#31
「後、ついでのようで何ですが、セラさんにも」
「え? 私にもあるの?」
「はい、料理包丁を打って貰いました」
「有難う。でもせっかくのアレク君からのプレゼント、使うのが惜しいかも」
「昔、俺の恩人が言っていた言葉なんですけど。
『道具は使う為にある。
どんな良い物でも、どんな思い入れのある物でも、
使われず飾られる道具は、憐れでしかない。
使いなさい。傷付けても構いません。壊してしまっても構いません。
使うことで、その道具に生命が宿るのだから』と。
だから、是非使ってください」
「……これまで使っていた包丁がそろそろ駄目になりかかっていたから、丁度良いわ。大事に使うね」
「はい」
◇◆◇ ◆◇◆
翌日。冒険者ギルドに行くとき、アリシアさんも付いて来た。
「試し斬り、するんだろ?
なら万一の時のバックアップ要員がいた方が良い筈だ。
というか、あたしもこの小剣ショートソードの試し斬りをしてみたいしな」
そういう訳でギルドに足を踏み入れると、いつも以上に騒がしかった。
「何が起こった?」
「
このままだと数日内にハティスに来る。そこで
「コボルトの数は?」
「ざっと50以上だ。ただ先日
「お
「ナイフが出来上がる前だったら、ちょっと面倒だったと思えば、悪くないタイミングだと思いますよ」
「と、言うってことは、参加決定、か?」
「俺はそのつもりです」
「よし、
☆★☆ ★☆★
一族単位で群れることが多く、最大で1,000頭単位の群れも過去に発見されている。
群れは最強の個体であるコボルト
基本的には【縄張り】を決めてそこで暮らすが、稀に群れ単位で移動することもある。
また例外的に、群れから逸れるコボルトもいるが、群れに付いていけない弱小個体か、逆に単独で生存出来る
群れには時々、
★☆★ ☆★☆
「先程
西の草原で暴走中のコボルトは、総数おおよそ80頭。それに魔狼が200頭ほどいるから、テイマーが少なくとも4頭はいる。
早ければ明日の深夜には、ハティスの街に到達する。
それ故ゆえ明朝に接敵し、一戦を以て殲滅することが期待される。
今日ここに集まってくれた
いつもは自分の身の安全を第一に、と言っているが、今回ばかりはそうも言ってられない。
この街を守る為に、死力を尽くしてほしい。以上だ」
今回のコボルト討伐依頼に参加する冒険者は、25人(鉄札21人、銅札3人、銀札1人)だ。
そしてこの世界の冒険者ギルドに於ける“ランク”は、必ずしもその冒険者の戦闘力の大小を意味しない。そのランクはあくまでも『信頼と実績』の証明に他ならず(だから『異世界転生物』にありがちな飛び級昇格のような制度はない)、冒険者の『信頼と実績』は戦闘力だけでは測れないからである。
それでも、高ランク冒険者はそれだけ多くの経験を積み、少なからず修羅場をくぐっている。それを頼りにする機会も、ないとは思えない。
だが単純計算で、一人当たりコボルト3頭と魔狼8頭
それにコボルトは無駄に知能が高いから、万一取り逃がすようなことになれば、復讐戦を仕掛けられる
そうなると、戦術的に動き、確実に
「今回の依頼のまとめ役を任されることになった、
時間もないから簡単に作戦を説明する。
まず全員で包囲網を形成し、その輪を縮める。
ある程度まで追い詰めたら、うちの魔法使いがその火炎魔法を効果範囲極大にして殲滅する。
その後、撃ち洩らしを掃討する。以上だ」
……単純、と言えば単純だが。
色々ツッコミどころが多く不安に思っていると、アリシアさんが小声で
「こういう大規模合同作戦の場合はね、作戦は単純な方が良いの。どうせ連携なんて出来る筈がないし。
お互いの邪魔にならないようにすれば、それが最低限の連携になるでしょ?」
と、教えてくれた。
「でも、火炎魔法を効果範囲極大で撃ち込むって、もしほかの冒険者を巻き込んだら……?」
「ああ、アレクは知らないのね。
火属性の攻撃魔法はね、たとえ巻き込んでも術者の仲間には被害がないの。
火精霊が与える術者に対する加護だと謂われているわ。
もっとも、術者が仲間だと思わない相手に対しては効果が発揮されるから、ここでちゃんと【ミスリルの翼】のメンバーに対して挨拶しておくのよ?」
成程。以前ゴブリン村でも考察したけれど、火属性の魔法は、可燃物も酸素も必要としない。だから本来は、「燃焼」や「火傷」といった物理的効果が生じることの方があり得ない筈である。
けれどこの世界の人たちは、「自然の火」と「火属性の魔法の火」の違いが判らないから、原則的に魔法の火も自然の火と同様の効果を生じさせる(正確には、被害者がその結果を受け入れる。「
その一方で、「味方の魔法では傷付かない」という思い込みが、自身の
だからこそ
そしてそんな“常識”があれば、万一仲間を巻き込み殺してしまっても「そいつは術者に
そこまで納得した上で、【ミスリルの翼】に挨拶に行くことにした。
今重要なことは、コボルトを討伐すること。それ以外のことは、今は考える必要はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます