#12 虹が完成した日 その⑤

再びソファーに座る7人。

葵と朱珠のコップに紅茶を注ぐ緑莉。


四葉 緑莉

『これ、ダージリンティー。

美味しいから飲んでみて。』


2人は緑莉に御礼を言った後、

葵はダージリンティーを一口飲み話し始めた。


綾女 葵

『私達は巡回チームと、

密偵チームに分かれて行動しているの。

巡回チームは、私とヒマワリちゃん。

密偵チームは、リンドウちゃん、

アサガオちゃん、ユリちゃんの3人だから、

バラちゃんには巡回チームに

入ってもらおうとおもっているの。』


神原 朱珠

『巡回ってのは、幽霊を探すって事なん?』


綾女 葵

『えゝ、そうよ。』


林藤 白華

『巡回チームは、

色々なエリアをパトロールして、

霊界へ行けずに困っている霊体を

無事に霊界へ送り届ける事を目的としていて、


密偵チームは警察と連携して、

事件や事故の多い場所に住み着く悪霊や、

人に憑依した悪霊を裁く事を

目的として作られたチームなんだ。


まあ、別れて動き出せる様になったのは、

つい最近なんだけどね。』


神原 朱珠

『チーム方は、

葵ちゃんと一緒って聞いて安心してん。

でもな、その裁くって何なん?

急に怖いねんけど・・・。』


綾女 葵

『それで使うのが、この球体なの。

この球体が作り出す霧の世界で、

生命が傷を負ったり命を落とす事は無いわ。

それは、もう理解してくれているわよね。』


頷く朱珠。


綾女 葵

『あの霧は、

"生命を守る空間"を作ると同時に、

"霊体に攻撃を可能とする空間"

も作り出しているの。』


神原 朱珠

『霊体に攻撃を可能とする空間?』


綾女 葵

『えゝ。

仮にあの空間でバラちゃんが料理をしていて

手を少し切ってしまったとしても、

バラちゃんは痛みを感じる事はあっても、

傷を負う事は無いわ。

でも、その代わりに

バラちゃんに憑いている霊体は、

痛みや傷を負う事になるの。』


神原 朱珠

『何やねん! それ! 嘘やろ!

て事はやなぁ・・・、

仮にやで! 仮にやねんけどな、

もし霧の中で私に隕石が降って来ら・・・。』


綾女 葵

『勿論、バラちゃんが死ぬ事は無いわ。

でも、バラちゃんに憑いている霊体は、

残念ながら即死でしょうね。』


震える朱珠。


百合 黄泉

『霊体の精神力の方が上回ったり、

悪霊に取り憑かれると

体を乗っ取られる話しは、しているの?』


顔を見合わせる葵と白華。

緑莉も謎の笑顔で斜め上を見上げている。


黄泉は、そんな3人を眺めながら呆れた顔で、

『嘘でしょ・・・。

そんな事も伝えずにメンバーにし訳・・・。』

と小さな声で呟いた。


神原 朱珠

『何て? 今何か怖い事聞こえたで!

乗っ取られるとか、怖いねんけど〜(涙)』


青ざめた顔の朱珠の右腕に、抱き付く橙羽。


日廻 橙羽

『大丈夫! 橙羽が守ってあげるから!

た・だ・しぃ・・・♡』


朱珠の右腕に伝わる程、

橙羽の胸の鼓動は高鳴っていた。


神原 朱珠

『あんたにだけは、嫌や!

見返りが怖過ぎる!』


橙羽の腕を振り払う朱珠。

『ぷー』と言い橙羽は、頬を膨らませている。


そんな中、朱珠を安心させようと、

『でも幽霊に会う事の方が稀だから、

そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ。

余り一人で行動する事も無いもんね。』

と言い、緑莉の方に目をやる紫月。


四葉 緑莉

『そうね。それよりも、

ロックは掛かるから大丈夫だとは思うけど、

"拳銃に弾を込めている事を忘れて

ホルスターに戻して歩いていたら、

偶然トリガーが引けて足を撃ち抜いた"とか、

アクシデントで込めた銃弾が爆発して、

足を損傷する事もあるかもしれないから、

そっちの方を気にした方が良いかも。』


悪気は無いものの、

ぽわんとした表情で放った緑莉の言葉は、

より朱珠の恐怖心を、

高めてしまったのであった。


魂が抜けたかの様に佇む朱珠と、

苦笑いを浮かべる白華と紫月。

黄泉に限っては、最早呆れて、

小説を片手に趣味の読書を始めていた。


神原 朱珠

『・・・で?

私の持つ武器って何なん?』


綾女 葵

『これよ。』


奥の部屋から持って来た、

拳銃とホルスターと銃弾を渡す葵と、

恐々と受け取る朱珠。


神原 朱珠

『銃弾は、一つずつ込める・・・。

銃弾は、一つずつ込める・・・。』


同じ言葉を、ボソボソと呟く朱珠。


百合 黄泉

『あ〜ぁ、壊れちゃった・・・。』


日廻 橙羽

『でも、壊れた朱珠ちゃんも可愛いかも♡』


苦笑いを浮かべる、白華と紫月。


そんな中、

『バラちゃん!

銃の使用登録をするから、

こっちの部屋に来て!』

と言いながら、

緑莉は奥の部屋へと入って行った。


葵と共に奥の部屋に向かう朱珠。

奥の部屋では、

緑莉がブルーレイカット眼鏡を着用して、

パソコンの前に座っていた。


綾女 葵

『その眼鏡も届いたのね。

とても似合っているわよ。』


四葉 緑莉

『少し大き過ぎる気もするんだけど、

変じゃ無いかな?』

 

神原 朱珠

『変な事、あらへん!あらへん!

物凄く似合ってんで!

普段から、それしといたらええわぁ!』


朱珠の声を聞き、

ソファに座っていた黄泉を除いたメンバーが、

緑莉の姿を見に部屋へやって来た。


朝顔 紫月

『わぁ〜! 本当だ! 似合ってる!』


日廻 橙羽

『ヨツバちゃん可愛い♡』


林藤 白華

『本当だね。 丁度良い大きさだと思うよ。』


四葉 緑莉

『そんなに似合ってる♪ 鏡!鏡!』


緑莉は、

鏡を取りに部屋に行こうと立ち上がったが、

葵や朱珠の顔を見て目的を思い出し、

再びパソコンの前に座った。


四葉 緑莉

『拳銃の持ち手の底面を見てみて。

黒い艶々した所があるでしょ。』


朱珠が拳銃を逆さにして、

持ち手の底面を見ると、

確かに、

そこには黒い艶々とした部分があった。


神原 朱珠

『ほんまや! 何なんこれ?』


四葉 緑莉

『それはセンサーなの。

そこに使用する人の指紋を登録する事で、

登録した人のみ、

その武器を使用する事が出来る様になるの。』


綾女 葵

『刀も拳銃も使用する前に、

そのセンサーに登録した指を、

登録した時と同じ向きで3秒翳す事によって、

刀は6分、

拳銃は5分間のみ使用する事が出来るの。』


林藤 白華

『拳銃はセンサーに触れてから

5分間使う事が出来るけど、

5分経過すると

トリガーを引く事すら出来なくなるんだ。』


朝顔 紫月

『刀は刃の部分が特殊な構造になっていて、

5分経過すると刃先が竹刀みたいになって

切る事が出来なくなるんだよ。』


神原 朱珠

『それだけ聞くと、

まだ刀の方が良さそうやなぁ。

だって竹刀みたいに使う事は出来るんやろ?』


綾女 葵

『そうね。

但し刀の方は、

一度その状態になってしまうと、

元の状態に戻してもらうには丸一日かかるし、

本社に連絡をして

本社からもらったパスワードで、

状態を元に戻す必要があるから、

少し手間が掛かるの。』


林藤 白華

『その点、拳銃の方は終業時間までなら、

何度でもロックを解除出来るんだ。』


神原 朱珠

『へぇ〜。』


四葉 緑莉

『じゃあ、登録するから

好きな指を好きな向きでセンサーに翳して。』


朱珠は左手の薬指の先端をトリガー側へ付け、

薬指の付け根側を拳銃の後方側に向かって

添わせる様に指を付けた。


四葉 緑莉

『登録完了!』


神原 朱珠

『早っ!』


朱珠は、この日から拳銃を使用する事が

出来る様になったのである。

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