」


 弘樹が大きな声で指示を出してくる。ディフェンス間の隙間を空けてしまうとそこを攻められるのは6対6の時に経験済みなので、俺も隙間を空けないようにしていく。


「来るぞ!」


 どう攻めてくるか警戒していると、ふと相手のセンターがフェイントと共に攻めてくる。弘樹がセンターに接触してプレッシャーをかけると、先輩は左45°にパスを出す。


「和馬! 寄って圧!」


 弘樹から指示が飛ぶ。俺は慌てて篤に近づいて右45°の攻めを妨害する。

 俺が寄ったのを確認した先輩はそのままサイドへとボールをパスする。俺は先輩のパスを見た瞬間にサイドに近づき圧をかける。

 サイドの高橋先輩はボールを受け取りながらそのまま6mラインで踏み切り空中に飛んだ。


 --シュッ……!

 --バチッ……!


 先輩の手から放たれたボールはゴールの奥に向かっていくが、岳の伸ばした腕に阻まれる。


「ナイスキー!」


 俺は岳が止めたのを見て正面を向くと、もうすでに右サイドの優斗が走っていた。


「優斗!」


 岳が叫びながら優斗にロングパスを出す。優斗は難なくボールを受け取ると、そのままジャンプしてシュートを打つ。ディフェンスが戻る前にゴールネットを揺らした。


「優斗!ナイッシュー!」

「ふん……。当たり前だろ」


 篤が声をかけるが、優斗は特に喜ぶこともなくさも当たり前かのように答える。


 --開始3分で2-0。まだ始まったばかりだが優勢で試合が動き出した。


「気を抜くな! すぐに来るぞ!」


 真斗が気合を入れるかのように大声を出す。俺も気を引き締めてディフェンスにあたる。



 --次の先輩達の攻めは、時間をかけてのパス回しだったが、隙をついて弘樹がパスカットをして1年生ボールになる。


「弘樹!」


 攻めに転じ全員が相手側に走り込む。篤が弘樹に声をかけてボールを受け取ると、ディフェンスに1対1を仕掛ける。サイド側にフェイントをかけながら攻め込むと、サイドの高橋先輩がフォローに走った。


「和馬! いけ!」


 それを見た篤が俺にパスを投げてくる。

 俺は慌てながらもボールを受け取ると、6mラインからジャンプする。


 --サイドからシュートを打つのは初めてだった。


 ジャンプしてゴールを見るが、キーパーが大きく見えてシュートコースがない。焦りながらも俺は前弘樹に教えられたように足元に叩きつけてバウンドシュートを狙う。


 俺がボールを投げると同時にキーパー……3年生の川村博和かわむらひろかず先輩……が足を広げて止めに来る。

 俺が投げたボールは地面にバウンドして先輩が伸ばした足の上を超えてゴールネットを揺らした。


「和馬! ナイッシュー!!」


 俺が自陣に戻ると、篤が笑顔で称えてくれる。


「あ、ありがとう!」


 俺も笑顔でそう返して、守備へと戻った。



 --開始4分、スコアは3-0で1年生優勢。



「はは、今年の1年生は生きがいいなぁ」


 審判の部長がそんなふうにつぶやく。


「さて……。2・3年! そろそろ本気出せよ!」


 部長が先輩達に喝を入れる。


 --まだ始まったばかり。先輩達もギアを上げて攻めてくるだろう。


「気持ち切り替えろ! 本気で来るぞ!」


 弘樹も先輩達の雰囲気で察したのか、全員に気合を入れ直すように声を出してくる。


 俺も気持ちを切り替えて守備にあたるのだった。



-第19話 完

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