彼女たちがヤンデレであるということを、俺だけが知らない~「ヤンデレっていいよね」って言ったら命を救った美少女転校生と、幼馴染のような義妹によるヤンデレ包囲網がはじまった。

高野 ケイ

第1話 命を助けた美少女が偶然? 転校してきた件について

 中学の三年生の冬のとある日の夕方に俺はヤンデレ少女をさがすために、美少女の幽霊があらわわれた噂される廃ビルに侵入していた。 



『ヤン♪ ヤン♪ ヤンデレー♪』



 イヤホンからは『ヤンキス』というヒロインが全員ヤンデレという推しのギャルゲーのオープニングをながして自分のテンションをあげながらさびれたビルの中を探索する。


 なんでそんなとこにいるかって? だって、幽霊になってまで何かを想えるなんていいヤンデレの資質があるとおもうんだよな。

 正直ヤンデレ美少女と出会えるならば幽霊でも構わないのだ。というかリアルにヤンデレってなかなかいなくない?

 

 ガタンと遠くで音が響き、俺は思わず噂の美少女幽霊か笑みを浮かべる。



「あいつなんでまだいるのよ……もう半日もたっているのに……」



 よほど焦っていたのか俺にも気づかずに少女があわてて奥の部屋から出てくるのが見えた。その顔には冷や汗が垂れていた。


 まさかこの中に美少女幽霊か!! 


 と俺は興奮を隠さずに部屋をみるとそこには信じられない光景が広がっていた。長い黒髪の少女が手首を縛られた状態で放置されているのだった。



「おい、マジかよ!! 君が噂の幽霊か!! 結婚を前提につきあって……」



 思わぬ光景に興奮しながらて駆け寄りながら告白をしようとすると、スカートから出ている色白い生足が目に入る。

 あれ、人間やん。



「誰ですか……美咲ちゃんのお友達ですか?」



 はじけるようにして顔を上げた少女はきめ細やかな長い黒髪に、レースのあしらわれた白いワンピースをつけた色白の美少女だった。

 俺の義妹と同じくらいの美少女である。ただし、大きな違いが一つある。それは彼女の大きな胸元だ。顔を上げたときに揺れるそれはなんとも目の毒だった。

 そして、彼女の手首にはなぜか縄で縛られているのが見える。



「いや……俺は……」



 なんでこの子はこんな状態でいるんだ? と状況が読めずに言葉を濁しながら天井に視線をやった時だった。廃墟だからか、天井が揺れているのに気づく。

 先ほどの少女が乱暴に扉を開けたのがトリガーになってしまったのかもしれない。



「あぶない!!」

「きゃぁぁぁぁ!?」



 それはとっさのことだった。俺は彼女を引き寄せるようにひっぱり、そのまま抱きしめるようにして倒れると轟音と共に少し前まで彼女がいた場所に天井の一部が落下していた。



「あぶねぇ……」


 俺は一息つくとともに、少女を救うことができた安心するのだった。





 あの後、美少女と共に廃墟から出て、近所の公園に避難して、一息ついていた。幸い二人とも無事である。

 俺って天才では?



「あー、お互い無事でよかったな。でも、なんでこんなところにいたんだ?」

「それは……友達と喧嘩しちゃって……彼女がくるまであそこにずっといたら許してあげるって言われたんです……」



 美少女は言いにくそうに顔をそむけるが、それで俺はいろいろと察してしまった。すれ違った少女が友達なのだろう。

 そして、あんな廃墟に縛って放置するなんて……不審者に襲われる可能性だってあったのだ。先ほど外した縄をみながら俺はなんと伝えようか迷う。



「……いいんです。私にとってあの子は一生一緒にいたい大切な親友でしたが、彼女にとってはそうじゃなかったんですよね……」



 うつむく少女に俺は何といえばいいかわからず、しばらく悩んだ後にでたのはありがちな言葉だった。



「あー、その……まあ、なんかいいことはあるよ」

「はい、さっそくありました!!」



 彼女は俺の適当な慰めになぜか満面の笑みを浮かべていた。それを瞳はなぜか俺をまっすぐと射抜いており、不思議に思ったが、まあ元気になったのならばいいだろう。



「あの……何かお礼を……」

「いえいえ、気にしないでください。では」!!



 俺は少女の言葉を優しくさえぎりながら華麗に立ち去った。確かに美少女と仲良くなるチャンスではあったが、俺が興味があるのはヤンデレ少女だけである。ただの美少女に興味はないのだ。俺が興味あるのはヤンデレ美少女だけなのである。



「あ……」



 何か言いたげな少女には申し訳ないが早々に帰路につかせてもらうのだった。


☆☆




「あ……」



 私はどんどん遠くにいってしまう少年の背中を見送っていた。自分の命も危ない状況だというのに他人を助け、見返りを求めないその精神はなんと素晴らしいことだろうか。

 そんな彼を好ましく思うと同時にもう会えないと思うと寂しさが胸を襲ってくる。もっと強く引き止めればよかった……と後悔している私の目に入ったのは彼が落とした手帳だろうか?

 


「これは……」



 拾ってみるとそれは生徒手帳であり、学校と名前が書いてあるのがわかる。難しい苗字だからだろうか、フリガナまでふってある。



「安心院春人君っていうんですね……素敵な名前……それに私と同い年なんて……これは運命ですね」



 彼が言ったようにさっそく良いことがあったようだ。自分の中で感情が高鳴っていき自分の頬が急速に熱くなっていくのを実感する。



「安心院春人君……」




 少年の名前をもう一度つぶやくと体がほてっていくのを感じ、彼が走っていた方を見つめて、どこか狂信的ともいえる目で妖艶な笑みを浮かべるのだった。


☆☆




 中学を卒業し、いよいよ高校生である。俺はヤンデレ美少女との出会いへの期待を胸に高校のクラスを確認し教室へと向かう。

 そして、指定された席に座ると前に座っていた男が声をかけてきた。



「よ、安心院。高校でもよろしくな」

「ああ、藤村か……代り映えしない顔だなぁ……」

「お前ね……友達にそんなこと言うなよ……だいたい中高一貫のうちで新しい顔なんてあんまり期待できないだろ……」



 げんなりした顔で俺にツッコミを入れるのは中学からの親友である藤村和人である。そこそこイケメンだがあほなところもあり、好感が持てる男である。

 そして、非モテ同盟の仲間でもある。



「だけどさー、高校生活だぜ。ラノベや漫画ならここで絶世のヤンデレ美少女がくるはずだろ……」

「本当にお前のヤンデレ好きはやばいな……まあ、あんなことあったから仕方ないけどさ……それよりも、俺は心に闇をかかえた皆にはクールな美少女が現れて俺をののしってくれるのを祈るよ……」

「「こいつらいつもとかわらないな……」」



 俺たちがいつも通りくだらない会話をしていると、いつも通り顔見知りのみんなが白い目で見てくる。そんないきなり人が変わるはずないだろ!! ゆーて、中学から高校にあがっただけだぞ。

 そんなことを思っていると教室がざわめく。



「あれは……」

「すっごい綺麗な人……」



 先ほどの俺たちのやりとりを忘れたかのように皆が騒ぐのも無理はないだろう。中高一貫であるうちでは珍しく見慣れない人間で、しかも、絶世の美少女が教室に入ってきたのだ。

 だが、俺は違う意味で驚いていた。



「えーっと、私の席は……」



 その美少女は黒板に書いてある座席表を見て、俺の隣へやって来くると、俺と目が合うと大きく目を見開いてから、はにかむように笑顔を浮かべた。



「あなたはあの時の……奇遇ですね。安心院(あんしんいん)さんとおっしゃるのですね、良い名前ですね」

「……君はいつぞやの……」


 そう、彼女は俺が廃墟で助けた美少女だったのである。俺はこの偶然に思わず驚きに大きく目を見開くとともに思う。

 ああ、これが偶然じゃなくて、必然だったりしないかなぁ……などと……



「白金想と申します。家庭の事情で高校からこちらに編入してきたんです。知らない人ばかりで不安でしたが、安心院くんと一緒のクラスになれてうれしいです」

「ああ……俺のことは親しみをこめて安心院君と呼んでくれ……なんかわからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ。俺は中学からこの学校だからさ」

「はい、ありがとうございます。安心院君」



 可愛らしくとある漫画風に自己紹介をしたのだがスルーされてしまった。無茶苦茶恥ずかしい……などと思いながらも俺の胸はわくわくしていた。だって、たまたま助けた少女が同じ高校で同じクラスのしかも隣の席になったのだから……

 なにこれ、ラノベかな? もしかしたらヤンデレ、俺のストーカーだったりしないだろうか?



「本当に……優しい……この人なら……」

「うん……?」



 チャイムの音でよくは聞こえなかったが、白金さんが何か言ったきがして、視線をおくると彼女はなぜかこちらを見つめいて……。その瞳はどこかなまめかしく、何か深い感情を秘めているようで……俺の頭からしばらく離れなかった。



 

★★


 私は驚きの目で見開いている安心院春人君を見て胸が満たされていくのを感じた。彼はちゃーんと私を覚えてくれていたらしい。

 そして、二言三言会話をするだけで、どんどん歓喜で体があつくなる。だって……



「うふふ、安心院君。これでいっぱい一緒にいられますね……」



 気分が高揚しているのを隠すように彼には聞こえないようにつぶやくのだった。


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