#15

 カラン村で一夜を過ごし、すぐにハティスの町に帰還して冒険者ギルドに報告をした。




「……ごめんなさい!」


 受付のお姉さんギルドのうけつけじょうが平謝りするも、


「確かに、今回の一件はギルド側の事前調査の不徹底が根源にありますね」


というアリシアさんの糾弾きゅうだんが、現状を何より明確に表していた。




 今回の一件。そもそもカラン村と小鬼ゴブリン村の協定を事前に知っていれば、それだけで状況はかなり違っていたと思われる。ゴブリン側に交渉担当者がいて、話が通じるというのであれば、本来はまず話し合いの場を設けるべきだったからである。


 にもかかわらず、ギルドは真っ先に実力行使を選択した。これは、ギルドがその協定のことを知らなかったからであり、そのことを事前調査しなかったからである。


 加えて、全面戦闘しか選択肢が残っていなかったのだとしても、400匹規模のゴブリン村と全面戦闘するのであれば、少なく見積もって連携のとれる冒険者20人、または20人規模の冒険者を指揮出来る高位冒険者に依頼すべき内容となる。鉄札Dランクの冒険者1旅団パーティに対する依頼ではない。




 ギルドは今回の一件を重く見て、ゴブリン村との交渉を前提とした対応部隊を派遣することを決定。交渉担当者としてギルド職員を、実力行使の為に銅札Cランクの冒険者を30人ほど招集することにしたそうだ。




「それで、その

依頼クエストとは別枠で、もう一つ依頼を受けたいのですが」


「……帰って来たばかりなのに?」


「別枠とはいえ、続きです。


 ゴブリンどもがカラン村を襲撃したのは、何らかの事情があったから。その事情の調査が前回の依頼の本旨だった訳ですよね。けど、その襲撃に至る事前情報が想定と違っていた為、初期目標である襲撃の撃退のみで終わらざるを得なかった。


 なら今度こそ、その事情の確認のみの依頼を受注したいのですが」




「おいアレク。大丈夫なのか? お前の投げ投げスローイングナイフ・ダガーは、もう殆ほとんど残っていないんだろう?」


「今回は調査だけで戦闘はしません。旅団パーティ・リーダーに約束します、戦闘しなければならない状況になったら、すぐに逃げ出します」


「……わかった。旅団【ChildrenセラofSeraphこどもたち】の長として、アレクがその依頼を受注することを認める」




「そういう話なら、確かにギルドこちらから依頼しなければなりませんね。


 ただ、出発は明日にしてください。こちらも準備を整えますから」




◇◆◇ ◆◇◆




 ギルドの建物を出て、孤児院に帰り、今回の依頼の反省会をした。




「まずはアレク、すまなかったな。偉そうなことを言っておきながら、結局あたしは何も出来なかった」


「そんなことはないです。アリシアさんがいなければ、ゴブリンどもに包囲された時に死んでいました。


 アリシアさんの指示に従って行動していれば、上手くいけばあの時点でゴブリン村の存在を発見することが出来たかもしれないんですから」


「いや、それは買いかぶりすぎだろう。ゴブリンどもは複数の斥候せっこうを放っていたから、ついていけば包囲網の中、そうでなければ誘導され森の中を散々歩き回らせた挙句、夜の襲撃時に村に帰還出来ないようにしていたに違いない」


「それでも、こちらの危険は最小限で済んだはずです」


「そうだな。それは確かにその通りだ。冒険者は、誰かが守ってくれるなんてことはないから、まずは自分の身を守ることを優先し、次いで仲間を守ることを考える必要がある」


「その意味では、俺の行動は俺自身の身の安全をないがしろにしただけじゃなく、アリシアさんも危険にさらした。


 結果生還出来たからこうして反省会を開く余裕があるけれど、そう出来なかった可能性の方が高かったんですね」




「アレク。お前の単体戦闘能力はずば抜けている。が、多数を相手にすることを想定した能力じゃない。一対一ならかなりの相手でなければ一撃で勝負を決められる。だが、その一撃に耐えられる相手や相手が複数の場合、途端に年齢相応そうおうの、未熟なガキになり下がる」


「はい。加えて経験が浅いから、さかしら気に思索を巡らしても、いざ現場ではそれが全部すっ飛んで、場の空気に呑まれてしまうことになります」


「それは、経験がモノを言う。特に敵味方が多数入り乱れる集団戦を経験すれば、嫌でも呑まれないようにするコツがつかめるさ。というか場の空気に呑まれたら、その戦場で生き残れないしな」


「じゃぁ今回のゴブリン村への対応部隊にも参加を申し込んでみましょうか」


「……調子に乗るな。そもそもあれは銅札Cランクの依頼だろう。まだ鉄札Dランクのお前が受注出来る依頼じゃない」


「あ、そうでした」




◇◆◇ ◆◇◆




 そして夜が明けて。


 言われた通りギルドに来て例の個室に通されたところ、どこかしら狡猾こうかつそうなイメージの小男がいた。




「彼が今回のゴブリン村との交渉役を務めるギルド職員で、ヨシュアさんといいます」


「ヨシュアです。よろしく」


「はぁ。アレクです」


「アレクさんの調査は、今日を含めて二日で完了させてください。つまり明日夜に、カラン村に到着したヨシュアさんに調査結果を報告してください。


 仮に不十分であったとしても、明日夜の時点で分かっていることまでで結構です。


 ヨシュアさんは、その報告内容を前提に、ゴブリン村と交渉を行います」




 調査にかける日数は、正味丸一日。これはつまり、その情報にはあまり期待していないということだろう。勿論もちろんゴブリン村による再襲撃の可能性も考慮しているのだろうが。




「了解です。では明日夜、それまでに判明した情報を、カラン村に滞在中のヨシュアさんに報告します。カラン村ではどちらに投宿なさるので?」


「当然、村長の家になるだろう」


「わかりました。では日没後それほど間をおかず、村長の家に行きます」




◇◆◇ ◆◇◆




 アリシアさんに隠していたことがある。


 実は、長時間連続して〔肉体セルフ・操作マリオネット〕を使用していた反動で、全身筋肉痛でかなりつらい。


 けど、今回の一件が落着するまでは、休む気にならない。




 「転生者」ということで、この世界で生きることを“ヌルゲー”扱いしていた。その結果が先日の失態であり、その所為せいで自分のみならずアリシアさんまで怪我けがした。


 ならこの負債を返さないと、俺は自分がゆるせない。




 そう思いながら〔肉体操作〕を稼働させ、たった数時間でカラン村に到着し、そのままゴブリンの森に足を踏み入れた。




 現在の武装は、借りっぱなしの小剣ショートソード苦無くないが3本、そして投石紐スリング。そして全身筋肉痛でまともな戦闘が出来ない以上、姿を隠して戦闘を避け、なるべく多くの情報を仕入れることしか出来ない。けど、今はそれが求められている。


 その情報次第で、後続の対応班の仕事の難易度が変わるのだから。


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