第23話 王都の街


「わぁ……!」


 街並みを見た私は、思わず声をあげてしまった。

 だって、街並みが異世界ファンタジーそのままなんだもの。

 三角形の屋根に、カラフルな壁。広場の時計塔と丘の上のお城。

 あーもうワクワクが止まらない!

 中世の雰囲気が残るヨーロッパの街並みをスマホで見るのが好きだったけど、それに近いかな。

 体が弱すぎて海外旅行なんて夢のまた夢だったし、こんな風景を直に見られるなんて思ってもみなかった。


 さすが王都というべきか、大通りは道幅が広いうえに車道と歩道がちゃんと分けられてる。もちろん車道を走っているのは自動車じゃなくて馬車と馬だけど。

 歩道は一段高くなっているし、センターラインがあるわけじゃないけど馬車や馬はどうやら右側通行と決まっているっぽい。すごい!

 中世ヨーロッパは馬車や馬の事故が多かったと何かで読んだし、そういう対策がなされているってことだよね。


「聖……っと、お嬢様、紐を売っている雑貨屋はあちらになります」


「わかったわ」


 私の前を歩くメイと、後ろからついてくる私服姿の護衛の聖騎士。

 目立たないよう傍で護衛してくれるのは一人だけど、他に聖騎士数名が私服姿でついてきているらしい。

 私は魔道具で髪の色を茶色に変えて、フードを被っている。


 メイと一緒に雑貨屋に入ると、一気に物欲が刺激された。

 紐だけでなくきれいな布、アクセサリー、かわいらしい小瓶、文房具と色々置いてある。

 楽しいなー。こういうところに来ると、無意味に物を買っちゃうんだよね。

 あちこち目移りしつつも紐を買い、外に出る。

 広場に向かって通りを歩きながら、メイが街について色々説明してくれた。


「あの広場を中心に、毎年春と秋にお祭りが開かれるんです。春の花祭りは終わってしまいましたから、次は秋の豊穣祭ですね」


「そうなのね。行ってみたいわ」


「きっとお嬢様なら花祭りの“春の妖精”や豊穣祭の“豊穣の女神”に余裕で選ばれますよ!」


「妖精? 女神?」


「はい、そのお祭りで一番素敵な女性を選ぶんです。服装なども考慮されますから、みんな何か月もかけて衣装を用意するのです。春は若くて愛らしい女性が選ばれることが多いですが、秋は年齢や容姿がバラバラですね。衣装の加点が大きいのも秋です」


「へぇ、とっても楽しそう」


 特に春はミスコンみたいなものかな、と思う。

 まあ一生参加することはないだろう。聖女がミスコンに参加するわけにはいかない。

 そもそも人前に立つのは死ぬほど苦手だし。


「冬の妖精を選ぶコンテストがあったら、ルシアンが優勝しそうね」


 何気なくそう言うと、後ろの聖騎士が小さく吹き出した。

 似合うと思うんだけどなあ、冬の妖精。

 そういえばルシアンって神官服ばかりで、それ以外の服装を見たことがないや。


 広場に着いて、ベンチに座る。

 メイは最初私の隣に座るのをためらっていたけど、目立つから、と言うと座ってくれた。


「メイは中央神殿に来て日が浅いのに詳しいわね」


「元々は王都に住んでいたんです」


「そうなの?」


「はい。といっても、こんなに華やかな区域じゃなくて外れの方ですけど。父が商売に失敗したと同時に失踪して、母と二人、追われるように地方に引っ越すことになりました。その地方の神殿で下働きを募集していたので、そこで働き始めたんです」


「そうだったの……。苦労したのね」


「いえいえ、みんなこんなものですよ。それに体を売ることもなく、今こうしてお嬢様にお仕えできているんですから。とっても幸せです」


 そんなにいい主というわけではないと思うんだけどなあ。

 どうしてメイはいつも私をいい人扱いするんだろう?


「お嬢様、そろそろ暗くなり始める時間です」


 ベンチの後ろに立つ聖騎士が声をかけてくる。


「そう。では戻りましょう」


 振り返ってそう言うと、彼はあからさまにほっとした顔をする。

 これはオリヴィアの外出に苦労させられた顔だわ。


 三人で広場を抜け、馬車を目指す。

 大通りから一本入ると、歩道はなくなり、代わりに馬車も見なくなった。このあたりは馬車が通行してはいけない場所だから歩道がないのだとか。

 けれど、王都らしく道はきれいに整備されており、道幅は狭いというほどでもない。

 衛兵も馬に乗ってゆっくりと巡回していて、治安維持に力を入れているのだな、と思った。


 もうすぐ馬車を停めている場所に着く。

 そう思ったその時、それは起こった。


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