第7話 王国議会

 遠くからズタズタと誰かが走る音と、カエザルの名を呼ぶ声が耳に入ってくる。次第に音は大きくなり嫌な予感を感じながらも、音のする方へ目を向けた。


「カエザル様ぁ―カエザル様―。至急王国議会へ赴きください。はぁはぁはぁはぁ」

「どうした?」


 息を切らしながらこちらへ走りながら向かってくる。彼の体は一歩足を踏みこむたび

 に、全身についた無駄な脂肪と、膨れ上がった重い腹の脂肪が、たゆんたゆんと無様に揺れ動く。息を切らしているようで呼吸は荒く、額に汗を盛大に流しながら、目の前で片足をつき報告をし始める、身なりをきちんとこなし、いかにも身分の高そうな緑色の背広を着た男だが、背広はパツパツでボタンが今にも、はじけ飛びそう。


 ――はい?また何か事件?頼むから争うようなイベントはもう、うんざりだよ……


 目の前の男を見るからして、何もなかったじゃ終わりそうにないことはありえないなと思いながらも、少しの希望を持ちながら、背広の男に対応することにした。


「カエザル様、至急王国議会へ赴きください。カエザル派の議員が反発しています!」

「カエザル派?」

「はい、カエザル様の派閥に属している議員が……私の口からこれ以上申すことは、無礼かと」

 ――カエザル派?つまり俺?なんかやらかした?


 俺は連れられるまま、緑色の背広を着た人の後をついていく。もうこの宮殿の中の迷路のような変わり映えのない景色にも飽き始めた。


 そういえば、目の前にいる背広パツパツの緑色の男はさっき、カエザル派と言ってたな。もしかして王女派もあるんじゃないか?王女派があるならケイル村の人達が王女に助けを求めていたことも理解できる。


「では、お入りください」


 彼が立派で頑丈そうな扉を開けた途端、「カエザル様」と俺を呼ぶ声が怒号のように降りかかってきた。


 案内されるままに、とんでもなく超立派な椅子の前に連れられる。この椅子、怒号を浴びせる彼ら議員より高いところにあって、俺を半円上に囲むように議員の椅子と机が設けられている。


 全員の視線が彼らの正面である俺に集まる。注目の的にもほどがある。


 ――このイベントも俺が主人公かよっ!!


「どうぞお座りください」


 何の疑いもなく俺は超立派な椅子に座る。なんと座り心地のいいものか。ふかふかのクッションの椅子で雲の上にでも座っているかのよう。


「カエザル様!発言の許可を!」


 一人の議員が息を荒げながら、半円状の議会の中心にある議員が発言をする演壇に立つ。

 俺は演壇に立った議員を悪役カエザルを演じるように、肘置きに乗せた手に顎を乗せ、舐められないように精一杯の鋭い眼差しで見下すように見下ろした。元から目つきが悪いから演技したところでさほど変わらないと思うのだけど、まあ気の持ちようってやつ。


 ドスの聞いた低い声で王国議会での第一声を俺は口にした。


「よかろう、発言を許可する」

「カエザル様、ケイル村の税を一時的になくすとはどういったことでしょうか。カエ

 ザル派の議員として、国政を担うものとして、見て見ぬふりなどできません。しかも今年は雨が少なく干ばつのせいで宮殿内の食糧も不足しているというのに!!そしてケイル村の奴らが、カエザル様に抗議したという愚か者が、反逆に等しい行いをしたことに罰を与えないという甘さ。慣例通り最低でも村を焼き、村長どもの一族の処刑はすべきではと。一体どういうおつもりですか!!」


 ――ケイル村!?これって、さっきの出来事だよな。俺って監視されてる?いや、宮殿内の噂が速いだけか。


「いや、特に意味はないが?」

「まぁ、カエザル様のことですから、何か意味があってのことだとは思いますが、この国にも威厳というものがありましてな」

「威厳と申したか?では皆に問う。今、ここにいる気に食わない議員を殺していけば、俺の威厳は保てるか?」


 ――これぞ悪役のセリフ!決まったー。どうだ?反論するなら来いよ。怖気づいてん

 じゃねーぞ!


「カエザル様、そんな物騒なことは……。では私はこれにて」

 演壇に立っていたカエザル派の議員は、俺の名演技による剣幕に黙り込み、自分の命かわいさなのか、影を隠すかのように、ゆっくりと演壇から降りて自分の席へと戻っていく。カエザル派に属している以上、カエザルの後ろ盾がないと生き抜けない世界だからだ。


 反発する議員を演壇から引きずり下ろすことができて、城門で起きた一件は収束できた、できたつもりだった。

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