第12話 「嫌味」

「ふぁぁ……眠っ……」


 登校しながら不意にあくびが出てしまう。


「昨日やりすぎたな……」


 昨日の夜、少しでもハンドボールを学ぼうと、練習でやったスリークロスや、6対6の動画をYouTubeで検索して片っ端から見ていた。


「やっぱ、難しいなぁ……」


 色々調べた結果、改めてそんなふうに思った。

 流石に作戦まで分からず、6対6の動きは分からなかったが、シュートの流れだけ見ても、自分で決められるとは思えなかった。


「今日も、練習がんばろ……!」


 体験入部もあと3日となり、そのあとは本入部となる。

 今一度もっと頑張ろうと決意して、授業へと臨んだ。



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「ふぁぁ……」


 4限が終わり、大きなあくびをしてしまう。流石に授業中寝ないようにはしていたが、結構限界であった。


「よう、和馬。だいぶ眠そうだな?」


 1人で弁当を出して食べようとしていたところ、弘樹がパンを持って近づいてきた。


「あ、弘樹。うん、昨日ずっとハンドの動画見ててね……」

「おー、それで寝不足か。だいぶ勤勉だな。 近くでご飯食べていいか?」

「もちろん、いいよ」


 そんな会話をしながら近くの椅子に座ってパンを食べ始める弘樹。


「……弘樹はいつもパンなの?」

「ん?いやいや。今日は母さんが弁当作るのめんどいからこれ食べろって渡されたんだよ」


 なるほど。そんなもんなのか。

 そんな弘樹の横でお弁当を広げ出す。

 今日も母のお弁当は美味しそうだった。


「和馬の弁当美味そうだな。なんかくれよ」

「あ、うん。いいけど……?これでいい?」


 なんかくれと言う弘樹に卵焼きをあげる。

 最初は「いや冗談だよ」と言っていたが、差し出し続けるとなんだかんだ言いつつ口に運んだ。


「ん!?卵焼き美味っ!」

「はは、ありがと」


 思ったよりいい反応をする弘樹を見て、俺も嬉しい気持ちになる。母さん、ありがとう。


「いやぁ、まじ美味いわ。……そういえば、和馬今日の練習は中らしいよ」

「そうなんだ、中練、初めてだ……」

「中練ったって、基本は変わらないよ。 走るのと基礎練、今日は6対6じゃなくてオールコート使えるから速攻練じゃないかな」

「速攻……?」


 またよく分からない単語が出てきた。速攻ってなんだ…?と思っていると、そんな俺の頭の中を悟ってか、弘樹が説明してくれる。


「速攻ってのは、簡単に言えばボールを打って止められた際に、相手の選手が戻る前に攻めることを言うのさ。んで、基本サイドかポストが一気に走ってキーパーからロングパスを受け取ってシュート打つのよ。多分今日はロングパスからシュートまでやるんじゃないかな?」

「な、なるほど……?」


 言葉にされて理解しようと思ったが、なかなか理解できなかった。おそらく顔に出ていたのだろう、弘樹は笑いながら続けてくる。


「はは、まぁ実際にやってる姿見ないとイメージできないよな。そもそも今日速攻練やるかも分からんし……」


 確かにそうだ。

 その後俺らは他愛もない会話をして、昼休憩終わりのチャイムが鳴るとお互いの席へと解散していった。



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「終わったぁぁ……」


 何とか寝ずに授業を終わらせると、大きく伸びをする。

 ……授業をまともに聞いていたかと言えば少し不安であるが。


「……中練、だったっけ……」


 弘樹の言葉を思い出して、立ち上がって鞄を持つ。

 そろそろ移動しようかと思い、クラス内を見渡して弘樹を探したが、もうすでにいなかった。


「先に行ったのかな……」


 そんなふうに思いながら、体育館へと移動する。置いていかれるとは思ってなかったが、仕方ないであろう。


 体育館へと移動すると、すでに1年生が準備をしていた。

 慌ててジャージに着替えると、1年生のところへと入っていく。弘樹がこっちに気づいて寄ってきた。


「和馬、ごめんな? 準備ギリギリだったから先に行かせてもらったわ」

「ううん、大丈夫」

「ふん、未経験者様はのんびりだな」


 ふと嫌味のようなものを言われた。咄嗟に弘樹が庇ってくれる。


「おい優斗。そんなこと言うなよ」

「事実だろ。ちゃんと早くきて準備しろよ」

「しゃーねぇだろ。やったことねぇんだから」


 弘樹と、優斗(と呼ばれた男)が口論をしている。慌てて割り込んで止めようとする。


「弘樹、大丈夫。事実だから……。優斗さん、ごめんなさい」

「ふん……」


 謝罪を伝えると、鼻で笑って俺から目線を外す。弘樹はまだ何か言いたげだったが、これ以上の口論にならないように止める。


「まぁまぁ、とりあえずもうすぐ部活始まるから、あんまり言い合いはやめておこう」


 横から高身長の男がそう言って近づいてくる。


「おっと、自己紹介してなかったね。自分は山本篤やまもとあつしだよ。よろしく」


 そう言って握手を求めてくる。俺は握手を返すと、自分も自己紹介をする。


「山本さん……。俺は伊藤和馬です」

「篤でいいよ。俺も和馬って呼ぶね」


 同級生と親睦を深めていると、先輩達が入ってくる。

 慌てて整列すると、部長含め全員が近づいてきて指示が出る。


「みんな集まってるな。よし、今日の練習を始める!」

「「「押忍!!」」」


 ……俺の3日目の体験入部が始まった。


-第12話 完

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