19、わたしの進むべき道

 ありとあらゆる計画を立てた。


 あれをしようこれをしよう。


 のんびりしようと思ったのに、結局わたしはわたしのままで、日本にいるときと変わらずせかせか動いた。


 そんなわたしが足を止めたのは『ヘルシンキ大聖堂』の前だった。


 一言でいうと、圧倒された。


 圧倒されたのである。


 声にならなかった。


 大きかったというか、美しいというか。


 ホテルから出て市場へ行こうと向かった途中の道に普通にそびえ立っていて、え?これっていつもガイドブックとかでどどんと映っているフィンランドの中で一番の観光地なのでは?などと思ったものの圧倒されて瞬きをわすれたほどだったと思う。


 いきなり飛び出てきて、いきなりその場にそびえ立っていた。すさまじい存在感だ。


 その日の午後の予定は、ほとんどなくなった。


 ぼーっと大聖堂の正面の階段に座り、遠くの海や広く広く広がる空を眺めていた。


 風が心地よく、かもめの鳴き声がする。


 心地よいなぁ、と思った。


 とっても静かだった。


 座っていて、こんなにゆったり座ったのっていつぶりだろうと、静かに考えた。


 ずいぶん下の方で、観光客らしい女の子たちが楽しそうに写真を撮っている。


 もう少し先にはトラムが行き交っている。


 こんな世界もあったのだなぁ、とぼーっと景色を眺めていたら、いつの間にか暗くなってきてしまったほど時の流れを忘れた。


 かもめの声に耳を傾け、久しぶりにゆったり目を閉じた。


 なにをあわててきたのだろう。


 なんでいつも走っているのだろう。


 もやもや考えていた気持ちが一気に浄化された気分になった。


 悲しいことがあっても、涙も流れなくなっていた。大きな声で笑うことも減った。


 いろんなことで、自身の感情にふたを閉めていたような気がした。


 進むべき道は、これであっているのかわからない。


 でも、今までの生活があって、今のわたしがここにいるんだったら今までしてきたことは必然なことだったんじゃないか。


 きっとこれから先の毎日もつらくて後悔することもあると思うけど、また同じように十年後のわたしに笑顔でバトンが渡せたらいいな、となんとなく思った。


 そしたらすっと体が楽になった気がした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る