ストーリー:16 次なる課題


 ナツが帰宅するなり始まった騒ぎ。


「俺の配信を、もっともっとバズらせやがれ!!」


 その原因であるジロウの語って聞かせることには、次のような話だった。


「チャンネル登録者数が減った?」

「そう、そうなんだよ! 俺のチャンネルだけ!!」


 チャンネル登録者数の減少。

 見れば、確かにジロウのチャンネル登録者数は先週に比べて減っていた。


 もっと言うと、先々週からずっとそうだった。


 だからナツは、別段驚いたりもしなかった。



「おかしくねぇか!?」

「おかしくないな」

「あぁ?!」


 いつもの二間続きの畳部屋に移動して、いつもの仲間と合流してからのやり取り。

 ぐねぐねとイタチボディを伸ばして転がりまわるジロウに対して、ナツが向けるのは呆れ顔。


 ワビスケが入れてくれた麦茶を飲んで、ほっと一息ついてから。


「だって、ジロウ全然配信してないじゃん」


 スッパリと、その原因を口にした。



      ※      ※      ※



 ナツの指摘に、ジロウは驚愕の顔で抗議する。


「いや、してるだろ!? 週に2回も!」

「うん。少ない」

「嘘だろ……!?」

「今はVtuber戦国時代。チャンネル登録者数を伸ばしていこうっていうのなら、最低でも週に3~4回は何かしらの発信がないとダメだね」

「えぇ……」

「現に登録者数が伸びてるワビスケはそのくらいやってるし、ミオに関しては……」


 言いながら、ナツが指をさす。

 その先には……。


「うおー! 走れワンオ! タイムがねぇ!!」


 ファンステ5――ファンステーション5でアクションゲームに興じるミオがいた。


「あんな調子で遊びながら、ほぼほぼ毎晩配信してるしね?」

「ぐぬぬ……」


 唸るジロウが、ナツに買わせた自分専用タブレットをタシタシと叩き、ミオのチャンネルを開く。


「ぐぉっ、マジか。千人越えてやがる!?」

「ミオはうちの出世頭だからな」


 自身のチャンネル登録者数と見比べて愕然とするジロウを、ナツは憐れみの目で見つめていた。

 そんな様子を、ワビスケとオキナは遠巻きに見てため息を吐く。


「ほぅれ、言わんこっちゃない」

「なるべく真面目にコツコツやった方がいいって、分かってたよね。ジロウさん?」

「ぐぬぬぬぬぬ!」


 どうやらすでに、彼らの内で似たような話が出ていたようで。

 この現状は、当に予見されていたのであった。



「っていうか、ジロウはオキナと同じで数字の上下を気にしてないんだと思ってたよ。前にオキナは自分のペースでやるって言っててさ」


 いったん麦茶で喉を潤してから、ナツが言う。

 4人の中でオキナは最も配信数が少なく、その数、週に1回程度。


「ワシは思いついたときにやるくらいでちょうど良いでの。酒盛りというのはそういうものじゃ」


 とは本人の談だ。

 酒を飲みつつゆらゆら話すその配信は、会えたらラッキーとそこそこ好評である。



「だからてっきりジロウもそうなんだって」

「んなわけあるか!」


 ナツの言葉にタブレットをパシンと叩き、心外だといわんばかりにジロウが跳ねる。


「ようはこれ、番付だろ? 数字がでけぇ奴が偉いんだろ?」

「まぁ、間違ってはいないかな」

「だったら、高けりゃ高い方がいいに決まってんだろ!」


 飛び跳ねながらのたまう、まったくもってその通りの意見に。


「そこまで分かってるならなんで今日まで放置してたんだ?」

「うぐっ!!」


 まったくもってその通りの言葉を返され、動きを止めた。


「そ、それは……」

「それは?」


 問いかけられて、ジロウはもじもじしたり、チラチラとナツを見たり、後ろめたさ全開といった様子で言い淀む。

 それでも黙って待ち続けるナツに観念すると、ようやくボソボソと答えを口にした。



「……だったから」

「ん?」

「初配信の反応が思ったよりいい感じだったから、テキトーにやっても上手くいくだろって思ったんだよ!!」

「……あー」


 それはいかにもジロウが考え至りそうなことだと、ナツは思った。

 困った時の頼れる兄貴は、困ってない時は大体頼りにならない。


 今回みたく調子付いてるときなんかは特にそうだと、ナツはよーく知っていた。



「畜生! チョロいもんだぜって思ってたのによー!」


 煮るなり焼くなり好きにしろとばかりに、ジロウが畳の上で大の字になる。

 そんなジロウのお腹をナツは遠慮なくぷにぷにしながら、苦笑しつつ声をかけた。


「まぁまぁ、気づいたんなら対策していけばいいだけだからさ」

「対策ねぇ……妙案でもあるのか?」

「とりあえず配信の数は増やすとして、あとはその中身について……」


 ジロウがこういう状態のときは、自分が頑張る番。

 そんなことを考えながら、お腹ぷにぷにを継続しつつ本格的に考え始めたところで。


「あ、今後の配信についての話? ボクも聞いてていい?」

「ちょっと待った! だったらアタシも混ぜろ!」

「であれば、ワシも加わらねばの」


 バラバラに過ごしていたいつメンが、いよいよ二人の会話に本格参戦と相なって。


 本日のAYAKASHI本舗。作戦会議の始まり始まり、となるのだった。



      ※      ※      ※



「やっぱゲームだぜ、ゲーム! んでもっと楽しいことしたい!」

「見てくれてるお兄さんやお姉さんに、感謝の気持ちを伝えられたらいいなって思ってて」

「面白そうならなんでもやってみるつもりじゃぞ。あいであ次第じゃな」

「なんでもいい、バズりてぇ!!」

「……なるほど」


“これからの配信、どんなことがしたい?”

 ナツの問いかけに対して返ってきた答えは、それぞれのこれまでが詰まっていた。


(ミオはとにかくゲームを楽しんでる。プレイの上手下手を問わずに視聴者さんとあーだこーだ言い合いながらの実況プレイ。その幅をもっと広げていくだけでまだまだ伸びていけるはず。ワビスケは視聴者さんを兄姉に見立てて触れ合ってるのもあって、交流の形が独特だ。それに乗ってくれてる人たちの心をガッチリ掴むためにも、新しい配信パターンを模索したい)


 出された意見を汲み取って、ナツは次の道を考える。

 どう配信したらバズれるかについては、自分が一番考えてきたのだから。


(オキナに関しては、面白そうだと感じたらなんでもやってくれるだろうって思える反面、そのなんでもを選び間違えたときのリスクがある。ジロウは……ジロウはどうしよう)


 必死に頭を捻って考える。

 手元に用意したノートの上を、いくつもの言葉が滑っていく。


「ふーむ」

「どう、ナツ。何かいい案浮かびそう?」

「そうだな」


 悩みながらも、ナツの頭にはいくつかの案が、形を取ろうとしていた。


「とりあえず、ミオとワビスケには案が出せると思う」

「ホントか、ナツ!?」

「わぁ! ありがとう!!」

「オキナは、ごめん。もうちょっと待って」

「構わんぞ。ゆっくり考えるといい」


 ナツからの心強い言葉に喜ぶ、ミオとワビスケ。

 オキナも、待つことに異論はないと、余裕のある顔で頷きを返す。


「おい、ナツ。俺は!? 俺にはなんか案あるか!?」

「ジロウは……とりあえず配信増やそっか」

「ぐぬぬ。もっとこう、ババッて登録者数増える奴思いついてくれ!」


 ただ一人。

 ジロウだけは、ナツの言葉に納得できない様子でビタンビタンと跳ねていた。



「ひとまず、一つひとつに手を打っていこうと思う。まずは――」


 こうして。

 AYAKASHI本舗のさらなるバズりを目指した配信計画が、ゆっくりと動き始める。


    ・


    ・


    ・


 あやまたず、トリックスへと名を変えたSNSにて告知された方針表明には。


『“ガラッパのミオ”、新企画!!』


 とのメッセージが発信されるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る