第27話 枕返し vs アップデート⑤
「ね……? ずっと此処にいてくれる……?」
「うん……」
「ふふ……嬉しい。現実なんか忘れて……ね? 此処にはあなたを悪くいう人も、いじめる人もだ〜れもいないわ。みんな消しちゃったもの。み〜んな、あなたの思い通り。素晴らしいことだと思わない?」
「うん……うん」
「嫌なことがあったら、アップデートして消して仕舞えばいいの。弱い部分も、醜い部分も……最初からなかったことにしちゃえば、関係ないわ。ずっと此処で楽しみましょう。夢の世界を……」
『うふふ……♡』
『うふふ……♡』
「楽しんどるようじゃのう」
「あ……コックリさん」
ますます広がる白い湯気の中から、見知った顔が現れた。しかし、いつものこぢんまりとした姿ではない。八頭身のglamorous・BODYを見せびらかし、コックリさんが笑った。
「良かった……やっぱりちゃんといたんだ……」
「これがワシの真の姿よ」
「そうなんだ……すごいね」
「フフ。どうじゃ? この世界は気に入ったか?」
「うん……うん。すごく気に入った……」
上手く呂律が回らない。さっきからもう、後ろから前から、すごいのだ。
「それは良かった。ずっとそのままぼんやり夢見心地で、このワシの養分になると良いぞ」
「何か言った……?」
「何もォ。ホホホホホ!」
身体中がかあっと熱く、頭がぼんやりとして、ぼくはもう何も考えられなかった。ただコックリさんの笑い声だけが、頭の中に響き渡る。
「ささ。お主ら、風邪引くぞ。恥ずかしがってないでもっと近う寄れ」
「コックリさん……あのね」
「どうした?」
大人の顔をしたコックリさんがニンマリと笑った。
「何が望みじゃ? 何でも言うて給う」
「あのね……コックリさん……」
「何でも叶えてやるぞ、なんせ此処は、お主の夢の中じゃからのォ!
「コックリさん……笑い声、違うね?」
「何?」
「あなた……だれ?」
コックリさんがぴくりと体を強張らせた、その時だった。
「おっとォ〜ッ! 今話題の※※※現場発見〜ッ!」
真っ白に染まった浴場の中に、突然嬉しそうな声が響き渡った。
「誰じゃ!」
「同意のない※※※は、こりゃ立派な犯罪だよなぁ〜ッ! 怪怪怪怪怪! イタイケなガキたぶらかせて、こんな処でなァにやってんだテメーら、えぇ!?」
「どうしてワシの領域に……!?」
「決まってんだろ。悪いことしてる場所には、必ず悪人がいるモンなんだよ」
「あなたは……!」
白煙の向こうで、ふわふわのアフロが揺れている。恐らく新調したのだろう、毛並みがいつもより艶々としている。
「おい坊主。ちょっと目を閉じてろ」
「どうして……?」
「何をする気じゃ!?」
「決まってんだろ」
なまはげのオッ……お兄さんが、ニヤリと笑った。
「小学生にはちょっと見せられないこと♡」
……かくしてなまはげのオッ……お兄さんは偽コックリさん達を倒した。様々な制約によって、詳細をお伝えできないのが誠に残念である。
「悠介!」
無事元の世界で目を覚ますと、寝ているぼくのすぐそばで、ワッと3人が湧き上がった。
「無事か!? 何か非道いことされなかったか!?」
『良かった! ずっと鼻血が止まらないから、もう死んじゃうかと!』
『ったく、このポンコツ狐がよぉ。お前は毎回、どっか抜けてるよな』
「何じゃと? 無事戻って来たから良いではないか。お主こそ、今回は役立たずだったくせに」
『ンだとォ?』
帰ってきた途端、ぎゃあぎゃあと煩い社の中に、ぼくは横になったまま思わず吹き出した。
「む?」
「そうだね……やっぱりそうでなくちゃ、ね」
「何がじゃ?」
「ううん……ごめん。無理やり良い方に変えなくても……コックリさんたちは、やっぱりそのままでいて欲しいなって、そう思っただけだよ」
「そうか……うむ。まぁ、分かってくれたのなら良いんじゃが」
『ところで、向こうでどんなことされたんですか?』
こいしさんが不安そうに顔を覗き込んできて、ぼくは凍りついた。
『私たちずっと、心配してたんですよ?』
「え? えぇっと……そのぉ……」
『おう、そうだよ。怪我はなかったか?』
「いやぁ……あのぉ」
『どうした? 顔が赤いぞ? まだ熱があるんじゃないか?』
ぼくが目のやり場に困っていると、なまはげがあちらの世界から遅れて帰って来て、ニヤニヤ笑った。
「お前途中から、うっすら目ェ開けてたよな?」
「なまはげさん!」
それからぼくらは怒髪天を突いた3人に散々追い回され……ぼくは危うくなまはげと一緒に封印されそうになった……怪異の忿怒は三日三晩続いた。
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